娘「示談で済ませるって言ったのに、どうして・・・」 父「いったいどんな話をしたんだ。念書はとったのか」
交通事故を起こせば誰もが動転してしまう。だが、被害者の救済にあたり、警察を呼び事故処理をする必要がある。怠れば、保険金が支払われない恐れがあり、刑事罰も問われかねない。
一方、そんな時に相手から「時間もないから示談で済ませよう。5万円でいい」などと言われれば、応じてしまう人もいるだろう。交通事故のよる損害賠償責任は民事上の問題なので、双方が合意すれば示談は法的に有効だ。
だが、交通事故訴訟に詳しい石田雅彦弁護士は「現場で示談に応じるのは危険。不完全な契約だと、決着しないケースもある」と指摘する。
典型的なのは口約束の示談。口頭でも契約は成立するが、文書を交わさないと裁判になった際、示談成立を証明できない。「5万円は当座の見舞金。後から生じる治療費は別だ」などと言われれば拒めないこともある。
娘「相手が書いた示談書があるのですが・・・」
弁護士「清算条項が見当たりませんね。賠償請求が続く可能性があります」
示談書があっても安心といえない。「示談書の記載事項以外、この事故に関しては、XとY個の間にはなんら債権債務の存在しないことを確認する」などという清算条項の有無がポイントだ。「見舞金5万円払う」などとあるだけでは、賠償義務が残っていると考えられる。
事故の相手が運送業者などの場合、備え付けの示談書へのサインを求められることもある。だが、石田弁護士は「事故直後に、示談書の内容を冷静に判断することはまず不可能」と指摘する。
その場では、双方の連絡先などを交わし、落ち着いてから行動することが肝要という。
清算条項を盛った示談書を交わしても、問題を解決したとは言い切れない。示談の時に予想できなかった損害が生じた場合、賠償請求される恐れがあるからだ。被害者が会社の重要な役職者の場合、会社から「逸失利益」の賠償を求められる可能性もある。
1968年の最高裁判決は、代表者だった薬剤師の交通事故に絡み、薬局が被った逸失利益の賠償を加害者に命じた。示談交渉サービス付きの任意保険に入っているなら、軽微な事故に見えても保険を使い、交渉も保険会社に任せるのが無難と指摘する関係者も多い。
父「娘は任意保険に入っていませんでした」
弁護士「日弁連の交通事故相談センターに相談した見たらいかがですか」
事故を起こせば、民事上の損害賠償責任、相手の被害程度に応じ刑事責任を負い、免許停止などの行政処分も受ける。自動車損賠賠償責任保険(自賠責保険)への加入は、義務付けられているが、任意保険に比べ保険額が少なく、示談交渉のサービスもない。
自賠責保険しか加入していないドライバーが事故を起こした場合は、
①自分で示談交渉する
②個別に弁護士に示談を依頼する
③財団法人日弁連交通事故相談センターなどに相談する
などの方法が考えられる。同センターでの相談や示談斡旋は無料だ。
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