「お母さん、ぼくが生まれてごめんなさい」 向野 幾世著 扶桑社文庫
是非、お読みください。
このような素晴らしい本をあまり解説すると、感情が入りすぎるので、ひとりの少年の詩のご紹介と、ほんの少しの解説をさせていただきます。
ごめんなさいね おかあさん
ごめんなさいね おかあさん
ぼくが生まれて ごめんなさい
ぼくを背負う かあさんの
細いうなじに ぼくはいう
ぼくさえ 生まれなかったら
かあさんの しらがもなかったろうね
大きくなった このぼくを
背負って 歩く悲しさも
「変わった子だね」とふりかえる
つめたい視線に 泣くことも
ぼくさえ 生まれてこなかったら
ありがとう おかあさん
ありがとう おかあさん
おかあさんがいるかぎり
ぼくは生きていくのです
脳性マヒを 生きていく
やさしさこそが 大切で
悲しさこそが 美しい
そんな 人の生き方を
教えてくれた おかあさん
おかあさん
あなたがそこに いるかぎり
通称 やっちゃん 山田 康文さん
脳性小児マヒの少年です(なくなられましたが)
著者の向井さんが、言葉を言い、それが合っていると、からだも動かない、しゃべられないやっちゃんは、ウインクをします。間違っていると舌を出します。
ごめんなでは、舌。ごめんなさいねでウインク。その気の遠くなるような行いで、この詩は作られました。本を読むのが苦手だとか、手紙を書くのが苦手だとか、そんなことを言う私たちのなんと恥ずかしいことでしょうか。
是非、この本をお読みください。
では、やっちゃんが生まれたときのお母さんの詩を紹介しておきます。
可愛い康文よ
あやせば笑い
お腹がへり 眠くなったら泣いている
母の顔を覚え 兄の声に喜び
普通のこと変わりないのに
おもちゃをじっと見つめていても
持って遊ぼうとはしない
お前の手や足は
なぜ そんなに硬いのだろうか
首はどうしてしっかりしないのか
背中をそり返らせて
母のひざに 座らせようとしても
なかなか腰をまげない
母は 憂える
同じに生まれた子供を見れば
母の心は暗い
かわいそうな康文よ
妊娠中の過労から
お前をこんなにした
おろかな母を恨んでおくれ
許しておくれと
すやすやと昼寝する
赤い顔に そっと涙を落とす
ニ、三日前 ソ連が
人間衛生を打ち上げた
その生還に成功した
科学はどんどん進んでいくのに
お前たちの発育を助ける
すばらしい薬は
まだどこの国でもできないのだろうか
もしできているなら
どんな遠いところまででも
お母ちゃんは買いに行くのに
けれど康文よ
負けてはいけない
よく耐えておくれ
母もつらいが
お前はもっともっとつらかろう
しかし
勝つのです
母と力を合わせて
歩けるようになるまで
学校へ行けるようになるまで
すべてにがんばりましょう
PS やっちゃんは、床ずれができるのがかわいそうと思ったお母さんが、少しだけからだをうごかしてあげて、家事をしにいったときに、うつぶせになってしまい、自分で寝返りができないことから窒息死してしまったそうです。おかさんは、なげきになげいたそうです。
この本は、その他にも、たくさん素晴らしい人生が載っています。私たちよりもはるかに素晴らしい人生が。
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