企業においても、収益や実績等、外部環境対応していくことは論じられていても、社内の統治に眼を向けられていないケースがたくさんあります。一緒に勉強していきましょう。
【文韜の巻 第一 文師編】
周の文王が刈りに出かけようととしたとき、史官の編(へん)が吉凶を占って、こう語りました。
「渭水(いすい)の北で狩をしたならば、大きな獲物があります。それは竜でもありませんし、みずちでもありません。また、虎でもありませんし、ヒグマでも
ありません。占いによりましたら、公侯を得ることになっております。たぶん、あなたさま師傅(しふ)を授けて補佐させようという天の思し召しでございま
しょう。しかも、その方は、あなたばかりではなく、これから三代にわたって補佐してくれるはずです」
文王「そのような卦がでたのか」
編「はい、その昔私の祖先が舜(昔の名君)のために占ってある賢人を手に入れたことがありますが、そのときの卦と同じです」
こうして文王は、三日間身を清めた後、狩猟用の馬車を駆って渭水(いすい)の来たで狩をしました。そして、ついに茅(かや)に座って釣りをしている太公望を見出したのでした。
文王「釣りを楽しんでおられるのですかな」
太公望「君子の楽しみは志を実現すること。小人の楽しみは物を手に入れることだといわれます。私が釣りをしているのも、君子の楽しみに似ています」
文王「ほほう、どこが似ているのですか」
太公望「釣りには、三つの意味が含まれています。まず、餌で魚を釣るのですが、それは禄で人を召抱えるのに似ています。次に、釣られた魚は死んでし まいますが、それは召抱えられた人が命を投げ出して働くのに似ています。また、小さな餌では小さな魚しか釣り上げることはできません。釣りというのは、た んに魚をとらえるだけのことですが、このような深い道理が含まれておりまして、そこから政治のあり方まで見通すことができるのです。」
文王「その道理とやらを教えて欲しい」
太公望「深い水源があって水が流れ出し、その流れのなかで魚が成長します。これが道理です。深く根を張って木は生長し、その木に実がなります。これ も道理です。また、志を同じくする君子が密接に協力してこそ、天下の大事を成し遂げることができるのです。これも道理です。ことばは道理を飾り立てるもの ですが、率直に真情を吐露することが最高の親切というもの。このさい、はばからずに真情を申し述べてみたいと思いますが、聞いてくださいますか}
文王「仁者だけがよく諫言を聞きいれ、真情を吐露したことばに耳を傾けるというではないか。遠慮なく申してみるがよい」
太公望「釣り糸が細くて餌がはっきり見えれば、小さな魚が食いつきます。また、釣り糸が中くらいの太さで餌が香ばしければ中くらいの魚が、釣り糸が
太くて餌が大きければ大きな魚がくらいつきます。このように、魚は餌にくらいついて釣り上げられるのですが、人間もそれと同じこと、禄によって釣り上げら
れて君主に仕えるのです。ですから、餌で魚を釣るように、禄で人を釣れば、どんな人物でも仕えさせることができます。また、重臣の地位を餌にして人材を集
めれば、どんな国でもとることができますし、諸侯の地位を餌にして人材を集めれば、天下も取ることができます。
しかしながら、どんなに人材を集めても、その心をつかんでいなければ、必ず逃げ去られてしまいます。口には出さなくても、徳さえ内に秘めていれば、その
光は遠くまで及んでいくのです。聖人の徳のなんと微妙なことよ。知らぬ間に人々を招き寄せるので。聖人の配慮のなんとすばらしいことよ。人々の心をとらえ
てはなさないのです」
文王「どうすれば人々の心をとらえて、天下を帰服させることができるのか」
太公望「天下は君主一人のものではなく、天下万民のものです。天下の利益を共有しようとすれば、天下を手中に収めることができますが、独り占めにし ようとすれば天下を失ってしまいます。天は時をつかさどり、地は財を生みますが、これを万民と分かち合ってこそ、仁といえます。仁のある人物に、天下の人 々は帰服するのです。死にそうな人や困っている人を助け、心配している人や苦しんでいる人を救ってやる。これを徳といいますが、このような得のある人物 に、天下の人々は帰服するのです。また、人々と憂いも楽しみも好みも同じくすることを義といいますが、このような義を実践している人物のもとに、天下の人 々が集まってくるのです。さらに、人間は死を嫌って生を楽しみ、徳を好んで利になびくもの。人々に生と利を保証してやるのは、道にほかなりません。ですか ら、道に則った政治を行えば、おのずから天下の人々を帰服させることができるのです。」
文王「おっしゃったことはまさに天の声。謹んで承りました」
そういって、自分の車の乗せて、師として迎えたのでした。
【解説】
太公望とは、文王の先代の王(父親)のことを太公と呼び、その先君大公のころからまもなく聖人が現れ周を隆盛に導くと言われていました。大公が待ち望んだ人物なので太公望といいます。
太公望が言っている聖人とはまさに日本の皇室ですね。
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