さてさて、アフロディテとアドニスの恋など、最初からあってはならない実らないものだったのです。でも、それは、永遠に年をとらないアフロディテの息子 エロス(ローマ神話ではキューピット)の矢の仕業だったのです。実の母親でさえ、エロスの矢で恋をしてしまうのですから、いろんな事件を起しています。そ のひとつに、太陽神アポロンとダフネの恋があります。これも報われません。何がキューピットだい!
エロス(以下、エ)「おっちゃん、僕の弓はそんなんじゃないんだよ。僕の弓にかかったら、おっちゃんだっていちころだよ」
ア「ふん、そんなおもちゃの弓矢にあたっても、なんともなるわけないじゃないか」
エ「気をつけてね、油断しているときに打ち込むから」
ア「いいぜ~」
アポロンの方は、すぐに忘れましたが、エロスはよく覚えていました(いじめた方は、忘れますが、いじめられた方は覚えているものです)。家に戻る と、背中から二本の矢を取り出しました。一本は金の矢。もう一本は鉛の矢です。金の矢に当たった者は、恋にこがれ、鉛の矢に当たった者は、どう愛されても 相手のことを絶対に好きになれません。
エロスは、金の矢をアポロンに、鉛の矢をダフネに打ち込みました。ダフネは、河の神 ペーネイオスの娘で、とても美しく、求婚者も何人もいます。でも、まだ、恋に興味がなく、結婚する意志はありません。
アポロンは、金の矢を射られたことから、ダフネに激しい恋をします。目覚めているときは、日がなダフネの姿を追い求め、夜になれば、夢の中にダフネの姿が浮かび上がります。
もう、我慢ならず、道で待ち伏せをして、ダフネに声を掛けますが、ダフネは逃げ出してしまいます。神々の中でも、際立って凛々しいアポロンも、ダ フネの目には、ただのおじさんにしか映らなかったのです。でも、冷たくされればされるほど燃え上がるのが恋。アポロンは決心をしました。
ア「ダフネよ。振り返ってよく見るがよい。私はオリンポスの神々の一人、大勢の娘たちに慕われている、あのアポロンなのだ。けっしてお前に危害を加えるつもりはない。どうしてそんなに私を嫌うのだ。まるで狼を恐れているように」
ダフネ(以下、ダ)「・・・・・」(その瞬間にダッシュで逃げ出す)
ア「待ってくれ、どうしてそんなに私を嫌うんだ。私はアポロンだ。竪琴を弾いては、並ぶものなし。歌声は妖精の心もとかす。悪しき病から人々を救う。お前の愛を求めている私の姿をよくみてくれ」
それでもダフネは逃げます。逃げる姿がまた美しい。
逃げるダフネ、追うアポロン。でも、少女の足は、神の足にはかないません。ついに追いつきました。
ダフネが叫びます。「お父様、助けて。私は、いつまでも清らかな体でいたいの。たといどのような物に姿を変えても」
父である、河の神 ペーネイオスは、この願いを聞きました。ダフネの叫びが終わるとき、彼女のからだに激しいしびれが・・・。
全身の肌が急速にこわばり、褐色の粗い樹皮となりました。風にたなびいていた髪は、たちまち緑の葉となり、天に向かって差し伸べられた腕は、そのまま木の枝となりました。あれほど速く走っていた脚は、大地に張り付き地中にめり込んで根をはりました。
アポロンは愕然とします。彼が捕らえ、抱き寄せたものは、一瞬にしてダフネから変わった月桂樹でした。ア「なんたることか」。三日三晩、アポロンは月桂樹の下で泣き続けました。
でも、ダフネはよみがえりません。アポロンは、月桂樹の枝を切り、それを輪にして冠をつくりました。
ア「愛するダフネよ。お前は私の妻になってくれなかったね。だが、私はお前のことは忘れられない。其の愛の証にこうしてお前の枝で冠を作り、いつまでも私
のそばに置いておく。そればかりではない。戦場で、あるいは競技場で、すばらしい勲をたてた若者には、きっとこのお前の枝を与えて頭に飾らせよう」
今でも、オリンピックなどで、勝者の頭に月桂冠が飾られますが、それはこの故事から来ています。
ねっ、面白いでしょ?次回も楽しみにしてくださいね。
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