いえ、それまで、地上には女というものが存在しなかったので、エピメテウスは女と認識することすらできなかったのでしょう。なんだか自分たちとは似ているけど、美しい生き物がそこにいるのです。
エピメテウス(以下、エ)「お前は誰だ?」
パンドラ(以下、パ)「私はパンドラ」
エ「パンドラ?」
パ「私は女。ゼウス様からあなたがたに贈られてきたプレゼント」
エ「へー」
パンドラの「パン」は「すべて」の意味です。「ドラ」は「贈り物」です。彼女は神々からのすべての贈り物としてこの世につかわされたのでした。
美の女神アフロディテ(ビーナス)からは、雅な美しさと触れれば散らんといった媚態を、ヘルメスからは恥知らずの心と小ずるい知性、芸術の女神アテネからは、身を美しく装ういっさいの技術を授けられていました。
見たこともない美しい生き物に、エピメテウスの心は高まり、体が熱くなりました。薄衣の下では、形のいい乳房がなだらかな曲線を除かせています。恥毛の下から底知れぬ喜びが潜んでいるように思えてなりません。
パ「家に入っていい?」
エ「もちろん」
かねて兄のプロメテウスから「ゼウスからの贈り物にはろくなものがないから受け取るな」といわれていましたが、もうエピメテウスは我慢がなりません。それに、エピメテウスは「後で考える人」です。「まあ、いいや」と考えたのでしょう。
地上にはそれまで女が存在しませんでしたから、エピメテウスは女の抱き方を知りません。近寄り、パンドラを触ったり、なでたりしていました。パンドラはすべてを神から教えられていますから、当然男女の営みを知っています。
パ「唇はなんのためにあるの?」 エ「食べ物を食べるため」 パ「それだけ?」 エ「話をするため」 パ「それだけ?」 エ「ほかに何かあるの?」 パ「そうよ」
パンドラはしなやかな腕を伸ばしてエピメテウスの方を抱き、キスをしました。
パ「乳房はなんのためにあるの?」 エ「わからないよ」 パ「静かに触ってみて」
パンドラはうっとりとします。エ「気持ち言いの?」 パ「うん」
次にパンドラの手が男の感じやすい部分に伸びます。
こうしてエピメテウスは人類初のセックスをしたのでした。一度セックスの味を知ったら、簡単に忘れられるものではありません。エピメテウスは何度もパンドラを抱き、官能に酔いしれました。
ところで、パンドラが地上に降りたときにひとつの箱を持っていました。その中に何が入っているかは、パンドラもわかりません。
エ「その箱はなんだ?」
パ「私にも分からないの。神様にいただいたの。でも、絶対にあけちゃだめだって」
エピメテウスとの愛の日々が始まってからというもの、パンドラはすっかり地上の生活を楽しんでいました。そうこうするうちに、パンドラは、神様から決して開けてはならないと言われた箱を開けたくてたまらなくなります。
ある日、エピメテウスが出かけたときに、パンドラは箱を開けてしまったのです。じゃじゃじゃ~ん。
その瞬間、箱の中から、怪しいものが四方に飛び散りました。悪い予感がしたパンドラは、すぐに箱を閉めました。でも、おそかりし、箱からは、病気、悪運、悪意、戦争、嫉妬、災害、暴力など、ありとあらゆる悪が飛び散ったのです。
それまでの地上にはなにひとつとして邪悪なものはありませんでした。人間たちは穏やかに幸せに暮らしていました。でも、箱から諸悪の根源が飛び 散ってしまったので、もう取り押さえることはできません。処女地に広がる伝染病のようにさまざまな悪が地上に広がり、人間たちは不幸に身をさらさなければ ならなくなりました。
ただひとつ、かろうじて箱の中に「希望」が残りました。ですから、数々の不幸にさいなまれながらも、人間は希望だけをよりどころにして生きていけるのです。
これが有名なパンドラの箱の話です。でも、ほんとに面白いのはこれから。次回を楽しみにしてくださいね。
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