この王翼篇では、その役割を18の担当に分けています。彼らの強力がなければ、どんな名将でも、与えられた任務を遂行することができません。逆に言えば、適材適所に彼らを任命して、持てる能力を存分に発揮されることが、将軍の大きな仕事になるのでしょう。
現在の中小企業で、18もの役割に人をはりつけるわけには行きませんが、少数でその役割を担う、「職務分掌」なのでしょう。経営を戦略(競争)ととらえるならば、ものすごく参考になる事項です。
武王(以下、武)「軍を統率するには、必ず股肱や羽翼となってくれる者がいて、はじめて王者としての威力発揮することができるというが、それにはどうすればよいのか」
太公望(以下、太)「軍を動かすときには、すべての責任が将たる者の肩にかかってきます。ですから、将たる者は、あらゆることに熟達して臨機応変に対応しなければなりません。能力に応じて部下を任用し、そのそれの長所を発揮するようにしむけ、その時々の情勢に応じて変化することが肝心です。そのため、股肱や羽翼を七十二人置いて、天の七十二節気と対応させているのです。この天道に則って員数をそろえ、天の理法をよくわきまえて才能の異なる人間を採用すれば、万全の態勢を整えることができます」
武「その七十二人について、もう少し詳しく教えて欲しい」
太「まず「腹心」を一人置きます。これは戦略計画の策定を助けて突発事態に備え、天象をはかって異変を解消し、作戦を統括して国力の保全にあたる者です。
次に「謀士」を5人置きます。これは情勢の掌握につとめて安全を確保し、各人の成績を査定し、賞罰を明らかにして官位を授け、疑問を解決して可否の決定に当たる者です。
次に、「天文担当」を三人置きます。これは星の動きや風向きを観測し、時日や吉凶、災異を占って、天がどちらに味方するかを察知する係りです。
次に、「地理担当」を三人置きます。これは行軍や駐屯に際して、地形のよしあし、行程や険阻、山や川についての情報を収集し、地の利を失わないようにする係りです。
次に、「兵法担当」を九人置きます。これは彼我の情勢や戦いの帰趨を分析、兵器を選定し、違法行為を取り締まる係りです。
次に、「食料担当」を四人置きます。これは食料の必要な量をはかって備蓄すると共に、輸送路を確保して補給を絶やさないようにし、全軍の食料を欠乏させないのが役目です。
次に「奮威」を四人置きます。これは勇敢な兵士を選抜し、武器、装備を整えて、奇襲部隊を編成する役目です。疾風のように襲撃するので、敵に気づかれることはありません。
次に、「伏旗鼓(ふくきこ)」を三人置きます。これは旗や鼓をかくし、にせの割賦や号令を使って、敵陣に潜入し、敵情を探索する役目です。闇にまぎれて動くので、その行動はまさに神出鬼没なのです。
次に、股肱を四人置きます。これは、重要かつ困難な任務に当たるもので、もっぱら彫りや城壁の工事を督励して、守りの面で万全の態勢を整える役目です。
次に、「通才」を二人置きます。これは、君主のかけた点や過った点を補い、外国の施設を交渉にあたり、議論を戦わせて紛争の解決をはかる役目です。
次に、権士を三人置きます。これは奇計を使い、権謀を駆使し、人目につかない所で変幻自在な策を講じる役目です。
次に、「耳目」を七人置きます。これは足で歩いて世間の風説を聞き、動向を観察し、外国の動きや味方陣内の情報を集める役目です。
次に、「爪牙(そうが)」を五人置きます。この役目は、全軍を督励して士気を高め、いかなる困難にもたじろがず、勇敢に戦わせることにあります。
次に、『羽翼」を四人置きます。これは。わが軍の勇名を喧伝し、四隣はもとより、遠方の国々まで震え上がらせて、敵の闘志を弱めるのが役目です。
次に、「遊士」を八人置きます。此れは、敵側の人間を買収して、機会をうかがったり、デマをばらまいて人心を動揺させたり、敵の動向をさぐったり、諜報活動にあたります。
次に、「術士」をふたり置きます。これは、あやしげな術を使ったり、神のお告げなどといつわって、敵の人心を惑わす役目です。
次の、「方士」を三人置きます。これは、薬をそねえて傷の手当をし、万病の治療に当たる者どもです。
おしまいに、「法算」をふたり置きます。これは、布陣や軍量の費用など、収支の会計にあたります。」
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