そういうロマン感覚でお読みください。
武王(以下、武)「律管(音階を決める管)の音階をもって、敵軍の動静や勝敗の帰趨を知ることが出来るものであろうか」
太公望(以下、太)「よくぞおたずねくださいました。律管には十二の音階がありますが、それを要約しますと、宮(きゅう)、商、角、緻、羽(う)、の五音となります。このこの五音こそが音声の基本であります。万代かわることのないもの、五行相勝の理法とも天地自然の道です。つまり、金、木、水、火、土の五行は相勝しながらめぐってくるわけですが、戦いにもこれを応用することができるのです。
古代、三皇の治世は、無為の道をもって剛強な相手を押さえ込みましたが、当時は文字もなく、すべて五行の道に則って治めたのです。五行こそは天地自然の道です。六十甲子(十二干と十二支)もここから生じたものです。まことに玄妙な理法です。
さて、この理法を戦いに当てはめましょう。
空が晴れて風も雲もない日を選び、夜中に軽騎を派遣して敵陣の手前九百歩の地点にまで近づけ、律管を耳に当ててから、大声を出して驚かせます。当然、敵陣のあわてふためく声が律管に反応しますが、このあたりはたいへん微妙なものがあります。もし、律管に反応するのが、角の音声であれば、白虎(びゃっこ)の方位、つまり、西から攻撃をかけます。緻の音声であれば、玄武の方位、つまり、北から攻撃をかけます。商の音声であれば、朱雀(しじゃく)の方位、つまり、南から攻撃をかけます。羽の音声であれば、匂陳(こうちん)の方位、つまり、中欧から攻撃をかけます。以上のどれにも当てはまらないときは宮(きゅう)の音声ということになりますから、青竜の方位である、東から攻撃をかけます。
これが五行の効験であり、勝敗を予測し、勝利を勝ち取る手がかりとなります。」
武「よくわかった」
太「これらの音声はまことに微妙ですが、明らかにそれを聞き分ける手がかりがないわけでもありません」
武「何をもって聞き分けるのか」
太「敵のあわてふためく声から聞き分けます。つまり、バチで太鼓をたたく音が聞こえたら、それは角です。火が見えたら、微です。矛や戟(げき)のふれあう音が聞こえたら、商です。人の呼び交わす声が聞こえたら、羽です。ひっそりと静まりかえって物音がしなかったら、宮です。これが五音を聞き分けるてがかりとなります」
※五行:古代中国では、木、火、土、金、水が万物を生じはぐぐむとされました。今でも、信じている人いっぱいいます。
※三皇:古代中国の伝説的な三人の明君。伏羲(ふぎ)、神農、黄帝
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