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昨日の続きです。張丑どうなっちゃうんでしょうね。あなただったらどう切り抜けるか、考えてみましたか?
昨日の続きです。張丑どうなっちゃうんでしょうね。あなただったらどう切り抜けるか、考えてみましたか?
「あー、俺の運命もここまでかー」
天を仰いだまま沈黙した張丑を、しばらく訝しげに警備兵は眺めていたが、手配の男がそのまま体勢を変えないので、とうとう観念したようだと判断し、縄で縛 ろうと張丑の腕をつかもうとした。しかしすかさず、張丑は身を引く。境吏は顔を凶悪に険しくさせ、低い声を漏らした。
「逃れるつもりか。そうはいかんぞ......!」
「違いますよ。」
返ってきた声音が、先ほどの丁重さとまるで違うことに少し驚いて、警備兵は目の前の痩身を見下ろした。張丑は、商人姿に似合わぬ胆力のある目でそれを見返す。威圧的に対峙する厚い体に萎縮していたような態度が消え失せ、存在感が増したようだった。背筋がピンと伸び、落ち着き払って警備兵と向かい合う。
「仕方ない。白状しましょう。私は張丑だ。あなたの言うとおり、燕王のもとから逃げてきた。」
「やはりそうか! では――」
「話は最後まで聞くものですよ。さもないと、あなたのためにもならない。」
切り込むような鋭い張丑の声に、警備兵は思わず言葉を飲み込んだ。
この局面を言い抜ける為のただの方便に決まっていると思いつつ、目の前の男の言葉にひやりとするものを感じたのである。
警備兵が圧倒された隙を逃さず、張丑はにこりともせずに言葉を続けた。
「確かに、燕王は私を捕らえようとしている。何故か。城内で燕王に、私が宝珠を持っていると吹き込んだ者があったからです。燕王は珠を欲した。」
「珠......!? それは、本当なのか。」
珠、の一言に、警備兵の顔色が変わった。
珠とは山で採れる玉とは違い、海に住む貝の中から採れるものである。燕国は海に面してはいるが、貝の種類が限られていることもあり、そう多く採れるものではない。
ただでさえそれほど貴重であるその珠が、しかも宝珠と呼ばれているとなると、それは如何なるものなのか。一介の警備兵には、想像も付かない宝である。
張丑は、血相を変えている警備兵など目に入らぬ様子で首を振り、忌々しげに答えを吐き捨てた。
「――冗談ではない。すでに私は珠を失っている。しかし、それに王が耳を貸す筈がないのは分かり切っています。だから、私は逃げ出した。」
「じ...実際がどうあれ、王が捕らえよと命じたからには、俺は、」
「話は最後までお聞きなさい。王は私が宝珠を持っていると信じている。見つからなければ、燕王は私を拷問するでしょう。そして何を答えようと答えまいと、 私は殺される。しかし、私は珠の場所を問われたなら、こう言います。」
「なんと......?」
完全に話に引き込まれている警備兵は、切られた言葉の先を問う。
張丑は無造作に答えた。
「珠は自分を捕らえた警備兵が奪って飲み込んだ、と答えます。」
「............!?」
「燕王は私を斬り殺すでしょう。だがそれだけでは済まない。災いはあなたの身にまで及ぶ。王はあなたの腸を引きずり出し、切り裂いて中を調べるに違いあり ません。よろしいですか警備兵殿。私の命は今や風前の灯火といっていい。――だがそれは、」
張丑の瞳の鋼が、ぎらりと底冷えのする光を放った。
「あなたも同じことだ。」
―――警備兵は戦慄した。
天を仰いだまま沈黙した張丑を、しばらく訝しげに警備兵は眺めていたが、手配の男がそのまま体勢を変えないので、とうとう観念したようだと判断し、縄で縛 ろうと張丑の腕をつかもうとした。しかしすかさず、張丑は身を引く。境吏は顔を凶悪に険しくさせ、低い声を漏らした。
「逃れるつもりか。そうはいかんぞ......!」
「違いますよ。」
返ってきた声音が、先ほどの丁重さとまるで違うことに少し驚いて、警備兵は目の前の痩身を見下ろした。張丑は、商人姿に似合わぬ胆力のある目でそれを見返す。威圧的に対峙する厚い体に萎縮していたような態度が消え失せ、存在感が増したようだった。背筋がピンと伸び、落ち着き払って警備兵と向かい合う。
「仕方ない。白状しましょう。私は張丑だ。あなたの言うとおり、燕王のもとから逃げてきた。」
「やはりそうか! では――」
「話は最後まで聞くものですよ。さもないと、あなたのためにもならない。」
切り込むような鋭い張丑の声に、警備兵は思わず言葉を飲み込んだ。
この局面を言い抜ける為のただの方便に決まっていると思いつつ、目の前の男の言葉にひやりとするものを感じたのである。
警備兵が圧倒された隙を逃さず、張丑はにこりともせずに言葉を続けた。
「確かに、燕王は私を捕らえようとしている。何故か。城内で燕王に、私が宝珠を持っていると吹き込んだ者があったからです。燕王は珠を欲した。」
「珠......!? それは、本当なのか。」
珠、の一言に、警備兵の顔色が変わった。
珠とは山で採れる玉とは違い、海に住む貝の中から採れるものである。燕国は海に面してはいるが、貝の種類が限られていることもあり、そう多く採れるものではない。
ただでさえそれほど貴重であるその珠が、しかも宝珠と呼ばれているとなると、それは如何なるものなのか。一介の警備兵には、想像も付かない宝である。
張丑は、血相を変えている警備兵など目に入らぬ様子で首を振り、忌々しげに答えを吐き捨てた。
「――冗談ではない。すでに私は珠を失っている。しかし、それに王が耳を貸す筈がないのは分かり切っています。だから、私は逃げ出した。」
「じ...実際がどうあれ、王が捕らえよと命じたからには、俺は、」
「話は最後までお聞きなさい。王は私が宝珠を持っていると信じている。見つからなければ、燕王は私を拷問するでしょう。そして何を答えようと答えまいと、 私は殺される。しかし、私は珠の場所を問われたなら、こう言います。」
「なんと......?」
完全に話に引き込まれている警備兵は、切られた言葉の先を問う。
張丑は無造作に答えた。
「珠は自分を捕らえた警備兵が奪って飲み込んだ、と答えます。」
「............!?」
「燕王は私を斬り殺すでしょう。だがそれだけでは済まない。災いはあなたの身にまで及ぶ。王はあなたの腸を引きずり出し、切り裂いて中を調べるに違いあり ません。よろしいですか警備兵殿。私の命は今や風前の灯火といっていい。――だがそれは、」
張丑の瞳の鋼が、ぎらりと底冷えのする光を放った。
「あなたも同じことだ。」
―――警備兵は戦慄した。
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