このシリーズは右のカテゴリー「短編小説」に格納されています。
昨日の続きです。さてさて、楚の国の家臣たちに「犬の門から入れ」と言われた、斉の宰相 晏嬰(あんえい)は、いったいどうしたのでしょうか? あなたならどうしますか? 犬の門から入りますか?
♪あなたな~ら どうする~♪
晏嬰は、心の中で笑います。
「なんじゃ、楚の国の悪知恵とはこの程度のものか」
ちんちくりんの晏嬰は、子供の頃からずいぶんいじめられました。泣いて家に帰ると、厳しい母が「お母さんは、そんな弱い子を産んだ覚えはありません。」と言って家に入れてくれません。父は父で、昼間から酔っ払い、こんなことも言おうものなら、ただではすみません。「僕はなんでこんな不幸に生まれてきたのだ」と人生をうらんだこともありました。
しかし、人生とは不合理が育てるものである。これが、晏嬰の人生論のひとつである。何の障害もない子供時代を生きると、何も考えない脳が出来てしまう。自分は、不合理な人生を生きてきたので、なんとかそれを乗り切ろうという知恵がついた、といつも晏嬰は思うのであった。「人生とはうまくできているものじゃわい。あの辛い子供時代が今役立つとは」。晏嬰は、心の中でつぶやきながら、笑顔で楚の家臣たちに言いました。
「ほう、そうですか。私は斉の国から使いとしてまいりました。それは楚という、人の住んでいる国に行けとのことでした。ですが、今日ここに来てみたら、犬の門から入れといわれる。楚という国には人が住んでいるとばかり思っていたのですが、犬ばかりが住んでいるのですか」
楚の家臣たちは絶句します。
「くそっ、晏嬰に恥をかかせてやろうと思って犬の門から入れようとしたのに晏嬰を犬の門から入れると、楚の国の人間は犬ばかりだということを認めなければならない。晏嬰にしてやられたわい」
楚の家臣たちは、晏嬰を大きな人間の門から入れました。
もう、くやしくて仕方がありません。楚の家臣たちは、次の手を考えました(つづく)
コメントする