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続きを書きますね。
大江山って、福知山から宮津(天橋立)に向かうときにある山です。スキー場もあります。つまり、丹波から丹後に向かう途中ですね。
♪むかし 丹波の大江山
鬼ども多くこもりいて
都に出ては人を食い
金や宝を盗み行く♪
酒呑童子(しゅてんどうじ)は酔って上機嫌に話し始めた。
もともと童子は越後(新潟)生まれ。山寺の稚児だった頃、苛められた法師を殺害して比叡山へ出奔したが、伝教大師に追い出されて大江山に移ってきたと、自分のこれまでの生き様をべらべらと語りだした。昔の寺は男性社会である。当然ながら、稚児は男色の対象となる。嫉妬も入り乱れて複雑な人間関係が出来てしまう。童子も、ある僧にかわいがられていたのだが、他の法師の嫉妬にあい、苛められたのだった。
そんな話をしながら、酒呑童子はすっかりと気分がよくなり、酒が利いてきたのか酔いつぶれて、奥の間に行って大いびきをかきはじめた。
「いまじゃ」
山伏の姿をしていた頼光一行六名は、すばやく武士の姿に変身した。頼光は、武士の姿に戻るときに、先ほどの老人たちに贈られた兜を身に着けた。兜の名前は、星甲。兜を付けながら、老人たちの言葉を思い出した。
「私たちの仇も討ってくだされ。その時にお役に立つのがこの酒です。この酒の名前は「神便鬼毒酒」と申します」
「神便鬼毒酒?」
「そうです。摩訶不思議な酒です。酒呑童子はいつも大酒を喰らっています。だから名前が酒呑となっています。こ酒はその名の通り、鬼が飲むならば、自由自在に空を飛ぶ力をたちまち失うて、斬っても、突いてもするがままになりまする。逆に普通の人間が飲むと、かえって力が付くというというものです」
そして、出立するときに、一人の老人が頼光に星甲(ほしかぶと)と名付けられた立派な兜を贈った。老人は言った。「これを付けて鬼の首を斬られよ。決してお忘れなく」
老人たちは先頭に立って、鬼たちの場所に案内してくれたのだったが、いつの間にか消えてしまったのであった。
「殿、参りましょう」
我に返った頼光はまっしぐらに酒呑童子のところに行き、自ら所蔵の「ちすい」という名刀で、酒呑童子に切りかかった。
酒呑童子は、さきほどの姿ではなく、それはそれは大きく変身し、ざんばら髪に鋭い角が五本、熊のごときいかつい手足であった。さすがの六人も一瞬たじろいだが、頼光は気を奮い起こして、童子に斬りかかった。
老人の言うとおりであった。神便鬼毒酒のため、酒呑童子の動きは鈍っていた。頼光は一気に童子の首を斬りおとした。
「殿やりましたな」
部下の一人がそういった瞬間、世にも恐ろしいことが起こったのであった。(つづく)
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