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参考文献は「誰にでも使える民事信託 日本加除出版」です。民事信託は、これまでの商事信託とは違い、非常に自由度が高い制度です。まちづくりや成年後見人にも使うことができます。
自由度が高いということはどういうことか。それは、使う人間に創造性が要求されるので、世に事例が出るまでに時間がかかることを意味します。
私は、息子が小さいときに囲碁を一緒に勉強しました。囲碁には将棋のように駒の並べ方がありません。だから、どこに打ってもいいという非常に自由度の高い競技です。囲碁を勉強したときに思いました。自由度が高いということは、なんと恐ろしいことかと。
つまり、どこに打ってもいいということは、きちんと勉強し戦略を立てられない人間にとっては「どこにも打てない」ということです。
事業再生や事業承継の仕事をしていると、ただ単に知識を保有しているだけでは通用しないと言うことを思い知らされます。企業は個々事情が違うので、どう手を打つかは、とても自由度が高くそして、困難なこととなります。持っている知識を総動員して、そのグランドデザインをどうかくかということは大変かつ責任の思い仕事になります。
この民事信託もそうです。再生や承継にこれほど使える施策はないでしょう。でも、それをどうプロデュースするかという視点においては、コンサルタントの技量が問われてきます。だから、金融機関ではまだこの民事信託の活用度は低く理解に乏しい状態となっています。世の中にもあまりたくさん本は出回っていません。
さて、前回は、信託には委託者、受託者、受益者があるというところまで説明しました。今回は、委託者のメリットを紹介します。
【委託者のメリット】
①財産の保護
例えば委託者が有する財産は信託の設定により受託者に移転しますので、委託者の債権者は、委託者に債務を履行させるため信託財産に強制執行をかけることができません。このように委託者の倒産リスクから委託者の財産を遮断できます。
②委託者死亡後の財産管理
委託者が死亡した場合でも、委託者が生前に設定した信託目的に従って、受託者が財産管理を行います。そのため、当初の意図に沿った財産等の承継および長期にわたる財産管理が可能となります。委託者が死亡しても、配偶者または子供の生活保障のための財産管理が可能となります。
③税負担の軽減
例えば、個人と個人または一般事業会社間の不動産譲渡による所有権移転登記と比べ、信託を原因とした所有権移転登記では、不動産取得税が課税されず、さらに、登録免許税は1/5となります。また不動産を個人名義で有していた場合、多額の固定資産税が負担になることがありますが、信託財産とすれば委託者個人が固定資産税を負担することはありません。
委託者と受益者が同じ人の場合、信託財産から上がってくる収益から固定資産税等の必要経費を引いた分が受益者が受け取る収益となります。
④受益者の指定
委託者は信託契約に基づき、様々な受益者をあらかじめ定めておくことができます。例えば、委託者が定めた第1次受益者が死亡し、その受益者が有する受益権につき、他の者を第2次受益者、第3次受益者として定めておけば、受益権を数次にわたり承継させることが出来ます。これは信託制度の特徴です。
遺言ではこれは不可能です。
⑤委託者の意思尊重
受託者は委託者とと締結した信託契約の目的に即して信託財産を管理・処分するため、委託者の意思が尊重されます。また、自己信託として、委託者が受託者となることができます。
⑥事業の承継
例えば、オーナー経営者が後継者と考えている息子がまだ子供であったり、経営能力がないような場合、事業の信託により当該会社の事業を一定期間、他者に信託して運営させ、後継者が経営者として育った段階で信託を終了させます。また、後継者がいない場合、現オーナーが経営者かつ委託者かつ受益者となり、他者に事業の信託をすることが考えられます。これが、民事信託の中の事業信託となります。
※対象信託が債権者詐害信託に該当しないこと、登記・登録の要請など債権者保護を図る必要があります。また、遺言が絡む民事信託では税務面も含めて遺留分に配慮することが必要です。
現在SBさんと企業承継の案を練っています。その際にこの民事信託はとてもイメージがしやすい方法となっています。
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