このシリーズは右のカテゴリー「短編小説」に格納されています。
保元の乱は、後白河天皇の女性関係から起こったことは、同じ「短編小説」に格納されている「魚は頭から腐る」で書きました。是非、参考にしてください。
保元の乱で源義朝(よしとも)、平清盛連合軍が勝ちました。そのとき、政治べたな源義朝は、清盛の政略にひっかかってしまって、父と弟を処刑してしまいます。清盛にしてやられた義朝は、源氏のステイタスを落してしまったのです。
平家隆盛の時代になると、源氏はどんどん影が薄くなって、宮廷に残ったのは、頼政(よりまさ)ぐらいでした。頼政は、摂津源氏です。頼政は平治の乱で、清盛についたので生き残ったのでした。
「鵺(ぬえ)じゃ、また今夜も鵺が出ておるぞ。あの鳴き声はなんとかならんのか」
最近、都に毎夜出没する、鵺に帝はすっかりおびえてしまわれた。
鵺は、頭が猿、胴が狸、手足が虎、尾が蛇という化け物で、それはそれは恐ろしい鳴き声をするのであった。
「誰か、鵺を退治してたもれ。褒美を取らすぞ」
「それならば、弓の名人、源頼政がよろしいかと」
帝の側近は告げた。頼政は、さっそく退治に出かけた。
「きーきー、ギャーギャー、けーーーーー」
恐ろしい鵺の鳴き声が都の夜に響き渡る。頼政は、その鳴き声に狙いをつけて、弓で射て仕留めたのであった。
「ようやった、ようやった」
左大臣の藤原頼長は、頼政に鵺退治の褒美を渡そうとした。そのとき、ホトトギスが鳴いた。
藤原頼長は、無学な武士をからかってやろうと、
ほととぎす 名をも雲居に あぐるかな
と上の句を頼政にぶつけたのであった。すると、頼政は、
弓張り月の 射るにまかせて
と見事に下の句を返したのであった。
「帝、頼政は、弓だけではなく、歌にも通じておりますぞ」
「ほー、武家には珍しいことじゃ。朕もひとつ試してみようかのう。頼政をこれへ」
「頼政、お召しにより参上仕りました」
「頼政、帝がおおせじゃ。おぬしに、天下の美女、菖蒲御前(あやめごぜん)を賜るそうじゃ」
「(えっ? あのうわさに高い美しさの?) そ・それは存外な幸せにございます」
「そこでじゃ、ここに三人の女子がおる。この中の誰が菖蒲か当てたら賜ろうとお上はおおせじゃ」
帝は御簾の陰からこのやりとりを楽しんでいた。すると、頼政は、
五月雨(さみだれ)に 沼の石垣 水越えて いずれか菖蒲 ひきぞわづらふ
と詠んだではないか。
「みごとじゃ!」
帝はいたく感心されて、菖蒲御前を頼政に与えた。 つづく。
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