このシリーズは右のカテゴリー「コンサルティング」に格納されています。
ずいぶん前回からあいてしまったので、前回紹介した相馬光学の事例を前回の分も含めてつづきを紹介します。
<事例>
東京日の出町の光学機器メーカー 相馬光学は「豚肉脂質測定装置」を開発しています。豚肉を傷つけることなくオレイン酸の含有量を数秒で測定できる画期的な製品です。オレイン酸とは脂肪酸の一種で、一般的に多く含まれるほどうまみが向上するとされています。
これまで、豚肉の流通段階で使える測定装置は存在しませんでした。検査員が触感や味などで判断するしか方法がありません。同社の装置は、豚肉のおいしさの客観評価につながると期待されています。高い精度をもつ装置誕生の背景には、光学機器メーカーの高い技術と国内最大の食肉加工業者との出会いがあります。
相馬光学は、分光測定技術を強みに、光学機器や分析機器などの製造販売を手がけています。2001年大阪府立農林技術センターにて食肉の非破壊検査の測定にかかわっていた、入江氏(現宮崎大学農学部教授)が、同社の高い技術に着目しました。果物の糖度計開発などで培ったノウハウをもとに共同研究に乗り出しました。
装置の仕組みは、枝肉に近赤外波長の光を照射して得られる波長のパターンにより、オレイン酸含有量など食肉の組成成分を測定するというものです。オレイン酸を正確に測定するには、理化学評価法として高い分析精度を誇るガスクロマトグラフィがあるそうです。でも、装置自体が高価で、測定に時間を要するために食肉生産現場では使えません。ガスクロマトグラフィと同等の精度で、簡単に測定ができる装置が求められていました。
開発当初はガスクロマトグラフィとの相関係数が0.6と低く、精度は安定しませんでした。相馬光学が主に手がけていたのは半導体などの工業製品であり、コントロールが難しく個体差も大きい生物のサンプルデータ取得が困難を極めたからです。精度を高め、製品化するためには100頭程度の豚枝肉のデータが必要であり、多様なサンプルを提供してもらえる規模の大きな牧畜業者を探す必要がありました。
連携のきっかけは何気ない雑談でした。同社HPリニューアルについて。首都圏産業活性化協会のコーディネータに相談した際、同製品開発の話をしたところ、神明畜産を紹介されました。
神明畜産は、東京都東久留米市に本社を置き、栃木県や青森県など全国に牧場をもつ食肉加工業者です。畜産から食肉の加工・販売までを一貫して手がけており、牛肉・豚肉ともに日本一の生産量を誇ります。同社のブランド豚である「黄金豚(こがねとん)」は。2005年食肉産業展の「銘柄ポーク好感度コンテスト」で最優秀賞に選ばれています。同社の枝肉を「豚肉脂質測定装置」とガスクロマトグラフィとで測定し、相関データを収集。改良を重ねた結果、相関係数0.8~0.9に高めることができました。
相馬光学は、3年以内に同装置を製品化し、全国の畜産試験場や商社などの需要を開拓する考えです。神明畜産では、生産加工技術と直販ルートを活用し、「黄金豚」のうち同装置の測定値を用いて、おいしいとお墨付きの「光黄金豚」を開発・販売する予定です。
さらに入江教授の学術論文を通じ、オレイン酸がおいしさの指標であることを訴求していき、マグロなどの海産物や霜降り牛などへの応用も計画中です。
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