【第六十五号:先憂後楽】
いつもお世話になっております。「士魂商才(しこんしょうさい)」第六十五号です。タイトルは「先憂後楽」です。「せんゆうこうらく」とお読みください。
明治天皇もご愛読になられた「宋名臣言行禄」という書物があります。支那 宋代の名臣たちの言行をまとめた本です。その中に笵仲淹(はんちゅうえん)という名宰相が登場します。笵仲淹の言葉に
「士は天下の憂いに先だちて憂え、天下の楽しみに後れて楽しむべし」
という言葉があります。後楽園の語源です。
支那は古代から無茶苦茶な社会です。有能な士が出て來るとすぐに足を引っ張り失脚させます。失脚だけならまだしも、時には筆舌に尽くしがたい支那独特の拷問にかけます。人材が育たない、歴史が継続しない土地柄です。ですから、すぐに理想を求めます。四書五経なども、なかなか実現しない理想をそれでも追い求めて作られたものだと言われています。
理想を追い求める中、ほんの一時代に、唐の太宗の理想の政治「貞観政要(じょうがんせいよう)」に登場する魏徴(ぎちょう)のような大人物も出てきます。宋は、唐が軍閥のために潰れたため、文官を以て平和な世の中を求めました。文官に優れた人物が登場します。その中の一人が、笵仲淹です。
笵仲淹のこの言葉は、まさにノーブレス・オブリージュと言えます。
経営は苦しくなればなるほど、まず自己の安定のみを求めます。それは当然のことです。苦しくなると送られてくる請求書を見るのも嫌になり、そして、お客様や仕事が「お金」に見えることもしばしばです。そして、「貧すれば鈍する」で、失敗の道を歩み、企業の最大の使命である「持続」と「永続」からどんどん遠ざかっていきます。
一方で、優良な企業とは、経営者が常に考え、常にグラデュアル・リスクに対応し、まさに「天下の憂いに先だって憂え、天下の楽しみに後れて楽しむ」を実践しています。
私は、好調だった創業時にやってはならないことをやり、一気に奈落の底に沈みました。易経の陰の教えを知らなかった私は、その後、貧すれば鈍するをやってしまい、さらに沈みました。現在は、良き仲間に恵まれ、その状況を脱しつつありますが、この言葉を肝に銘じ、後楽を常に念頭に世の中の役に立って行けるよう精進して参ります
今月号もお楽しみください。
感謝合掌
平成二十五年五月吉日
株式会社 経営戦略室
代表取締役 宝徳 健
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