源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)の歌です。
山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば
彼には、もうひとつ有名な歌があります。
來てみれど 心もゆかず 故郷の 昔ながらの 花は散れども
「大和物語」に載っている歌です。彼は、光孝天皇の孫ですが、臣下に降り源の姓を賜りました。地方の権守(ごんのかみ)を歴任しましたが、昇進がうまくいかず、地位にも恵まれませんでした。和歌の才能には恵まれ、三十六歌仙の一人となっています。
この歌は、光孝天皇の邸宅であった宇多院で花が咲いているのを見て、詠まれたものです。「花見に來たけれど、心が晴れない。見慣れた宇多院の花は昔とちっとも變わらず散っているのに」。機嫌が悪い歌です、父が光孝天皇の第一皇子なのに、皇位を退き、宇多天皇が即位したので、この歌を詠みました。
最初に紹介した歌は「山里は冬こそ寂しさが増すように感じられることだ。人が訪ねてくることもなく、草も枯れてしまうと思うので」。という意味です。「人目」は人の往来の事です。「かれ」は「離(か)れ」と「枯れ」の掛詞です。人の足が離れることと、草木が枯れることのふたつの意味があります。上の句と下の句を倒置し、詠嘆の思いを強くもしています。
訪れる人もいなければ、慰めになっていた草木も枯れるという孤独感。出世もうまくいきません。冬の山里の寂しさだけではなく、つらい境遇を嘆く気持ちも含まれています。
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