百人一首 七十弐

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音に聞く 髙師の浜の あだ波は かけじや袖の 濡れころもすれ

 とても艶めかしい歌です。でも、これは七十歳超の熟女と三十歳前の青年の歌の対決なのです。

 歌合わせと云ふ、歌を交互にやり取りをして歌の優劣をつける歌合戦がありますが、その中でも艶書合と云ふものがあります。「えんしょあはせ」と讀みます。
 男女が互いにフィクションのラブレターを送ります。まず男が送り、女がそれに返事をします。求愛や戀のかけひきするわけです。

 この歌の作者は祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)です。お兄さんが紀伊守だつたので「紀伊」と呼ばれてゐました。この時すでに七十歳を超へてゐます。

 相手の男は藤原定家の祖父「藤原俊忠」です。まだ三十歳前です。

 俊忠の歌は以下の通りです。

人知れぬ 思ひありその 浦風に 波のよるこそ いはまほしけれ

「あなたへの戀心が荒波のやうに押し寄せる。一夜会つてそれを伝へたい」

 それに対して、紀伊が先ほどの歌を詠みました。

「うわさに聞く髙師の浜の波はかけません。袖が濡れますから。浮気者のあなたも心にかけません。涙で袖が濡れると困りますから」

 髙師の浜とは、現在の堺市浜寺から髙石市あたりで、涙が高いことで有名だつたさうです。それをかけて「浮気で名髙いあなた」とやりました。

 うまいものですね~。紀伊の勝ちです。七十歳の超熟女の勝ちでーす。

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このページは、宝徳 健が2014年6月28日 01:38に書いたブログ記事です。

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