音に聞く 髙師の浜の あだ波は かけじや袖の 濡れころもすれ
歌合わせと云ふ、歌を交互にやり取りをして歌の優劣をつける歌合戦がありますが、その中でも艶書合と云ふものがあります。「えんしょあはせ」と讀みます。
男女が互いにフィクションのラブレターを送ります。まず男が送り、女がそれに返事をします。求愛や戀のかけひきするわけです。
この歌の作者は祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)です。お兄さんが紀伊守だつたので「紀伊」と呼ばれてゐました。この時すでに七十歳を超へてゐます。
相手の男は藤原定家の祖父「藤原俊忠」です。まだ三十歳前です。
俊忠の歌は以下の通りです。
人知れぬ 思ひありその 浦風に 波のよるこそ いはまほしけれ
「あなたへの戀心が荒波のやうに押し寄せる。一夜会つてそれを伝へたい」
それに対して、紀伊が先ほどの歌を詠みました。
「うわさに聞く髙師の浜の波はかけません。袖が濡れますから。浮気者のあなたも心にかけません。涙で袖が濡れると困りますから」
髙師の浜とは、現在の堺市浜寺から髙石市あたりで、涙が高いことで有名だつたさうです。それをかけて「浮気で名髙いあなた」とやりました。
うまいものですね~。紀伊の勝ちです。七十歳の超熟女の勝ちでーす。
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