三島由紀夫の不朽の名作「金閣寺」を讀みながら、歴史的假名遣ひと正しい漢字を學んでゐます。
たまたま、機關學校の征服は、脱ぎ捨てられて、白いペンキ塗りの柵にかけられてゐた。ズボンも、白い下著のシャツも。・・・それらは花々の眞近で、汗ばんだ若者の肌の匂ひを放つてゐた。蜜蜂がまちがへて、この白くかがやいてゐるシャツの花に羽根を休めた。金モールに飾られた制帽は、柵のひとつに、彼の頭にあつたと同じやうに、正しく、目深に、かかつてゐた。彼は後輩たちに挑まれて、裏の土俵へ、角力をしに行つたのである。
脱ぎすてられたそれらのものは、譽の墓地のやうな印象を與へた。五月のおびただしい花々が、この漢字を強めた。わけても、庇を漆黒に反射させてゐる制帽や、そのかたはらに掛けられた帯革と短劍は、彼に肉體から切り離されて、却つて抒情的な美しさを放ち、それ自體が思ひ出と同じほど完全で・・・・・、つまり若い英雄の遺品といふ風に見えたのである。
私はあたりに人氣のないのをたしかめた。角力場のはうで喚聲が起こつた。私はポケットから、錆ついた鉛筆削りのナイフをとりだし、忍び寄つて、その美しい短劍の黑い鞘の裏側に、ニ三條のみにくい切り傷を彫り込んだ。・・・・・
脱ぎすてられたそれらのものは、譽の墓地のやうな印象を與へた。五月のおびただしい花々が、この漢字を強めた。わけても、庇を漆黒に反射させてゐる制帽や、そのかたはらに掛けられた帯革と短劍は、彼に肉體から切り離されて、却つて抒情的な美しさを放ち、それ自體が思ひ出と同じほど完全で・・・・・、つまり若い英雄の遺品といふ風に見えたのである。
私はあたりに人氣のないのをたしかめた。角力場のはうで喚聲が起こつた。私はポケットから、錆ついた鉛筆削りのナイフをとりだし、忍び寄つて、その美しい短劍の黑い鞘の裏側に、ニ三條のみにくい切り傷を彫り込んだ。・・・・・
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