つづきです。
ある晩、有爲子の體を思つて、暗鬱な空想に耽つて、ろくに眠ることのできなかつた私は、暗いうちから床を脱け出し、運動靴を穿いて、夏の曉闇の戸外に出た。
有爲子の體を思つたのは、その晩がはじめてではない。折にふれて考へてゐたことが、だんだんに固著して、あたかもさういふ思念の塊のやうに、有爲子の體は、白い、彈や、花粉のやうな匂ひを思つた。
私は曉闇の道をまつすぐに走つた。石も私の足をつまづかせず、闇が私の前に自在に道を開いた。
そこのところで道がひらけ、志樂村字安岡の部落の外れになる。そこに一本の大きな欅がある。欅の幹は、朝露に濡れてゐる。私は根方に身を隱し、部落のはうから有爲子の自轉車が來るのを待つた。
有爲子の體を思つたのは、その晩がはじめてではない。折にふれて考へてゐたことが、だんだんに固著して、あたかもさういふ思念の塊のやうに、有爲子の體は、白い、彈や、花粉のやうな匂ひを思つた。
私は曉闇の道をまつすぐに走つた。石も私の足をつまづかせず、闇が私の前に自在に道を開いた。
そこのところで道がひらけ、志樂村字安岡の部落の外れになる。そこに一本の大きな欅がある。欅の幹は、朝露に濡れてゐる。私は根方に身を隱し、部落のはうから有爲子の自轉車が來るのを待つた。
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