ちやんとした本當の日本語を、不朽の名作 三島由紀夫の金閣寺を讀みながら學習してゐます。
さて、有爲子は・・・。
さて、有爲子は・・・。
私といへば、目ばたきもせずに、有爲子の顔ばかりを見つめてゐた。彼女は捕jはれの狂女のやうに見えた。月の下に、その顔は動かなかつた。
私は今まで、あれほど拒否にあふれた顔を見たことがない。私は自分の顔を、世界から拒まれた顔だと思つてゐる。しかるに有爲子の顔は世界を拒んでいゐる。月の光はその額や目や鼻筋や頬の上を容赦なく流れてゐたが、不動の顔はただその光に洗はれてゐた。一寸目を動かし、一寸口を動かせば、彼女が拒まうとしてゐる世界は、それを合圖に、そこから雪崩れ込んで來るだらう
私は息を詰めてそれに見入つた。歴史はそこで中斷され、未來へ向かつても、何一つ語りかけない顔。さういふふしぎな顔を、われわれは、今伐り倒されたばかりの切り株の上に見ることがある。新鮮で、みづみづしい色を帯びてゐても、成長はそこで跡絶え、浴びるべき筈のなかうつた風と日光を浴び、本來自分のものではない世界に突如として曝されたその斷面に、美しい木目が描いたふしぎな顔。ただ拒むために、こちらの世界へさし出されてゐる顔・・・・・。
私は有爲子の顔がこんなに美しかつた瞬間は、彼女の生涯にも、それを見てゐる私の生涯にも、二度とあるまいと思はうzにはゐられなかつた。しかしそれが續いたのは、思つたほど永い時間ではなかつた。この美しい顔に、突然、變容が現はれたのである。
私は今まで、あれほど拒否にあふれた顔を見たことがない。私は自分の顔を、世界から拒まれた顔だと思つてゐる。しかるに有爲子の顔は世界を拒んでいゐる。月の光はその額や目や鼻筋や頬の上を容赦なく流れてゐたが、不動の顔はただその光に洗はれてゐた。一寸目を動かし、一寸口を動かせば、彼女が拒まうとしてゐる世界は、それを合圖に、そこから雪崩れ込んで來るだらう
私は息を詰めてそれに見入つた。歴史はそこで中斷され、未來へ向かつても、何一つ語りかけない顔。さういふふしぎな顔を、われわれは、今伐り倒されたばかりの切り株の上に見ることがある。新鮮で、みづみづしい色を帯びてゐても、成長はそこで跡絶え、浴びるべき筈のなかうつた風と日光を浴び、本來自分のものではない世界に突如として曝されたその斷面に、美しい木目が描いたふしぎな顔。ただ拒むために、こちらの世界へさし出されてゐる顔・・・・・。
私は有爲子の顔がこんなに美しかつた瞬間は、彼女の生涯にも、それを見てゐる私の生涯にも、二度とあるまいと思はうzにはゐられなかつた。しかしそれが續いたのは、思つたほど永い時間ではなかつた。この美しい顔に、突然、變容が現はれたのである。
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