有爲子の運命やいかに。
有爲子は立上つた。そのとき彼女が笑つたのを見たやうに思ふ。月明かりの白い前齒のきらめいたのを見たやうに思ふ。私はそれ以上、この變容について記すことができない。立上がつた有爲子の顔は、月のあからさまな光をのがれて、木立の陰に紛れたからである。
有爲子が、裏切りを決心したときのこの變容を、私が見られなかつたのは殘念なことだ。。つぶさにそれを見てゐれば、私にも人間を恕(ゆる)す心が、あらゆる醜さを含めて恕す心が、芽生えたかもしれないのだ。
有爲子は隣の部落の鹿原(かはら)の山かげを指した。
「金剛院だ」と憲兵が叫んだ。
有爲子が、裏切りを決心したときのこの變容を、私が見られなかつたのは殘念なことだ。。つぶさにそれを見てゐれば、私にも人間を恕(ゆる)す心が、あらゆる醜さを含めて恕す心が、芽生えたかもしれないのだ。
有爲子は隣の部落の鹿原(かはら)の山かげを指した。
「金剛院だ」と憲兵が叫んだ。
コメントする