三島由紀夫の「金閣寺」です。有爲子が脱走兵の居場所を敎へてしまひました。
憲兵は有爲子を促した。彼女が丸木橋をわたり、しばらくして私たちはそれにつづいた。石段の下方は影に包まれてゐる。しかし中程から上は、月明かりの中に在る。われわれは石段の下方の、そこかしこの物陰に身を隱した。色づきかけた紅葉は、月の光に黑ずんで見えた。
石段の上には金剛院の本殿があり、そこから左斜めに渡殿が架せられ、神樂殿のやうな空御堂に通じてゐる。その空御堂は空中にせり出し、清水の舞臺を模して、組合はせられた多くの柱と横木が、崖の下からそれを支へてゐるのである。紅葉の盛りには、紅葉の色と、この白骨のやうな建築とが、美しい調和を示すのだが、夜だと、ところどころ斑に月光を浴びた白い木組は、怪しくも見え、なまめかしくも見える。
脱走兵は、舞臺の上の御堂のなかに、身をひそめてゐるらしかつた。。憲兵は有爲子を囮にして、彼を捕へようと思ったのである。
私たち證人は、蔭にかくれ、息を詰めてゐた。十月下旬の冷たい夜氣に包まれながら、私の頬はほてつた。
石段の上には金剛院の本殿があり、そこから左斜めに渡殿が架せられ、神樂殿のやうな空御堂に通じてゐる。その空御堂は空中にせり出し、清水の舞臺を模して、組合はせられた多くの柱と横木が、崖の下からそれを支へてゐるのである。紅葉の盛りには、紅葉の色と、この白骨のやうな建築とが、美しい調和を示すのだが、夜だと、ところどころ斑に月光を浴びた白い木組は、怪しくも見え、なまめかしくも見える。
脱走兵は、舞臺の上の御堂のなかに、身をひそめてゐるらしかつた。。憲兵は有爲子を囮にして、彼を捕へようと思ったのである。
私たち證人は、蔭にかくれ、息を詰めてゐた。十月下旬の冷たい夜氣に包まれながら、私の頬はほてつた。
コメントする