有爲子と戀人の海軍兵はどうなるのでせうか?
本當の日本語とは、素晴らしく奥深いことが、金閣寺を讀んでゐてわかります。現代人は未熟ですね。
本當の日本語とは、素晴らしく奥深いことが、金閣寺を讀んでゐてわかります。現代人は未熟ですね。
―憲兵をはじめ、みんなが我がちに石段を駆け上り、二人の屍のはうへいそぐのをよそに、私は紅葉のかげに、じつと身をひそめてゐたままである。白い木組みは縦横に重なつて、私の頭上にそびえてゐた。その上からは板敷の渡殿を踏みちらす靴音が、ごく輕やかな音になつて舞ひ落ちてきた。二三の懐中電灯の光の入り亂れるのも、欄をこえて紅葉の梢にまで届いた。
私にはすべてが遠い事件だとしか思へなかつた。鈍感な人たちは、血が流れなければ狼狽しない。が、血が流れたときは、悲劇が終わつてしまつたあとなのである。しらぬ間に私はうとうとしてゐた。目が覺めたとき、皆の置き忘れた私のまはりは、小鳥の囀りにみたされ、朝陽がまともに紅葉の下枝深く射し込んでゐた。白骨の建築家は、床下から日をうけて、よみがへつたやうに見えた。靜かに、誇らしげに、紅葉の谷間(たにあひ)に、その空御堂をせり出してゐた。
私は立ち上つて、身ぶるひして、體のそこかしこをこすつた。寒だだけが身内に殘つてゐた。殘つてゐるのは寒さだけであった。
私にはすべてが遠い事件だとしか思へなかつた。鈍感な人たちは、血が流れなければ狼狽しない。が、血が流れたときは、悲劇が終わつてしまつたあとなのである。しらぬ間に私はうとうとしてゐた。目が覺めたとき、皆の置き忘れた私のまはりは、小鳥の囀りにみたされ、朝陽がまともに紅葉の下枝深く射し込んでゐた。白骨の建築家は、床下から日をうけて、よみがへつたやうに見えた。靜かに、誇らしげに、紅葉の谷間(たにあひ)に、その空御堂をせり出してゐた。
私は立ち上つて、身ぶるひして、體のそこかしこをこすつた。寒だだけが身内に殘つてゐた。殘つてゐるのは寒さだけであった。
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