不朽の名作 三島由紀夫の金閣寺を讀みながら、本來の日本語を學習してゐます。
父は、大きな櫟(くぬぎ)の木を前に控へた本堂の玄關に立つて案内を乞うた。住職は來客中なので、二三十分待つてほしいと云はれた。
「その間に金閣を見てまはつてこ」
と父が言つた。
父は多分顔を利かして、只で、參觀門をくぐるところを、息子の私に見せたかつたらしい。しかし切符やお札を賣る係の人も、參觀門で切符を檢(あらた)める人も、十數年前に父がよく來たころの人とはすつかり變はつてゐた。
「この次來るときは、又變はつてるんやろうな」
と父はうそ寒い面持で言つた。しかし「この次來るとき」を、もう父が確信してゐないといふことを私は感じた。
しかし私は、わざと少年らしく(私はこんな時だけ、故意の演技の場合だけ少年らしかつた)、陽氣に先立つて、ほとんど駆けて行つた。そこであれほど夢見てゐた金閣は、大そうあつけなく私の前にその全容をあらはした。
「その間に金閣を見てまはつてこ」
と父が言つた。
父は多分顔を利かして、只で、參觀門をくぐるところを、息子の私に見せたかつたらしい。しかし切符やお札を賣る係の人も、參觀門で切符を檢(あらた)める人も、十數年前に父がよく來たころの人とはすつかり變はつてゐた。
「この次來るときは、又變はつてるんやろうな」
と父はうそ寒い面持で言つた。しかし「この次來るとき」を、もう父が確信してゐないといふことを私は感じた。
しかし私は、わざと少年らしく(私はこんな時だけ、故意の演技の場合だけ少年らしかつた)、陽氣に先立つて、ほとんど駆けて行つた。そこであれほど夢見てゐた金閣は、大そうあつけなく私の前にその全容をあらはした。
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