つづきです。
私は學生服の膝を畏まらせて、固くなつて坐つてゐたが、父はここへ来て俄かに寛ぎを見せた。しかし私と、ここの住職とは、同じ出身でも、福々しさがずんとちがつてゐた。父は病み衰へ、貧相で、粉つぽい肌をしてゐるのに、道詮和尚は、まるで桃いろのお菓子みたいに見えた。和尚の机の上には、こんな花々しい寺らしく、諸方から送られた小包や雑誌類、本、手紙などが封も切られずに山と積まれてゐた。和尚はむつちりした指先で、鋏をとつて、小包の一つを器用に剥いた。
「東京から送つてきた菓子や。今ごろ、こんな菓子はめづらしい。店には出さんと、軍や官廳にだけ納めてるんやさうな」
われわれはお薄茶をいただき、つひぞ食べたこともない西洋の干菓子にやうなものを食べた。緊張すればするほど、粉が際限もなく、私の光つてゐる黑のサージの膝にこぼれた。
「東京から送つてきた菓子や。今ごろ、こんな菓子はめづらしい。店には出さんと、軍や官廳にだけ納めてるんやさうな」
われわれはお薄茶をいただき、つひぞ食べたこともない西洋の干菓子にやうなものを食べた。緊張すればするほど、粉が際限もなく、私の光つてゐる黑のサージの膝にこぼれた。
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