三島文學はいい。實にいい。つづきです。
父の死によつて、私の本當の少年時代は終わるが、自分の少年時代に、まるきり人間的關心といふべきものの、缺けてゐたことに私は愕くのである。そしてこの愕きは、父の死を自分が少しも悲しんでゐないのを知るに及んで、愕きとも名付けやうのない、或る無力な感懐になつた。
駈けつけたとき、父はすでに棺の中に横たはつてゐた。といふのは、内浦まで徒歩で行つて、そこから船を賴んで、浦づたひに成生へかへるには、丸一日かかつたからである。季節は梅雨入りの前の、照りつける暑い毎日である。私が對面すると匇々(そうそう)、柩は荒涼たる岬の燒場に運ばれて、海のほとりで燒かれることになつてゐた。
駈けつけたとき、父はすでに棺の中に横たはつてゐた。といふのは、内浦まで徒歩で行つて、そこから船を賴んで、浦づたひに成生へかへるには、丸一日かかつたからである。季節は梅雨入りの前の、照りつける暑い毎日である。私が對面すると匇々(そうそう)、柩は荒涼たる岬の燒場に運ばれて、海のほとりで燒かれることになつてゐた。
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