金閣寺といふ寺はありません。鹿苑寺金閣です。三島由紀夫はそれをよくわかつてゐて、題名は「金閣寺」ですが、文章の中では「金閣」です。なぜ題名を金閣寺にしたのか・・・? この本を讀んでいくうちにわかるのでせうか?
つづきです。
つづきです。
・・・・・數ケ月ぶりに見る金閣は、挽歌の光の中に靜である。
私は得度の折に剃られたばかりの靑々とした頭をしてゐた。空氣がぴつたりと貼りついてゐるやうなその感覺、それは自分の頭の中で考へてゐることが、薄い敏感な傷つきやすい皮膚一枚で、外界の物象と接していると謂つた妙に危機な感覺だ。
さういふ頭で金閣を見上げると、金閣は私の目からばかりではなく、頭からも滲み入つて來るやうに思はれる。その頭が日照りに應じて熱く、夕風に應じて忽ち涼しいやうに。
『金閣よ。やつとあなたのそばに來て住むやうになつたよ』と、私は箒の手を休めて、心に呟くことがあつた。『今すぐでなくてもいいから、いつかは私に親しみを示し、私にあなたの秘密を打ち明けてくれ。あなたの美しさは、もう少しのところではつきり見えさうでゐて、まだ見えぬ。私の心象の金閣よりも、本物のはうがはつきり美しく見えるやうにしてくれ。又もし、あなたが地上で比べるものがないほど美しいなら、何故それほそ美しいのか、何故美しくあらねばならないのかを語つてくれ』
私は得度の折に剃られたばかりの靑々とした頭をしてゐた。空氣がぴつたりと貼りついてゐるやうなその感覺、それは自分の頭の中で考へてゐることが、薄い敏感な傷つきやすい皮膚一枚で、外界の物象と接していると謂つた妙に危機な感覺だ。
さういふ頭で金閣を見上げると、金閣は私の目からばかりではなく、頭からも滲み入つて來るやうに思はれる。その頭が日照りに應じて熱く、夕風に應じて忽ち涼しいやうに。
『金閣よ。やつとあなたのそばに來て住むやうになつたよ』と、私は箒の手を休めて、心に呟くことがあつた。『今すぐでなくてもいいから、いつかは私に親しみを示し、私にあなたの秘密を打ち明けてくれ。あなたの美しさは、もう少しのところではつきり見えさうでゐて、まだ見えぬ。私の心象の金閣よりも、本物のはうがはつきり美しく見えるやうにしてくれ。又もし、あなたが地上で比べるものがないほど美しいなら、何故それほそ美しいのか、何故美しくあらねばならないのかを語つてくれ』
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