金閣寺(歴史的假名遣ひと正し漢字)

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 どきどきします。つづきです。
 男は茶碗をかかげ、そのふしぎそうな茶を飲み干した。女の白い胸元は隱された。

 私たちは背筋を強ばらせてこれに見入つた。あとから順を追つて考へると、それは士官の子を孕んだ女と、出陣する士官との、別れの儀式であつたかとも思はれる。しかしそのときの感動は、どんな解釋をも拒んだ。あまりに見詰めすぎたので、いつもまにかその男女が座敷から姿を消し、あとひろい緋毛氈だけの殘されてゐることに、基づくのには暇がかかつた。

 私はあの白い横顔の浮彫と、たぐひな白い胸とを見た。そして女が去つたあとでは、その一日の殘りの時間も、あくる日も、又次の日も、私は執拗に思ふのであつた。たしかにあの女は、よみがへつた有爲子その人だと。

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このページは、宝徳 健が2014年11月28日 09:19に書いたブログ記事です。

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