凛として五十七

　政孝は自伝「ウイスキーと私」に誇らしげにこう記している。

「三百数十年の歴史をもつスコットランドでも、三つのタイプの工場をつくった工場も企業も人もいない筈である。幸いにも命ながらえて、その宿題を達することが出来た。私は、ウイスキーに生きた男としての幸せを、今更のようにかみしめている」

　ニッカウヰスキーは平成元年（1989年）、スコットランドのフォート・ウイリアムスにああるベン・ネヴィス蒸溜所を買い取った。ベン・ネヴィス蒸溜所は1825年に設立された歴史ある蒸溜所だったが、1983年に閉鎖されていた。

　政孝の長男の威によれば、現地の反感をおそれて、極秘に交渉をすすめてきたが、地元の新聞にすっぱ抜かれ、さらに好意的な内容だったので驚いたという。

「誰がオーナーでも、いいものをつくればいいということなのです」

　改めてスコッチウイスキーの懐の大きさを実感した。