ちよつとあいてしまひましたね。主人公の母が父の一周忌に金閣寺に主人公を訪ねてきたところです。
私は母を殘酷な言葉で迎へるのが嬉しかつた。しかし昔ながらに、母が何も感ぜず、何も抵抗しないことが齒痒かつた。それでゐて母がもしや閾(しきい)を越えて私の中へ入つてくることは、創造するだに怖かつた。
母は日に燒けた顔に、小さな狡さうな落ち窪んだ目を持つてゐた。脣(くちびる)だけは別の生き物のやうに赤くつやつやしてをり、田舎の人の頑丈な硬い大柄な齒が並んでゐた。都會の女なら厚化粧をしてをかしくない年であつた。できるだけ醜くしてゐるやうな花の顔が、どこかに澱みのやうに肉感を殘してゐるのが、私には敏感にわかり、それを憎んだ。
母は日に燒けた顔に、小さな狡さうな落ち窪んだ目を持つてゐた。脣(くちびる)だけは別の生き物のやうに赤くつやつやしてをり、田舎の人の頑丈な硬い大柄な齒が並んでゐた。都會の女なら厚化粧をしてをかしくない年であつた。できるだけ醜くしてゐるやうな花の顔が、どこかに澱みのやうに肉感を殘してゐるのが、私には敏感にわかり、それを憎んだ。
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