三島由紀夫の不朽の名作「金閣寺」を讀みながら、正しい日本語を學習してゐます。まだ「を」「「わ」の使ひ方が分かりません。う~ん。
主人公と母の心理的合戰が始まります。ドキドキします。三島由紀夫ならではです。
主人公と母の心理的合戰が始まります。ドキドキします。三島由紀夫ならではです。
老師の前から下つて、思ふ存分一泣きしたあと、今度は母は、配給物のスティプル・ファイバーの手拭で、日に燒けた胸もとをはだけて拭いた。動物的に光つた生地の手拭は、汗に濕(しめ)つて、いよいよ光つた。
リュックサックから米をとり出した。老師にあげるのだと言つた。私は默つてゐた。更に母は古い鼠いろの眞綿に幾重にも包んだ父の位牌をとり出して、私の本棚の上に置いた。
「ありがたいこつちやな。あしたは和尚様にお經をあげてもろうて、お父さんもよろこんでるやろ」
「命日がすんだら、お母さんは成生へ歸るのんか?」
母の答は意外であつた。母はあの寺の權利をすでに人に譲り、わづかな田畑も處分して、父の療養費の借金を皆濟し、これからは身一つで、京都近郊の加佐郡の伯父の家へ身を寄せるやうに、話をつけて來たのだつた。
私の歸るべき寺はなくなつた!あの荒涼とした岬の村には、私を迎へるべきものがなくなつたのだ。
このとき私の顔に浮かんだ解放感を、母はどう釋つたかしらない。私の耳元に口をつけて、かう言つた。
リュックサックから米をとり出した。老師にあげるのだと言つた。私は默つてゐた。更に母は古い鼠いろの眞綿に幾重にも包んだ父の位牌をとり出して、私の本棚の上に置いた。
「ありがたいこつちやな。あしたは和尚様にお經をあげてもろうて、お父さんもよろこんでるやろ」
「命日がすんだら、お母さんは成生へ歸るのんか?」
母の答は意外であつた。母はあの寺の權利をすでに人に譲り、わづかな田畑も處分して、父の療養費の借金を皆濟し、これからは身一つで、京都近郊の加佐郡の伯父の家へ身を寄せるやうに、話をつけて來たのだつた。
私の歸るべき寺はなくなつた!あの荒涼とした岬の村には、私を迎へるべきものがなくなつたのだ。
このとき私の顔に浮かんだ解放感を、母はどう釋つたかしらない。私の耳元に口をつけて、かう言つた。
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