妊娠した豐玉毘売は、
「私は、あなた樣の子を妊娠しまいたが、そろそろ生まれる時期にあります。この生まれてくる子は、天つ神に御子になられるので、海原で生むべきではないと思ひ、ここへやって来ました」
かうして海邊の濤打ち際に、鵜(う)の羽を葦(あし)に見立てて産屋(うぶや:赤ちゃんを産むための小屋)をお作りになりました。
しかしその途中、豊玉毘売(とよたまびめ)は、まだ産屋を葺(ふ)き合えぬ(葺き終えぬ)うちに、お腹の子が急に産まれそうになり、それを堪えきれなくなったので、産屋にお入りになりました。
子を生もうとする時に、夫の山幸彦に次のように云ひました。
「異国の者は、子を生むとき、必ず自分の国の姿に戻って生むものです。ですので、私も本来の姿になって生もうと思います。どうか、私の姿を見ないでください。お願いします」
しかし、山幸彦はどうしてそのような事を言ふのか不思議にも、奇妙にも思い、豊玉毘売(とよたまびめ)が生もうとする様子を、ひそかに覗き見てしまひました。
すると、豊玉毘売(とよたまびめ)は八尋和邇(やひろわに(和邇:サメの事)一尋が大人が両手を広げたときの長さで、約1.5メートルほどの長さなのでその八倍)になって、這ってうねりくねらせていたのです。
山幸彦は、その姿に驚いてしまい、また、怖くもなり逃げて退いてしまいました。
豊玉毘売(とよたまびめ)は、自分の本当の姿を見られたことを知り、とても恥ずかしく思い、そして、御子を生み終えると、
「私は常に、海の道を通って国を行き来するつもりでいましたが、あなた様に私の本当の姿を見られてしまったことは、とても恥ずかしくて、もうここにいることが出来ません」
と言い、海とこの国(海の国)と地上の国との境である海坂(うなさか)を塞いで海神の世界へお帰りになってしまいました。
これは何を遺言としてゐるのか。男は女だけの場所には立ち入つてはいけないといふことです。特にお産などは。なのに今、立会出産などといふ愚かなことが行はれてゐます。民族が、何千年にもわたつて、積み重ねてきた人間としての行いを崩壊させてゐるのが現在の世の中です。
左と右の話からかういふことになつてしまひましたが、明日からまた源氏物語に戻します。
でも、かういふ日本人としての背景を知らないと古典は讀めません。小学校から英語を教えるのではなく、かういふことを教えないとね。
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