「私の方から王のもとにまいると、あの男は権力に弱い、と言われる。王のほうから迎えに出れば、あの王は人材を好むと言われる。王はどうなさるおつもりでしょうな」
取次ぎの者がとって返して言上しました。
「しばらくお待ち願え。すぐ参る」
王は、玄関まで出迎えて、奥に案内しました。
王「私は、先君の宗廟を守り、一国の政治をあずかっている。先生は、誰に対しても直言する方だと聞くが・・・」
斗「とんでもない。なにしろ乱世に生まれて、ろくでもない君主に仕えるのです。うかつに直言などできません」
宣王はありありと不機嫌な表情をしました。王斗が続けます。
斗「ご先祖の桓公には、好きなものが五つあった。それによって、桓公は諸侯を従え、天下に号令し、天子のお墨付をいただいて、覇者となった。いま、あなたが好むものは、四つあるようです」
宣王は喜んだ。
王「私は斉の国をあずかっているが、国威の失墜のみを恐れている。とても四つなど及びもつなかいことだ」
斗「いやいや、桓公は馬を好んだが、あなたも馬を好む。桓公は犬を好んだが、あなたも犬を好む。桓公は酒を好んだが、あなたも酒を好む。桓公は女を好んだが、あなたも女を好む。さらに桓公は人材を好んだ。しかし、あなたは人材だけは好まない」
王「いまの時代に人材はいない。好もうにも好めないではないか」
斗「今の世に麒麟やりょく耳(りょくじ:馬の名前)はいなくとも、あなたは馬車を引かせる馬にはこと欠かない。東郭(とうかく:ウサギの名前)を 追った盧氏(ろし:犬の名前。名犬)の犬はいなくても、飼い犬にこと欠かない。また、もうしょう(有名な美女)、や西施(せいし:有名な美女)はいなくて も、後宮は女であふれています。あなたは人材を好まないだけのこと。いないなどとは、とんでもない話です」
王「私は国を憂え民を愛している。人材を招いてよい政治をとりたいとはむろん願っている」
斗「そうはおっしゃるが、民よりも絹を愛しているように思います」
王「どういう意味か」
斗「絹の冠を作らせるばあい、お側にはべる家臣ではなく、専門の職人を使うのはなぜでしょうか。職人の方が上手につくるからです。ところが国を治める場合には、おべっかの上手な家臣ばかり用いられておる。だから、民よりも絹を愛していると申し上げたのです」
王「私が間違っていた」
宣王は、五人の人材を登用し斉の国はよく治まるようになりました。絶妙の言い回しですね。
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