陳軫は、斉王の使いとして楚の大将昭陽と会見しました。まずひざまずいて戦勝を祝って言いました。
「楚の国では、敵を破って大将を殺せば、どれほどの官爵が得られますか」
昭陽「さよう、官は上柱国、爵は上執珪(じょうしつけい)じゃなあ」
陳軫「それよりも上は、なんですか」
「令尹(れいいん:総理大臣)だけだなぁ」
陳軫「なるほど令尹だけですな。令尹といえばたいしたもの。しかし、二人もおくわけにはまいりますまい。ひとつ例え話を申し上げましょう。楚の国のある家
で祝い事があり、奉公人に大杯一杯の酒が振舞われることになりました。「みんなで飲むと足りないが、一人分ならタップリある。それぞれ地面に蛇の絵を画
き、先に画き終えた者が飲むことにしよう」
相談がまとまりました。最初に画き終った男がのどを鳴らして、左手で大杯を引き寄せ、右手でなおも書き足しながが、叫びました。
「どうだい、足まで画けるぞ」
足までできないうちに、次に画き終った男が、大杯を奪い取って、
「蛇には足はない。足を画いたら蛇の絵じゃないよ」
足まで画いた男は、みすみす酒を飲みそこなったのです。
さて、あなたは楚の大臣となって魏を攻め、敵を破って大将を殺し、城を八つも攻略しました。その勢いに乗じて斉まで攻めようとしています。斉では あなたをたいへん恐れています。功名は、もはやこれで十分ではないでしょうか。これ以上勝っても令尹にはなれません。勝って調子に乗りすぎると、身の破滅 を招きましょう。せっかくもらえる爵位も人にとられてしまいます。それはちょうど蛇足を画くようなものです」
昭陽はなるほどと思い、兵を引きました。
外交とはなんとダイナミックなものでしょう。軍事力が背景にある外交は、平和をもたらしますね。
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