片目の乞食のアジブの話でした。磁石島に乘つた船がどんどん引き寄せられつひにぶつかり、船は砕け散ってしまひました。
それ以後のことはアジブははつきりと思ひ出すことが出來ません。おそらく氣を失ひ、本能のままに手足を動かして波の間を漂ったのでせう。ふたたび氣づいたときは、硬く黒ずんだ岩の間に軆體を横たえてゐました。
周りを見渡しました。家来たちが水に浮いてゐます。だれ一人助かった者はゐません。
途方にくれて見回すと、一筋の道が黒い島の山頂につづいてゐます。いくしかありません。
やつとのことで上り、草原の中に倒れまた意識が遠くなりました。
どれほどの時が経ったのでせう。目が覺めたアジブの耳に聲が聞こえました。 つづく
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