目を覺ましたアジブにどこからか聲が聞こえます。
「アジブよ。目醒(めざ)めて足元の土を掘れ。青銅の弓と三本の鉛の矢を見出すであろう。その弓と矢をとって、山頂の騎士を射て。騎士は海に落ち、馬はお前の足元に倒れるであろう。馬を足元の穴に埋めよ。やがて大波が山頂を洗い、波の間より一艘の小舟が現れるであろう。お前はその船に乗り、漕ぎ手の漕ぐままに身を任せればいい。安寧の島に着き、故国へ帰ることも出来よう。だが、忘れるな、喜びのあまり、アラーの名を唱えてはならない。唱えればお前ふたたび不幸の海に漂うであろう」
アジブはこの聲に從ひましたが、なんとなんと、島が見えたとたんに思はず、アラーの御名をとなえてしまひました。
あらら。
たちまち小舟は大濤に襲われ転覆し、アジブは再び半死半生の漂流のすえ、見知らぬ岸に打ち上げられました。どうやら無人島です。
なんとか一命はとりとめた者の、これからどうしたらいいかがわかりません。木の實をあさり木陰で眠り、なんとか命をつなぐことはできました。でも、故國に歸へる手段がありません。
ある日、沖合から船が近づいてくるのが見えました。でも、なにかいわくありげな船だったので、アジブは木に登り、樣子をうかがいました。 つづく
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