少年は十五歳になりました。折しも磁石島の騎士が射落とされたとのうわさが届きました。
老父は、このかわいい我が子が、アジブなどと云ふ男に殺されないやうに、この穴に隠したのでした。
アジブびっくり。
少年はかわいくてしかたがありません。それにもまして聡明です。自分の名前を明かすのは得策ではありません。
ア「では十五歳が過ぎれば、危険は確實に去るのだね」
少「はい。その日を待って父が迎えに來ます」
ア「あと何日だね?」
少「四十日です(千夜一夜物語はこの四十といふ數字が大好きです)」
ア「心配することもあるまい。一人暮らしでは退屈でえうから、私がお相手をしよう。無事に危機が避けられた時には、父上に事情をお話いただき、私が故國に帰れるやうにとり計らってはもらえないだらうか?」
少年は快諾し、二人の生活が始まりました。日々暮らすうちにアジブはこの少年の聡明さが益々好きになりました。日時は嵐のやうにすぎ、四十日目がやつてきました。 つづく
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