息子が小さい時、彼が起きてゐるときに早く歸つたら、必ず、寢物語をしてゐました。古事記、聖書、千夜一夜物語、童話などなど。もちろんきわどい内容はカットして子供向けに。
樂しかつたなあ。思ひ出します。
この四十番目の話の時に、アジブが四十番目のドアを開けるところにくると「アジブあけちゃだめだ!」と息子が叫びました。
そう、アジブは四十番目のドアをあけてしまつたのです。
中には一頭の黒い馬が立ってゐました。
「べつにどうつてことはないではないか」
アジブはその背に乘りました。馬は激しくいななき、たちまち空高く舞い上がりました。
アジブは転げ落ちます。その瞬間、馬の尾がアジブの左眼を払い、眼の玉がコロコトと落ちました・・・。
アジブは後悔しましたが、もうもとへはもどりません。氣がつくと、情景は一轉し、あの住人の男たちが住む館の前に・・・。そう、アジブは、あの男たちと同じ姿になつてしまつたのです。
片眼の乞食僧の身の上話はここで終はります。この坊さんこそが、わが身の不幸を嘆き世をはかなんで流浪の旅に出たアジブその人でした。
だからなんだって? いいんです、理屈は。千夜一夜物語とはこんなものです。
ちなみに、四十といふ數字は、イスラム世界では「多數」を意味します。
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