春の夢の 夢の浮橋 とだえして 峰に別るる 横雲の空
藤原定家は、決して源氏物語をまとめやうとしただけではありません。そんなちっぽけな源氏愛ではなかつたのです。なんと二百年前の源氏物語からインスピレーションを得て、新しい時代の和歌を生み出しました。それがこの和歌です。
シーンは・・・・。
夜明け。峰から雲が離れてゆく。「峰」が男。「雲」が前夜に男のもとを訪れて契った女神・・・。白みゆく朝の光の中、次第に遠ざかる女神を見送る男の心を去来するのは、昨夜の「夢」のやうな濃密な逢瀬の記憶? それとも、次にいつ逢へるかわからぬ絶望感?
そして「夢の浮橋」といふ言葉。もうたまりませんね。源氏物語の最終帖です。
今の私たち日本人に、かういふ和歌が詠める人が何人いるでせうか?悔しくて仕方がありませんが、ドキドキします。私達の先輩たちはなんとすごい人がいたのか。今の私ができなくても、生きる勇氣になります。定家は、この歌によって、「夢の浮橋」といふ言葉を「物語の言葉」から「詩歌の言葉」へと昇華させたのです。この情緒がないから私は小者なんですね。
さて、源氏物語のつづきです。
帰京がかなつて、光源氏の周りはみんな大喜びです。でも、光源氏は、「ここの姫君がなあ」と、またもや板ばさみ。自分のせいやん(笑)。
私は、一番初めに源氏物語に接した時に、「なんや平安時代は、色戀ばつかりやん」と思ひました。でも、すごいと思ひませんか? 國家安全保障や經濟が安定してゐなければこんなことは絶對にありえません。
光源氏の出發が明後日になつたとき、光源氏は明石の君のところにいました。この頃は、男は夜に姫君のところにしのんでいくので、明るいところで女性をみることはあまりありません。光源氏ものとき、はじめて明石の君を昼の光の中でよくみました。
「なんていい女なんだ」
なんとか都に連れて歸れないかを考へますが・・・・・。
いよいよ光源氏が都に着きました。 つづく
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