大阪市中央区の大阪メトロ谷町線谷町六丁目駅近くの大通り沿いにたたずむ、創業70年の老舗書店「隆祥館(りゅうしょうかん)書店」。わずか13坪の店舗には、2代目店主の二村(ふたむら)知子さんが厳選した書籍が所狭しと並ぶ。
シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)日本代表だった二村さんが店で働き出したのは約25年前。平成27年に亡くなった父、善明さんが創業した同店は、出版業界の不況と大型チェーン店の進出などで売り上げは下降気味だった。電子書籍も台頭し始め、「不安で仕事が手につかなくなるほど。なんとかしなければと焦っていた」。
きっかけは23年、常連客の「作家の話を聞いてみたい」との声だった。作家を呼んで直接話を聞くトークイベントを始めたところ好評で、「本をライブ感覚で知ってもらい、買ってもらう。これだと思った」。出版社などに自ら交渉し、医師で作家の鎌田実さんや劇作家の平田オリザさんら著名人を迎えて約250回開催。毎回50~150人ほどが訪れ、いまでは出版社側からイベント開催の依頼も寄せられるほどになった。
28年からは、幼い子供を育てる母親を支援しようと月1回「ママと赤ちゃんのための集い場」を開催。臨床心理士と絵本を読んだり工作をしたりするほか、遠方に住む母親向けに選書し郵送する取り組みも行う。
二村さんの心に常にあるのは「本屋の役割は地域貢献」との父の言葉だ。最近、幼い頃から店に通っていた男子大学生が来店し、「ここで買った図鑑がきっかけでいろんなものに興味を持った」と話したという。「うれしかった。最近、父の言葉の意味が少し分かるようになった」と笑顔を見せる。
一方で、小さい書店の経営に限界を感じることも。長年、本の問屋である「取次店」と書店の間には、配本数が書店の規模で決まったり、店側が望まない本を送られ代金を請求されるなどの慣習があるという。
二村さんの店は新刊を全国で最も多く売り上げても、文庫になったときに一冊も配本されなかったこともあった。「実績を評価してほしい。父のように、おかしいと訴えて是正していきたい」と話す。
実は善明さんは、資金繰りの厳しい小規模書店にとって死活問題だった慣習の一つについて、是正を求めて公正取引委員会に訴えて闘ったことがある。
父の姿を胸に、新たな書店のあり方を模索しようと、今年9月、書店の規模に関係なく書店側が必要な部数を仕入れることができるシステムがあるドイツへ視察に訪れた。「これからも本屋と地域のために精いっぱいやっていきたい」。2代目は未来を見据えた。
「13坪の本屋の奇跡 『闘い、そしてつながる』 隆祥館書店の70年」(税抜き1700円)は、2019年12日から25日から全国の書店で販売されています。
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