源氏物語 第一帖「桐壺」に桐壺帝が、最愛の桐壺を失った母親に使者を派遣します。「靫負の命婦 ゆげいのみょうぶ」という女性です。命婦は、「夕月夜のをかしい(美しい)ほど」に宮中を発して桐壺の母親としんみりと語り、宮中へと戻ります。そのときの場面です。
「月の入り方(沈みかけ)の空清う澄みわたれるに、風いと涼しくなりて、草むらの無私の声々、催し顔なるも、いと立離れにくき草のもとなり」
三条西実隆は、こう鑑賞します。「これ以前の文章に、夕月夜の美しい頃に宮中を出発したと書いてある箇所と、対応させて読むべきだ。次第に夜が更けてきたことが分かる。この夜のしんみりした雰囲気が、たっぷりとした余情で描かれている」
この鑑賞文学が実隆の真骨頂です。読んでいる人に問いかけます。自分の身になって読めよと。素晴らしいですね。
さて、本文です。
昔、頭中将(とうのちゅうじょう)今、内大臣にはかわいい娘がいて名前を 雲居雁(くもいのかり)と言います。琴が得意なかわいい子です。父も祖母のいずれこの姫には大いなる立身出世をと大望を抱いています。
この子が、光源氏の息子 夕霧 と仲良くしているから、さあ、大変。ちなみに、夕霧十二歳、雲居雁十四歳です。
内大臣の怒ること怒ること。自分の知らない所で勝手にくっついているのが気に食いません。「母上は何をしているんだ」とも考えます。祖母の大宮は知っていながら許していました。
内大臣は、大宮の所に文句を言いに行きます。
内「従姉弟 というのがよくない!」
大「えっ、私は何も知りませんよ。女房達のつまらない噂話でしょう」
内「とんでもない。事実です」
さてさて、どうなることか。
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