今日は面白い話ではないかもしれません。でも、親父さんの姿を知るにはいいかもしれません。
私が出光興産株式会社に入った頃は、まだスタンドは簡易POSでした。一部はまだ伝票で手書きでした。日報も手書きが主流でした。アナログ商売でした。
そこに本格的なPOSが入ることになりました。それも平成八年を過ぎた頃です。メーカーは3社でした。N社、T社、あとどこだっけ。まあ、いいや。
一番大手はN社でした。さあ、宇佐美のTCSは200〜300あります。納入されたらPOSメーカーのすごい実績になります。
ちょうどその商談の時に私は、宇佐美の社長室にいました(だいたいお客様がきてもここにいろと親父さんに言われました)。
N社の部長だったか支店長だか忘れましたが、親父さんに言いました。「社長、最初の20台(だったと思います)は、〇〇円安くしますので、次の1台から△△にします」
私は、「(あっ、それだめ)」と思いました。親父さんはこういうことが大嫌いなのです。いつも、「宝徳、正直な商売をやれ」と言われていました。
親父さんは一言N社に「何を言っているか意味がわからん。それができるならすべてその安い価格にすればいいじゃないか」とそれこそ座っている椅子を蹴って自分の社長席にっ戻ってしまいました。その後は不機嫌な顔をして一言も口を聞きません。
N社はしかたなく帰っていきました。
後日、出光の名古屋支店に私のN社のその幹部が尋ねてきました。私を出光の人間と知ったからです。「なんとか親父さんにとりなってくれ」との依頼でした。そういう依頼を受けることも親父さんは大嫌いです。受けるわけにはいきません。「下手を売りましたね。あれは親父さんが一番嫌う交渉ですし、こんな依頼をあなたから受けたから私も親父さんが口を聞いてくれなくなります。親父さんがあの状態になったら誰が何を言っても聞きませんよ。それにあなたの尻拭いをしたらPOSメーカー間への中立性が失われます」と答えました。
その後私は大阪支店に転勤しましたので結果はどうなったかは私の知るところではありません。
私の記憶では、親父さんは一度も不正な商売をしたことがありません。これ自身が宇佐美の信用なのですね。
かたくなに 不器用までに 筋通す 親父の姿 なつかし思ふ
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