中小M&Aガイドライン(第三版)遵守の宣言について
② 事業用資産等の整理・集約
3 中小 M&A における一般的な手続の流れ(フロー)
(1) 意思決定
(2)-1 仲介者・FA を選定する場合
① 仲介者・FA の選定及び仲介契約・FA 契約の締結
ア 仲介者・FA の選定等
イ 仲介契約・FA 契約の締結
② 仲介者・FA の比較
③ セカンド・オピニオン/他の支援機関への相談の利点・留意点
(2)-2 仲介者・FA を選定せず、工程の多くの部分を自ら行う場合
(3) バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
(4) 譲り受け側の選定(マッチング)
① マッチング支援の流れ
② マッチング支援を単独の支援機関に依頼する場合と複数の支援機関に頼する場合の比較
③ 譲り受け側候補先の紹介が受けられない場合の対応
(5) 交渉
(6) 基本合意の締結
(7) デュー・ディリジェンス(DD)
(8) 最終契約の交渉・締結
① 譲り渡し側の経営者保証の扱い
ア M&A を進める前の譲り渡し側の信用力・ガバナンスによる解除
イ 譲り受け側の信用力・ガバナンスを踏まえた解除又は譲り受け側への行
② デュー・ディリジェンス(DD)の非実施
③ 表明保証の内容
④ クロージング後の支払・手続
ア 譲渡対価のクロージング後分割払い
イ 役員退職慰労金のクロージング後払い
ウ 株式のクロージング後段階的取得
⑤ 最終契約後の状況に応じた支払の変動
ア アーンアウト条項
イ 株価調整条項
ウ 支払金の返還に関する条項
⑥ 譲り渡し側経営者に関連する資産・負債等の最終契約後整理
⑦ 最終契約からクロージングまでの期間
(9) クロージング
(10) クロージング後(ポスト M&A)
III M&A プラットフォーム
1 M&A プラットフォームの基本的な特徴
2 M&A プラットフォーム利用の際の留意点
(1) 情報の取扱い
(2) 利用する M&A プラットフォームの選択
3 M&A プラットフォームの手数料
(1) 料金体系
(2) 具体例
IV 事業承継・引継ぎ支援センター
1 事業者同士の中小 M&A の支援
(1) 支援フロー
① 初期相談対応(一次対応)
② 登録機関等による M&A 支援(二次対応)
③ センターによる M&A 支援(三次対応)
(2) センターの構築するデータベース
2 その他の支援
(1) 後継者人材バンク
(2) 経営資源の引継ぎ
V 仲介者・FA の手数料についての考え方の整理
1 手数料の種類
(1) 着手金
(2) 月額報酬
(3) 中間金
(4) 成功報酬
① 譲渡額(譲受額)
② 移動総資産額
③ 純資産額
2 レーマン方式及び最低手数料
3 具体例
4 仲介契約・FA 契約前の手数料に係る確認・対応
(1) 仲介契約・FA 契約前の手数料と提供する業務内容に係る確認
① 手数料に関する事項について
② (仲介契約の場合)相手方の手数料に関する事項について
③ 提供される業務に関する事項について
ア 必要となる仲介・FA 業務
イ マッチングの難易度
ウ 提供される業務の質
(2) 業務内容を踏まえた手数料の妥当性について判断又は納得ができない合の対応
◆ 用語集
本ガイドラインで用いられる主な用語について、以下のとおり解説する。
1.M&A 関連用語
○M&A
M&A とは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称であるが、我が国では、
広く、会社法の定める組織再編(合併や会社分割)に加え、株式譲渡や事業譲渡を
含む、各種手法による事業の引継ぎ(譲り渡し・譲り受け)をいう。
M&A の主な手法については、参考資料1「中小 M&A の主な手法と特徴」を参照さ
れたい。
○中小 M&A
中小 M&A とは、後継者不在の中小企業(以下「譲り渡し側」という。)の事業を、
M&A の手法により、社外の第三者である後継者(以下「譲り受け側」といい、本ガイド
ラインでは譲り受け側の候補者も含むことがある。)が引き継ぐ場合をいう。
したがって、本ガイドラインにおいて、中小企業の経営者の親族による事業承継
(以下「親族内承継」という。)及び従業員承継は、中小 M&A に含めないものとする。
なお、会社について記載する場合、持分会社等の形態もあり得るものの、本ガイド
ラインでは、代表的な会社形態である株式会社を念頭に記載する。その際には、譲り
渡し側が金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されてい
る株式(いわゆる上場株式)又は同法第67条の11第1項に規定する店頭売買有価
証券登録原簿に登録されている株式(いわゆる店頭登録株式)を発行している株式
会社に該当しない場合を前提とする。
○マッチング
マッチングとは、譲り渡し側と譲り受け側が M&A の当事者となり得る者として接触
することをいう。譲り渡し側と譲り受け側の交渉は、マッチング後に開始することにな
る。
○支援機関
支援機関とは、中小 M&A を支援する機関である。具体的には、M&A 専門業者、金機関、商工団体、士業等専門家、M&A プラットフォーマーのほか、事業承継・引継支援センター等の公的機関等をいう。M&A 専門業者は、譲り渡し側・譲り受け側に対するマッチング支援や、中小 M&Aの手続進行に関する総合的な支援(以下「マッチング支援等」という。)を専門に行う。民間業者であり、主に仲介者・FA(フィナンシャル・アドバイザー)に分類される(なお、後述のとおり、金融機関、士業等専門家や M&A プラットフォーマーがこれらと同様の業務を行うこともある。)。金融機関には、与信(融資)業務等に加え、主に顧客に対してマッチング支援等を行う者もいる。商工団体(商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、商店街振興組合連合会)は、中小企業の経営全般に関する地域の身近な相談窓口として中小企業支援を行なっている。 士業等専門家、M&A プラットフォーマー及び事業承継・引継ぎ支援センターについては後述する。
○士業等専門家
士業等専門家とは、公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士等の資格を有する専門家をいう。
これら士業等専門家の中には本来業務のほか、マッチング支援等を行う者もいる。
○仲介者/仲介契約
仲介者とは、譲り渡し側(※)・譲り受け側の双方との契約に基づいてマッチング支等を行う支援機関をいい、一部の M&A 専門業者がこれに該当する(業務範囲は個人の支援機関ごとに異なる。)。なお、金融機関、士業等専門家や M&A プラットフォーマーにおいても仲介者と同様の業務を行う場合は、業務の性質・内容が共通する限りにおいて、仲介者として本ガイドラインの適用があるものとする。
仲介契約とは、仲介者が譲り渡し側(※)・譲り受け側双方との間で結ぶ契約をい
い、これに基づく業務を仲介業務という。
※株式譲渡を前提に、株主である経営者等が当事者となる場合もある。
○FA(フィナンシャル・アドバイザー)/FA 契約
FA(フィナンシャル・アドバイザー)とは、譲り渡し側(※)又は譲り受け側の一方と契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関をいい、一部の M&A 専門業者がれに該当する(業務範囲は個別の支援機関ごとに異なる。)。なお、金融機関、士業等専門家や M&A プラットフォーマーにおいても FA と同様の業務を行う場合は、業務の性質・内容が共通する限りにおいて、FA として本ガイドラインの適用があるものとする。FA 契約とは、FA が譲り渡し側(※)・譲り受け側の一方との間で結ぶ契約をいい、
これに基づく業務を FA 業務という。
なお、海外においては、主に大規模な M&A に関して、高度な助言業務等を提供する FA に限定して FA(Financial Adviser)と称することがあるが、我が国においては、中小 M&A に関しても、譲り渡し側・譲り受け側の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関を FA と称することが一般的であるため、本ガイドラインでは、この解釈に従うものとする。
※株式譲渡を前提に、株主である経営者等が当事者となる場合もある。
〇M&A プラットフォーム/M&A プラットフォーマー
M&A プラットフォームとは、インターネット上のシステムを活用し、オンラインで譲り渡し側・譲り受け側のマッチングの場を提供するウェブサイトをいう。
M&A プラットフォーマーとは、M&A プラットフォームを運営する支援機関をいう(利用対象者や提供されるサービスの内容は、各 M&A プラットフォーマーにおいて異なることがある。
〇M&A 支援機関登録制度 (https://ma-shienkikan.go.jp/)
M&A 支援機関登録制度(本説明箇所において「登録制度」という。)とは、中小企業が安心して M&A に取り組める基盤を構築するために令和3年8月に創設された国の制度であり、本ガイドラインの遵守を宣言する等した仲介業務又は FA 業務を行う者が登録を受けることができる。登録制度に登録していなくとも、仲介業務や FA 業務を行うことは可能であるが、令和5年9月現在、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)において、M&A 支援機関の活用に係る費用(仲介又は FA の手数料)の補助については、予め登録制度に登録を受けた支援機関の提供する支援に係るもののみを補助対象としている。登録制度等を通じ、仲介業務や FA 業務を行う支援機関に対し、本ガイドラインの普及と理解を促している。
○セカンド・オピニオン / 他の支援機関への相談
セカンド・オピニオン(「他の支援機関への相談」ともいう。)とは、中小 M&A を行おうとしている者が支援機関と契約を締結する際や、支援機関から受けた助言の内容の妥当性を検証したい場合等に求める他の支援機関による意見や助言をいう。当ガイドラインにおいては、支援を受けようとする、又は既に支援を受けている元の支援機関と同様の業務を提供する者による意見や助言を「狭義のセカンド・オピニオン」といい、元の支援機関と異なる業務を提供する者、特に士業等専門家(公認会計士、税理士、弁護士等)や事業承継・引継ぎ支援センターによる意見や助言を「広義のセカンド・オピニオン」といい、これらはいずれもセカンド・オピニオンに含むものとする。
例えば、元の支援機関である仲介者から受けた助言について他の仲介者の意見を求めることは、狭義のセカンド・オピニオンに該当し、他方、仲介契約や M&A における最終契約を締結しようとする際に、契約内容の妥当性や合意した内容が適切に契約書に反映されているかについて弁護士に意見を求めることは、広義のセカンド・オピニオンに該当する。
○ノンネーム・シート(ティーザー)
ノンネーム・シート(ティーザー)とは、譲り渡し側が特定されないよう企業概要を簡単に要約した企業情報をいう。譲り受け側に対して関心の有無を打診するために使用される。
○ロングリスト/ショートリスト
ロングリストとは、基本的には、譲り渡し側がノンネーム・シート(ティーザー)の送付先を選定するにあたり、譲り受け側となり得る候補先(数十社程度となることが多い。)についての基礎情報をまとめた一覧表をいう。ショートリストとは、基本的には、ノンネーム・シート(ティーザー)を送付して関心を示した譲り受け側の候補先の中から、具体的に検討可能な候補先(数社程度となることが多い。)を絞り込んだ一覧表をいう。
なお、譲り渡し側に関する情報の拡散を可能な限り防止する観点から、仲介者・FAがロングリストの内容を譲り渡し側と協議しながら精査し、候補先を数社程度に絞り込んでショートリストとした後、ショートリスト記載の候補先にのみノンネーム・シート(ティーザー)を送付するケースもある。
○秘密保持契約(NDA、CA)
秘密保持契約とは、秘密保持を確約する趣旨で締結する契約をいう。具体的には、譲り受け側が、ノンネーム・シート(ティーザー)を参照して譲り渡し側に関心を抱いたりた場合に、より詳細な情報を入手するために譲り渡し側との間で締結するケースや、譲り渡し側や譲り受け側が仲介者・FA との間で締結するケース(仲介契約・FA約の中で秘密保持条項として含められるケースが多い。)がある。「NDA(Non-Disclosure Agreement)」や「CA(Confidential Agreement)」ともいう。
○企業概要書(IM、IP)
企業概要書とは、譲り渡し側が、秘密保持契約を締結した後に、譲り受け側に対して提示する、譲り渡し側についての具体的な情報(実名や事業・財務に関する一般的な情報)が記載された資料をいう。仲介者・FA が譲り渡し側から提供された情報を元に作成することが多い。インフォメーション・メモラン
Memorandum)」やインフォメーション・パッケージ「IP(Information Package)」ともいう。
○意向表明書
意向表明書とは、譲り渡し側が譲り受けの際の希望条件等を表明するために提出する書面をいう。基本的には法的拘束力を持たないことが多い。企業概要書に記載された情報等を踏まえて暫定的な希望条件等を記載し、後述のデュー・ディリジェンス(DD)に進む意向を表明する書面を第一次意向表明書、デュー・ディリジェンス(DD)の結果を踏まえて最終的な希望条件等を記載し、譲り受けを希望する意向を明確に表明する書面を第二次意向表明書(最終意向表明書)等と称することがある。
例えば、債務超過企業において譲り受け側(スポンサー)を選定する場合に、その過程の透明性・公正性を確保するため入札手続を実施するケース等において、意向性明書が用いられることがある。
なお、譲り受け側からの意向表明書に対する応諾書を、譲り渡し側が提出することにより、後述の基本合意とほぼ同様の合意を締結したものとして扱うこともある。
○基本合意書(LOI、MOU)
基本合意書とは、譲り渡し側が、特定の譲り受け側に絞って M&A に関する交渉を行うことを決定した場合に、その時点における譲り渡し側・譲り受け側の了解事項を確認する目的で記載した書面をいう。
Of Understanding)」ともいう。基本的に法的拘束力がないものの、譲り受け側の独占的交渉権や秘密保持義務等については、法的拘束力を認めることが通常である。
○デュー・ディリジェンス(DD)
デュー・ディリジェンス(Due Diligence)とは、対象企業である譲り渡し側における各種のリスク等を精査するため、主に譲り受け側が FAや士業等専門家に依頼して実施する調査をいう(「DD」と略することが多い。)。調査項目は、M&A の規模や実施希望者の意向等により異なるが、一般的に、資産・負債等に関する財務調査(財務 DD)や株式・契約内容等に関する法務調査(法務 DD)等から構成される。
なお、その他にも、ビジネスモデル等に関するビジネス(事業)DD、税務 DD(財務 DD等に一部含まれることがある。)、人事労務 DD(法務 DD 等に一部含まれることがある。)、知的財産(知財)DD、環境 DD、不動産 DD、ITDDといった多様な DDが存在する。
○クロージング
クロージングとは、M&A における最終契約の決済のことをいい、株式譲渡、事業譲等に係る最終契約を締結した後、株式・財産の譲渡や譲渡代金(譲渡対価)の全部又は一部の支払を行う工程をいう。
○PMI
PMI(Post-Merger Integration)とは、クロージング後の一定期間内に行う経営統合作業をいう。
○中小 PMI ガイドライン
(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf)中小 PMI ガイドラインとは、M&A 成立前の取組(プレ PMI)等を含めた PMI プロセス全般における中小企業の PMI の「型」を示すものとして、中小企業庁により令和4年3月に策定・公表されたガイドラインである。会社の規模等に応じて PMI の取組を「基礎編」と「発展編」に分けて紹介するほか、PMI に関する成功・失敗事例も盛り込んでいる。中小 PMI ガイドラインを動画で解説する「中小 PMI ガイドライン講座」
(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2023/230329shoukei.html)
も公表されている。
○PMI 実践ツール
(https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240329007/20240329007.html)
PMI 実践ツールとは、中小 PMI ガイドラインの標準的なステップ・取組等を踏まえてPMI に取り組むためのツールとして、中小企業庁により令和6年3月に策定されたものである。(1)PMI 分析ワークシート、(2)PMI アクションプラン、(3)統合方針書の 3 つのツールが公表されており、これらの活用方法を解説した「PMI 実践ツール活用ガイドブック」も公表されている。
○バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
バリュエーションとは、企業又は事業の価値を定量的に評価することをいう。評価額は、中小 M&A で譲渡額を決める際の目安の一つとして取り扱われる。評価手法は様々なものがあり、企業の実態や事業の特性等に応じた手法が選択される。バリュエーションの手法については、参考資料2「中小 M&A の譲渡額の算定方法」を参照されたい。
○チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項
チェンジ・オブ・コントロール条項とは、ある企業が締結している契約(例えば、賃貸契契約、取引基本契約、フランチャイズ契約等)について、当該企業の株主の異動や支配権の変動等により当該契約の相手方当事者に解除権が発生すること等を定める条項をいう。COC(Change Of Control)条項ともいう。
○表明保証条項
表明保証条項とは、契約の一方当事者が、他方当事者に対し一定の時点(一般的には最終契約締結時・クロージング時の両時点)において、当該契約に関する事項について、当該事項が真実かつ正確であることを表明し、かつその内容を保証する条項をいう(同条項違反に基づく損害賠償・契約の解除といった補償等についての規定も設けられることが通常である。)。特に、譲り渡し側(又はその経営者等)が一定の事項について表明保証していたにもかかわらずこれに違反した場合に、譲り受け側に生じた損害について補償等を行うこと等により、契約当事者間における潜在的なリスクの分担を図る機能を有している。例えば、従業員との間の労働紛争が存在しないことを表明保証していたにもかかわらず実際には紛争が生じており、中小 M&A 実行後に和解が成立した場合、従業員に支払う和解金相当額を譲り渡し側(又はその経営者等)が負担するケース等が想定される。
○表明保証保険
表明保証保険(M&A 保険と呼ばれることもある。)とは、譲り渡し側が、自ら又は譲り渡し側の対象会社に関し一定の事項について、真実・正確であることを表明保証していたにもかかわらず表明保証違反があった場合に、それにより譲り渡し側(売主用の表明保証保険の場合)又は譲り受け側(買主用の表明保証保険の場合)が被る損害を填補する保険をいう。表明保証保険の購入により、表明保証違反に関するリスクを保険会社に引き受けさせることができるため、株式譲渡契約等における表明保証や補償の範囲に関する譲り渡し側・譲り受け側間の交渉が円滑化する場合もある。日本国内でも一部の損害保険会社により提供が開始されている。表明保証保険を購入する場合、一般的にはデュー・ディリジェンス(DD)の結果を報告した DD レポート等を保険会社に提出し、引受審査を経る必要がある。
○債務超過企業
債務超過企業とは、本ガイドラインでは、譲り渡し側が債務超過状態の場合における当該譲り渡し側をいう。債務超過企業であっても中小 M&A を実行できる可能性はあるが、その際には債務整理手続等を伴うことがある。なお、本ガイドラインでは、債務超過企業における「債務超過」とは、特に説明のな
い限り、貸借対照表の簿価上の債務超過ではなく、資産・負債の時価評価を踏まえた実態貸借対照表上の債務超過を意味するものとする。
○経営者保証に関するガイドライン
「経営者保証に関するガイドライン」とは、中小企業の経営者による個人保証(以下「経営者保証」という。)に関する契約時及び履行時等における中小企業、経営者及び金融機関による対応についての、中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的自律的な準則として、「経営者保証に関するガイドライン研究会」により、平成25年12月に策定・公表され、平成26年2月1日より適用されているガイドラインをいう(以下「経営者保証に関するガイドライン」という。)。また、これを補完するものとして、事業承継時に先代経営者及び後継者の双方から二重に保証を求めること(二重徴求)を原則として禁止する、「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」(以下「経営者保証に関するガイドラインの特則」という。)が、「経営者保証に関するガイドライン研究会」により、令和元
年12月に策定・公表され、令和2年4月1日より適用された。さらに、中小企業の廃業時に焦点を当て、中小企業の経営規律の確保に配慮しつつ、経営者保証に関するガイドラインの趣旨を明確化する、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(以下「基本的考え方」という。)が、「経営者保証に関するガイドライン研究会」により、令和4年3月に策定・公表された。基本的考え方により経営者保証ガイドラインの理解が促進され、債務者が廃業したとしても、保証人は破産手続を回避し得ることが周知されることで、経営者が早期に経営改善、事業再生及び廃業を決断し、主たる債務者の事業再生等の実効性の向上や、保証人の新たなスタートの早期着手につながることが期待される。
2.事業承継・引継ぎ支援センター関連用語
○事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターとは、中小 M&A 及び従業員承継(以下「用語集」においてこれらを「事業引継ぎ」と総称する。)や親族内承継を含む中小企業の事業承継続に関する相談に幅広く対応する国が設置する公的相談窓口であり、令和3年4月、主に事業引継ぎを支援していた「事業引継ぎ支援センター」と主に親族内承継を支援していた「事業承継ネットワーク」の機能を統合し、事業承継支援のワンストップ支援を行う「事業承継・引継ぎ支援センター」へと発展的に改組された。事業承継・引継ぎ支援センターは、令和6年8月現在、全国47都道府県48か所(東京都のみ、千代田区と立川市の2か所)に設置されている。各事業承継・引継ぎ支援センターの連絡先については、参考資料3「事業承継・引継ぎ支援センター連絡先一覧」を参照されたい。
○登録機関等(登録民間支援機関/マッチングコーディネーター)及び連携 M&A プ
ラットフォーマー
登録民間支援機関とは、各事業承継・引継ぎ支援センターに登録された仲介者・FA(主に、M&A 専門業者又は金融機関)をいう。マッチングコーディネーターとは、各業業承継・引継ぎ支援センターに登
地域の士業等専門家をいい、より小規模な事業者の中小 M&A 支援を目的とする。
以下では、登録民間支援機関及びマッチングコーディネーターを併せて「登録機関等」と総称する。連携 M&A プラットフォーマーとは、中小企業庁と連携し、各事業承継・引継ぎ支援センターに登録された仲介業務又は FA 業務を提供する M&A プラットフォーマーをいう。登録機関等及び連携 M&A プラットフォーマーは、事業承継・引継ぎ支援センターからの依頼を受け、利用者と仲介契約・FA 契約等を結び、M&A 支援を行う。
○外部専門家
外部専門家とは、事業承継・引継ぎ支援センターから事業引継ぎ業務を依頼された士業等専門家をいう。
○「後継者人材バンク」事業
「後継者人材バンク」事業とは、事業承継・引継ぎ支援センターが実施する後継者不在の小規模事業者(主として個人事業主)と創業希望者(事業を営んでいない個人)とのマッチング支援等を行う事業をいう。
◆ はじめに (第3版)
「中小 M&A ガイドライン(第2版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(令和5年9月、中小 M&A ガイドライン見直し検討小委員会。以下「第2版」という。)の策定後、約1年が経過した。
第2版においては、中小 M&A の市場が急速に拡大し、マッチング支援や M&A の手続進行に関する総合的な支援を専門に行う M&A 専門業者が顕著に増加する中で、特に M&A 専門業者に関して、その契約内容や手数料のわかりにくさ、担当者によっては支援の質が十分と言えない場合があるといった声が聞かれるようになったことを踏まえて、必要な改訂を行った。今回の改訂では、提供する業務の内容・質とその対価となる手数料の額(相手方の手数料を含む。)について、中小企業向けに確認すべき事項を解説するとともに、仲介者・FA に対して求められる説明について追記している。また、第2版改訂時と同様に M&A 専門業者の支援の質を確保する観点から、仲介者・FA が実施する営業・広告に係る規律の明記や仲介者において禁止される利益相反事項の具体化を図っている。さらに、譲り渡し側・譲り受け側の当事者間において、最終契約に定めた事項の不行等のトラブルも発生している。特に、譲り渡し側の経営者保証の扱いについては、譲渡しり渡し側の経営者保証を譲り受け側に移行させる想定であったにもかかわらず移行しない等の行為を行う譲り受け側の存在も指摘されている。これらを踏まえ、最終契約(株式譲渡契約等)において当事者間でトラブルに発展する可能性があるリスク、その対応策について解説するとともに、仲介者・FA に対して求める対応について追記している。加えて、最終契約の不履行を意図的に生じさせるような不適切な譲り受け側を市場から排除するために、仲介者・FA に求められる対応についても追記している。
◆ はじめに (第2版)
「中小 M&A ガイドライン-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(令和2年3月、「事業引継ぎガイドライン」改訂検討会。以下「初版」という。)の策定後、約3年が経過した。この間、M&A が中小企業における事業承継の手法の1つであることは、ますます広く認識されるに至った。他方で、依然として、中小企業における高齢の経営者や後後者未定の割合は高く、廃業による経営資源の散逸や地域経済への悪影響等を防ぐために、M&A を促進する必要性は高い。また、初版策定後、令和3年4月に「中小 M&A 推進計画」が策定され、同年8月には、同計画に基づき、「M&A 支援機関登録制度」が創設された。「M&A 支援機関登録制度」においては、登録を希望する M&A 支援機関に対して中小 M&A ガイドラインの遵守宣言を求めており、当該登録制度等を通じて、M&A 専門業者をはじめとした支援機関に対し、中小 M&A ガイドラインに記載された行動指針の普及・定着を図ってきたところである。しかし、後継者不在の中小企業もその対象に含む中小M&Aの市場が急速に拡大し、マッチング支援やM&Aの手続進行に関する総合的な支援を専門に行うM&A専門業者(主に仲介者・FA)が顕著に増加する中で、特にM&A専門業者に関して、その契約内容や手数料のわかりにくさ、担当者によっては支援の質が十分と言えない場合があるといった声が聞かれるようになった。このような中小企業のM&Aを取り巻く課題について、「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」(第8回、令和5年3月16日開催)において課題への対応の方向性が確認された。上記検討会における議論を踏まえ、今回、中小M&Aガイドラインについて、主に以下の改訂を行った。
M&A専門業者の手数料に関し、実務上多く用いられる算定方式(レーマン方式)について依頼者である中小企業において留意すべき点を明記し、また、設定されることが多い最低手数料について、その金額の分布状況や適用事例を紹介。
支援の質の確保・向上に関し、M&A専門業者には、依頼者との間の契約上の義務を履行し、職業倫理を遵守することが求められる旨を明記。そのためには知識・能力の向上、適正な業務遂行を図ることが重要であり、個々のM&A専門業者や業界に求められる取組を紹介。
仲介契約・FA契約に関し、M&A専門業者は、契約締結前に契約に係る重要な事項を記載した書面を交付(電磁的方法による提供も可)して、明確な説明することを明記。また、説明すべき重要な事項を見直すとともに、説明を受ける相手方、説明者、説明後の重要な検討時間の確保等も明記。
直接交渉の制限に関する条項の留意点(制限される候補先、交渉及び期間)について明記。
その他、M&A専門業者に依頼する場合の留意点(セカンド・オピニオン、マッチングにおける支援機関の活用、直接交渉の制限)の追加。
以上に加えて、行政・民間における取組の推進状況の反映等を行い、今般、中小M&Aガイドライン(第2版)(以下「本ガイドライン」という。)として公表する。中小企業のM&Aに対する適切な支援を実現するために、特に支援機関においては、本ガイドラインンの考え方に準拠した対応を行うことを期待する。上
◆ はじめに (初版)
日本全体において、令和7年(2025年)までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者(以下「中小企業」という。)の経営者は約245万人、うち約半数の約127万人が後継者未定と見込まれている。後継者不在の中小企業は、将来の見通しが立っていないにもかかわらず、何らの対策も講じない場合には、廃業せざるを得ない。この場合には、従業員の雇用が失われたり、取引の断絶によりサプライチェーンに支障が生じたりするなど、多くの関係者の混乱を招き、ひいては地域経済にも悪影響を生じさせるおそれがある。また、廃業による経営資源の散逸が積み重なることにより、優良な経営資源が活用されないまま喪失されてしまうことは、日本経済の発展にとっても大きな損失となり得るる。このような中、後継者不在の中小企業の事業を M&A により社外の第三者が引き継ぐケースは、「事業引継ぎガイドライン」(平成27年3月、中小企業向け事業引継ぎ検討会。以下「旧ガイドライン」という。)策定から約5年が経過する中で増加してきており、M&A も、中小企業にとって事業承継の手法の1つとの認識が広がり始めている。しかしながら、中小企業全体で見れば、いまだ M&A により社外の第三者が事業を引き継ぐことに抵抗感がある経営者は多く、また、実際に進めようと思っても、M&A に対する知見、経験もない場合も多いことから、結果として M&A により社外の第三者に
よる引継ぎをせずに廃業に至ってしまうケースも多いと考えられる。また、近年、事業引継ぎ支援センター等の公的機関の充実や、中小企業を対象とした M&A の仲介等を務める民間の M&A 専門業者の増加により、中小企業の M&Aに関する環境整備も図られつつあるが、今後更なる増加が見込まれる中小企業のM&A が円滑に促進されるためには、より一層、公的機関、民間の M&A 専門業者、金融機関、商工団体、士業等専門家等の関係者による適切な対応が重要である。以上のことから、M&A に関する意識、知識、経験がない後継者不在の中小企業の軽営者の背中を押し、M&A を適切な形で進めるための手引きを示すとともに、これを支援する関係者が、それぞれの特色・能力に応じて中小企業の M&A を適切にサポートするための基本的な事項を併せて示すため、旧ガイドラインを全面的に改訂することとする。
なお、本ガイドラインでは、基本的に社外の第三者による事業の引継ぎを念頭に置いており、自社の役員又は従業員による承継(以下「従業員承継」という。)を直接の対象としていないものの、共通する部分においては、本ガイドラインの考え方に準拠した対応を期待する。また、M&A に関する指針として、「公正な M&A の在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」(令和元年6月28日、経済産業省)があるが、これは「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(平成19年9月4日、経済産業省)を改訂したものであり、後継者不在の中小企業の M&A を対象とする本ガイドラインとは異なる趣旨により策定された指針であるため、留意されたい。 以上
株式会社経営戦略室は、国が創設したM&A支援機関登録制度の登録を受けている支援機関であり、中小企業庁が定めた「中小M&Aガイドライン(第三版)」(令和6年8月30日)を遵守していることを、ここに宣言いたします。
(株式会社経営戦略室)は、中小M&Aガイドライン(第三版)を遵守し、下記の取組・対応を実施しております。
記
第1章:後継者不在の中小企業向けの手引き
I 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義等
1 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義
親族内から選定し、仮に親族内に不在であれば自社の役員や従業員の中から選定しようとすることが多い。しかし、親族内にも社内にも後継者候補がいない、いわゆる 後継者不在の中小企業においては、社外の第三者に後継者候補を求めるほか事業承継の選択肢がなく、それが実現できなければ廃業を余儀なくされることになる。 中小M&A は、このような後継者不在の中小企業が、社外の第三者による事業承継のためにM&A の手法を用いるものであり、大企業を対象とするM&A とは異なる点がある。 例えば、中小M&A において、特に譲り渡し側は、M&A 未経験であることがほとん どであり、M&A に関する経験・知見が乏しい傾向にある。また、中小M&A は、対象と なる事業が中小企業の経営者個人の信用・人柄その他の属人的な要素に大きく影 響される傾向にある。加えて、中小M&A においては、M&A そのものに多額のコスト (特にM&A 専門業者や士業等専門家等の手数料や報酬)を掛けられない傾向にあ る。 このような実情を踏まえ、本章においては、主に後継者不在の中小企業である譲り渡し側の視点から、M&A に関する一般的な説明に留まらず、中小M&A独自の特色についても加味した説明を行うこととする。 これによって、中小M&A を検討する経営者の背中を押し、中小 M&A が適切な形 で促進されることを目指すものとする。
2 中小M&Aの事例
中小M&Aは事案ごとに特徴があり、事業規模・業績・業態等によっても、一様に類型化することはできない。しかしながら、中小M&Aについて具体的なイメージを持ちやすくするべく、以下では、各種の特徴ごとに、具体的な事例を紹介する(詳細は参考資料4「中小M&A の事例」参照)。 なお、ここに記載する事例は、それぞれ、あくまで一例であり、網羅的なものではな く、個別の具体的な中小 M&A が、ここに記載する事例のとおりの結論になることを確 約するものではないため、留意されたい。
以上
3 譲り渡し側にとっての基本姿勢
(1) 中小 M&A に関する基本的な認識の変化
大企業と異なり、多くの中小企業にとって、M&A は馴染みの薄いものであると言わ
れることがある。その背景として、譲り渡し側・譲り受け側ともに、中小 M&A を躊躇す
る原因があるとされる。
例えば、譲り渡し側にとっては、M&A は「後ろめたい」、「従業員に申し訳ない」、ま
た、譲り受け側にとっては、M&A は敵対的買収を行う「ハゲタカ」のようなイメージであ
る等といった感覚があると言われることがあった。特に地方においては、そのような感
覚が更に強まる傾向にあると言われることがあった。
しかし、そのような感覚は、必ずしも時代の趨勢に合致したものではないと思われ
る。中小 M&A は、譲り渡し側経営者がそれまでの努力により築き上げてきた事業の
価値を、社外の第三者である譲り受け側が評価して認めることで初めて実現すること
であり、譲り渡し側経営者にとって後ろめたいことではなく、むしろ誇らしいことである
と言える。また、譲り受け側にとって、他社が時間を掛けて築き上げてきた事業を譲り
受けるということは、経営判断に基づき事業を拡大するための1つの合理的な手法で
あるとともに、通常は、譲り渡し側との信頼関係に基づいて実現するものであり、友好
的な取引であると言える。こういった、中小 M&A に対する従来否定的なイメージが肯
定的に受け入れられる感覚が、中小企業の間にも徐々に浸透してきていると言われ
ている。
また、近年、事業承継・引継ぎ支援センター等の公的機関の整備を含め、中小
M&A に関する支援機関は充実してきていることから、中小企業にとっても、以前より
支援機関へのアクセスが容易になり、支援を受けやすくなってきていると言える。
このように、中小 M&A に関する基本的な認識や中小 M&A を取り巻く環境が近年
大きく変化する中で、譲り渡し側経営者は、積極的に中小 M&A を検討することが望ま
れる。
(2) 従業員・取引先等への影響の緩和
事業を社外の第三者に譲り渡して存続させることにより、従業員の職場を残して雇
用の受皿を守ることができる。また、取引先(仕入先・得意先等)との取引関係を継続
させることができれば、地域におけるサプライチェーンの維持にも資することになる。
特に、地域の中核企業と言われる規模の企業であれば、何らの対策も行わずに廃
業した場合、多くの従業員の雇用が失われ、地域のサプライチェーンにも大きな穴が
生じるおそれがある。
このように、譲り渡し側経営者は、自身の従業員・取引先等への影響を緩和すると
いう観点でも、中小 M&A には意義がある、という点を認識することが望まれる。
4 譲り渡し側にとっての留意点
(1) 早期判断の重要性
中小 M&A をより早期に検討し実現することにより、従業員の雇用を確保し地域の
サプライチェーンを維持することが可能となり、譲り渡し側経営者自身にとっても手元
に残る代金(譲渡対価)の金額が多くなるケースもある。また、事業全体としては継続
できなくとも、例えば利益計上できている優良店舗の一部事業のみを早期に譲り渡す
こと等で事業の一部を継続させることができるケースもある。
個別のケースにより異なるが、通常、希望する譲り受け側とのマッチングには、数
か月~1年程度の時間を要することが見込まれることから、早期に判断して動き出す
ことが重要である。
特に、中小 M&A についての判断は、日頃の繁忙等に追われることで後ろ倒しにな
りがちであるが、決断が遅れれば遅れるほど中小 M&A の選択肢は狭まる傾向にあ
る。特に業績が良くない場合には、資金繰りが尽きてしまい身動きを取れなくなるケ
ースも見られるので早期の判断が求められる。実際、判断が遅れた結果、廃業費用
すら捻出できない状況に陥るケースもあるので、家族、従業員や取引先等に迷惑を
掛けないためにも、経営者は、早期に判断し、対応を見極めることが重要である。
2) 秘密保持の徹底
中小 M&A に関する手続の全般にわたり、秘密を厳守し情報の漏えいを防ぐことは
極めて重要である。外部はもちろん、親戚や友人、社内の役員・従業員に対しても、
知らせる時期や内容には十分注意する必要がある。中小 M&A の最終契約締結前に、
極秘に親族や幹部役員等のごく一部の関係者にのみ知らせることもあるが、それ以
外の関係者に対しては、原則として可能な限りクロージング後(早くとも最終契約締結
後)に知らせるべきである。取引先や従業員に意図せず情報が伝わってしまったり、
経営者が不用意な一言を発したりしたせいでトラブルとなり、中小 M&A が頓挫してし
まうケースも見受けられる。取引先や従業員に情報が伝わった後に中小 M&A が頓挫
した場合には、取引先の喪失や従業員の退職等、従前の事業活動の継続に支障を
来すような事態が生じるおそれもある。この点には、初期から注意しておく必要がある。
譲り渡し側が自ら譲り受け側を探す場合に、取引先や同一地域内の同業者等に打診
するときにも、同様に注意が必要である。中小 M&A に関する情報を関係者に知らせ
る時期については、まず譲り渡し側・譲り受け側双方において協議されたい。
また、マッチングにおいては、譲り渡し側の情報が譲り受け側候補先に伝わること
となるため、秘密保持の観点から留意が必要である。複数の支援機関に相談して複
数の支援機関がマッチング支援を試みる場合には、譲り渡し側に関する情報が必要
以上に外部に流出するおそれがあり、むしろ譲り渡し側にとってリスクとなり得るため
注意が必要である。例えば、複数の支援機関が、同じ譲り渡し側の情報を同じ譲り受
け側に紹介することにより、情報が出回っているように感じられ、譲り受け側の心証
が害されることがあり得る。そのため、譲り渡し側は、基本的には単独の支援機関に
マッチング支援を依頼することが多い傾向にあるが、マッチング支援を単独の支援機
関に依頼する場合と複数の支援機関に依頼する場合の比較については、それぞれ
の利点や留意点を把握した上で、選択することが望ましく、本章Ⅱ3(4)②「マッチン
グ支援を単独の支援機関に依頼する場合と複数の支援機関に依頼する場合の比較」
を参照されたい。
(3) 中小 M&A 手続進行上の留意点
中小 M&A の手続は、後述の中小 M&A フロー図に記載の各工程を踏まえて進むことが多いが、対象となる譲り渡し側の事業規模が特に小規模な場合には、より簡易な
形で実施することが現実的なケースも多く見られる。本ガイドラインはあくまで中小
M&A の基本的な手続を示すものであり、全ての中小 M&A において厳格に本ガイドラ
インに記載する全ての手続を実施することを要請するものではない。
むしろ、譲り渡し側は、譲り受け側及び支援機関との信頼関係を築いた上で、譲り
受け側の意向に誠実に対応することが中小 M&A の手続の円滑な進行のために必要
であることを理解されたい。
II 中小 M&A の進め方
1 中小 M&A フロー図
一般的に、中小 M&A は、以下のフロー図の「中小企業の動き」に記載の流れに沿
って進むことが多い。また、同図の各工程においては、「主な支援機関」に記載の支
援機関が中小 M&A の支援を行うことが多い(実際には、個別の事例において、これら以外の支援機関が支援を行うケースもある。)。
2 中小 M&A に向けた事前準備
譲り渡し側経営者が、中小 M&A を実行すべきかどうかについての意思決定を単独
で行うことは容易なことではない。したがって、まずは早期に身近な支援機関へ相談
した上で、支援機関による助言の下で中小 M&A の事前準備を行うことが望ましい(本
章Ⅱ1「中小 M&A フロー図」参照)。
(1) 支援機関への相談
譲り渡し側経営者が中小 M&A の意思決定を行うに当たっては、様々なポイントを
検討することになる。しかしながら、譲り渡し側経営者が単独で検討していても、日々
の業務への対処等が優先してしまい、なかなか検討が進まないことが多い。また、専
門的な知見を有しない中で検討を続けることで誤った判断を行うおそれもある。
そのため、譲り渡し側経営者がまず行うべきことは、身近な支援機関への相談であ
る。具体的には、商工団体、士業等専門家(公認会計士・税理士・中小企業診断士・
弁護士等)、金融機関、M&A 専門業者のほか、事業承継・引継ぎ支援センターといっ
た公的機関があり、まずはこういった支援機関に相談することが望まれる。
実際には、まず顧問の士業等専門家(特に顧問税理士)に相談することも多いと思
われるが、自身が相談しやすいと考えられれば、所属する商工団体、取引金融機関
等に相談してもよい。公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターや、政府系金融
機関である日本政策金融公庫(参考資料5「日本政策金融公庫『事業承継マッチング
支援』」参照)でも相談を受けている。
その際には、まず、直近3年分の税務申告書・決算書(損益計算書・貸借対照表を
含む。)・勘定科目内訳明細書の写しを用意すれば十分である。可能であれば会社
案内や自社ホームページの写し等といった、譲り渡し側の事業の概要が分かる資料
も用意できるとよい。これら以外の詳細な資料は、支援機関からの指示を受けてから
準備すれば足りる。
中小 M&A の意思決定がまだ済んでいないから相談を控えるのではなく、むしろ、
意思決定がまだ済んでいないからこそ相談することが必要である。
なお、支援機関への相談の際には、自分にとってマイナスな情報や後ろめたい情
報ほど先に伝えておく真摯な姿勢が望まれる。これにより支援機関も課題への対応
策や解決方法等を早期に検討しやすくなり、円滑な中小 M&A に資することになる。
(2) 後継者不在であることの確認
譲り渡し側経営者は、親族内・社内に後継者候補がいないこと(つまり後継者が不
在であること)を確認しておく必要がある。具体的には、親族内承継を実施しないこと
につき身近な親族(特に子や兄弟)から了解を得ておくこと、社内に後継者候補がい
ないこと(従業員承継が不可であること)を確認しておくことが必要である。この際、前述のとおり、秘密保持の観点には注意が必要である。
(3) 引退後のビジョンや希望条件の検討
譲り渡し側経営者は、引退後のビジョンを含む希望条件を事前によく考えておく必
要がある。例えば、当面は譲り渡し側・譲り受け側の事業に関わり続けたいのか、別
の事業に進出したいのか、それとも社会貢献活動や余暇を楽しむといった全く別のこ
とを行いたいのか等、引退後にどのような過ごし方を選択するかといった点は、本人
のその後の人生にとって重要な要素である。
また、希望条件についても、代金(譲渡対価)の金額や従業員の雇用継続は、譲り
渡し側経営者として懸念することの多い重要な要素の1つではあるが、希望条件とし
て検討すべき要素はこれに限定されるものではない。
譲り渡し側経営者は、中小 M&A における希望条件を明確化し、可能な限りで優先
順位を付しておくことが望ましい。中小 M&A は相手があることであり、譲り渡し側の希
望が確実に受け入れられるわけではないが、そのような場合に譲歩できない点を固
めておくことは、譲り受け側とどのような点を交渉すべきかを明確化することになり、
円滑な交渉の実現にも資するものである。
(4) 中小 M&A に先立つ「見える化」「磨き上げ」(株式・事業用資産等の整理・集約)
一般的に、事業承継においては、経営状況・経営課題等の現状把握(見える化)と、
事業承継に向けた経営改善等(磨き上げ)が必要とされるが、中小 M&A の実行のた
めには、その中でも最低限、株式・事業用資産等の整理・集約が必要である。以下で
は、この観点より説明する。
ただし、前述のとおり、重要なことはまず支援機関に相談することである。譲り渡し
側経営者だけでは株式・事業用資産等の整理・集約が困難な場合もあるため、まず
は顧問税理士等の身近な支援機関に相談することが望ましい。
なお、株式や事業用資産等の整理・集約については、法的な論点等についての検
討や交渉を要することもあるので、この場合には法務の専門家である弁護士の助言
を得ることが望まれる。
① 株式の整理・集約
普段は意識する機会が少ないものの、会社にとって株式は非常に重要なものであ
る。仮に、株式が分散していたり、一部株主の所在が不明であったりする場合、中小
M&A を実行する際に重大な障害となるおそれもある。
基本的に、総議決権の過半数の株式があれば株主総会決議は確実に可決するこ
とができるが、特に重要な事項(例えば、全事業の譲渡)については特別決議(出席
株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議)が必要となることがあるため、これを確実に可決できるように総議決権の3分の2以上の株式を保有しておくことが望
ましい。仮に譲り渡し側経営者が譲り受け側に対して会社の全株式を譲渡する場合
(株式譲渡)には、基本的に、譲り渡し側経営者が全株式を保有しておく必要がある。
そのためには、他の株主からの株式の買取り(及びそのための買取資金の調達)が
必要なケースもある。
また、株主名簿が正しく整備されているか、実際に出資していない親族・知人等の
名義になっている株式(いわゆる名義株)がないか、(株券発行会社の場合)株券が
適切に管理されているかといった点も確認が必要である。
② 事業用資産等の整理・集約
重要な事業用資産等(不動産や機械設備等)について、第三者の名義である、担
保が設定されている、遺産分割の対象として争われている、第三者との間で係争中
の物件である等の場合、譲り渡し後の事業継続に支障が生じ得るため、これらにつ
いても確認が必要である。
また、中小 M&A においては、家族経営の企業が多いことから、譲り渡し側の会社
の財産と経営者個人の財産が明確に分離されていないケースも多い。そのようなケ
ースでは、譲渡する事業用資産等を譲り受け側にスムーズに譲り渡せないこともある
ため、この点も明確に区別して整理・集約しておく必要がある。
3 中小 M&A における一般的な手続の流れ(フロー)
本章Ⅱ1「中小 M&A フロー図」に記載する各工程について以下、説明する。
(1) 意思決定
前述のとおり、中小 M&A に関する意思決定前の段階から必要に応じて支援機関
に相談しつつ、整理すべき事項を整理した上で、最終的には自ら明確に意思決定す
ることが必要である。その上で、中小 M&A について具体的に手続を進めることになる。
中小 M&A においては、大きく分けて以下の2点が課題となる。
A マッチング以前の段階 :譲り受け側を見つける方法
B マッチング後の段階 :譲り受け側が決まった後の具体的な手続の進め方
この点を踏まえ、以下では、次の2つのパターンに分類して説明する。
(2)-1 仲介者・FA を選定する場合
(2)-2 仲介者・FA を選定せず、工程の多くの部分を自ら行う場合
また、実際には、これら2つのパターンが重なり合うこともある。例えば、次のような
ケースも見られる(必要に応じて、士業等専門家を活用するケースもある。)。
⚫ A マッチング以前の段階において、仲介者・FA を利用せずに自ら譲り受け側を
探し((2)-2)、それでも譲り受け側が見つからない場合には仲介者・FA を選定する((2)-1)、というケース
⚫ A マッチング以前の段階において、仲介者・FA を選定せずに M&A プラットフォー
ムを活用して譲り受け側を自ら見つける((2)-2)ものの、B マッチング後の段階
においては仲介者・FA を活用して契約交渉等を行う((2)-1)、というケース
(当事者同士の間でほぼ基本合意が締結できている段階で、クロージングまでの
手続のみを仲介者・FA に依頼するというケースは増えつつある。)
(2)-1 仲介者・FA を選定する場合
① 仲介者・FA の選定及び仲介契約・FA 契約の締結
まずは仲介者・FA を選定し、仲介契約・FA 契約を締結する(名称は「仲介契約」
「FA 契約」のほか、「業務委託契約」「アドバイザリー契約」等とされることもある。)。
ア 仲介者・FA の選定等
仲介者・FA の選定に当たっては、業務形態や業務範囲・内容、契約期間、報酬(手
数料)体系、M&A 取引の実績(M&A に取り組んだ件数・年数等)、利用者の声等をホ
ームページや担当者から確認した上で、複数の仲介者・FA の中から比較検討して決
定することが重要である。加えて、いわゆる「相性」も重要なことがある。
業務形態としては、仲介業務と FA 業務があり、いずれかの業務のみしか取り扱わ
ない支援機関もあるが、どちらの業務を依頼するかについて相談できる支援機関も
ある。どちらの形態が自身にとって適しているか検討すべきである。
業務範囲・内容については、本ガイドラインにおいては、仲介者には利益相反のリ
スクがあることから、一部の業務を提供しないことを含め、一定の措置を講ずることと
している(第2章Ⅱ5「仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策」参照)。ま
た、仲介者・FA によっては、業務範囲を本章Ⅱ1「中小 M&A フロー図」中(2)~(10)
の手続中の特定の工程のみに絞っている場合もあるが、全工程を行う場合でも、特
定の業種・地域に特化した仲介者・FA も存在すること等から、どのような支援が自身
にとって必要かよく検討して判断する必要がある。
なお、「M&A 支援機関登録制度」のホームページ(https://ma-shienkikan.go.jp/)で
は、同制度に登録された仲介業務又は FA 業務を行う支援機関のデータベースを提
供しており、登録支援機関の種類(専門業者、金融機関等の別)、M&A 支援業務の
開始時期や専従者数、手数料の算定基準(成功報酬において採用される報酬率、報
酬基準額(譲渡額/純資産/移動総資産等)、最低手数料の額、報酬の発生タイミング
(着手金/月額報酬/中間金/成功報酬))等を確認することができるため、仲介者・FA
を選定する際の情報収集手段として有用である。
また、仲介者・FA のほか、特に顧問税理士等、もともと関与のある士業等専門家の支援の下で手続を進めるケースもある(その場合には、顧問料以外に別途、報酬
を支払うケースもあるため、予め確認されたい。)。
イ 仲介契約・FA 契約の締結
仲介契約・FA 契約を締結する際は、中小 M&A に関する希望条件を明確に伝えつ
つ締結前に納得がいくまで十分な説明を受けることが必要であり、特に業務の具体
的な内容や報酬の妥当性等については、必要に応じて事業承継・引継ぎ支援センタ
ーを含め、他の支援機関に意見を求めること(セカンド・オピニオン)も有効である(な
お、仲介契約・FA 契約締結後においては、譲り渡し側・譲り受け側の情報の管理等
の観点から、元の支援機関がセカンド・オピニオンを許容しないことがあるため、仲介
契約・FA 契約締結後も、他の支援機関からセカンド・オピニオンを受けようとする場合
には、特に秘密保持に関する条項等の内容をよく確認し、セカンド・オピニオンを受け
られるような内容となるよう元の支援機関とよく相談されたい。)。
仲介契約・FA 契約の締結に当たっては、その主なポイントを列記したチェックリスト
も必要に応じて活用されたい(参考資料6「仲介契約・FA 契約締結時のチェックリスト」
参照)。
<仲介契約・FA 契約の内容の主なポイント>
⚫ 業務形態
業務形態(仲介又は FA)により留意すべき事項が異なるため、いずれの業務形態
であるか確認しておく必要がある。両者の特徴は本章Ⅱ3(2)-1②「仲介者・FA の
比較」を参照されたい(参考資料7(1)「仲介契約書(M&A 仲介業務委託契約書)サン
プル」参照)。
⚫ 業務範囲・内容
例えば、次のような形が考えられる。
・譲り渡し側・譲り受け側のマッチングまで
・バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)やデュー・ディリジェンス(DD)ま
で
・株式譲渡や事業譲渡といった具体的なスキーム(手法)の策定まで
・クロージング(決済)まで
・PMI(M&A 実行後における事業の統合に伴う作業)まで
ただし、これらはあくまで例示に過ぎず、業務範囲・内容は、各仲介者・FA によって
異なる。手数料と比較して十分な内容であるとして納得できるかどうか、必要であれ
ば事業承継・引継ぎ支援センター等へのセカンド・オピニオンも活用しながら、十分に検討することが望ましい。
⚫ 手数料の体系等
例えば、次のような体系が考えられる。
・着手金(主に仲介契約・FA 契約締結時に支払う)
・月額報酬(主に一定額を毎月支払う)
・中間金(例えば基本合意締結時等、案件完了前の一定の時点に支払う)
・成功報酬(主にクロージング時等の案件完了時に支払う)
ただし、これらはあくまで例示に過ぎず、手数料の金額や体系は、各仲介者・FA に
よって異なる。例えば、これらを全て請求する仲介者・FA もいる一方、着手金・月額報
酬・中間金を請求せずに成功報酬のみ請求する(いわゆる完全成功報酬型の)仲介
者・FA もいる。
また、成功報酬を算定する際には、一定の価額(例えば、譲渡額、移動総資産額、
純資産額といったものが考えられ、各仲介者・FAによって異なる。)に、一定の方式に
則った計算を施すものが多い。その場合でも、最低手数料が定められているケースも
多い(その水準は、各仲介者・FA において異なるため、比較検討することが望まし
い。)。この点については、本章Ⅴ「仲介者・FA の手数料についての考え方の整理」に
おいて説明する。また、仲介者・FAによっては、手数料以外の実費(例えば、交通費
等)の支払を求めることがあるため、留意する必要がある。
なお、仲介者の場合は、譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結の上、譲り渡
し側・譲り受け側の双方に対し手数料を請求することが通常である(仲介者は、契約
締結前に、譲り渡し側・譲り受け側双方から手数料を受領する旨を説明し(第2章Ⅱ5
「仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策」参照)、相手方も含めて譲り渡
し側・譲り受け側双方から受領する手数料に関する事項(報酬率、報酬基準額(譲渡
額/純資産/移動総資産等)、最低手数料の額、報酬の発生タイミング(着手金/月額
報酬/中間金/成功報酬)等について説明することとされている(第2章Ⅱ4(2)①「手
数料・提供する業務内容の説明」及び②「相手方の手数料の開示」参照)。
⚫ 秘密保持
前述のとおり、情報の漏えいがあった場合には M&A が頓挫してしまうことがあり、
秘密保持の観点は重要であるため、仲介者・FA との間の業務委託契約等において
も、仲介者・FA に対し秘密保持義務を課すとともに、顧客側にも同義務を課すような
秘密保持条項が定められていることが通常である。
専門的な知見を有する一定の者(例えば、公認会計士、税理士、弁護士等の士業
等専門家及び公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センター等)から支援を
受けたり、意見や助言を求めたり(広義のセカンド・オピニオン)することの妨げにならないよう、秘密保持条項において、これらの者への情報共有が許容されているかどう
か(秘密保持義務が一部解除されているか否か)も確認しておくことが望ましい。
⚫ 専任条項
マッチング支援等において並行して他の仲介者・FA への依頼を行うことを禁止する
条項(いわゆる「専任条項」)が設けられることがある。他の仲介者・FA にセカンド・オ
ピニオンを求めることや他の仲介者・FA を利用してマッチングを試みること等、禁止さ
れる行為が具体的にどのような行為であるのかという点を予め確認しておくことが望
ましい(専任条項の対象範囲は、可能な限り限定されるべきである。また、基本的に
は、依頼者が意見を求めたい部分を明確にした上で、これを妨げるべき合理的な理
由がない場合には、セカンド・オピニオンを求めることは許容される(第2章Ⅱ7「専任
条項の留意点」参照)。)。また、契約期間(専任条項が設けられる場合には、最長で
も6か月~1年以内が目安である(第2章Ⅱ7「専任条項の留意点」参照)。)や中途解
約に関する事項等についても併せて確認しておくことが望ましい。
⚫ 直接交渉の制限に関する条項
依頼者が、M&A の相手方となる候補先と、仲介者・FA を介さずに直接、交渉又は
接触することを禁じる旨の条項が設けられることがある。直接交渉が禁じられる相手
方候補先の範囲(基本的には、仲介者・FA が関与・接触し、紹介した候補先のみに
限定される(第2章Ⅱ8「直接交渉の制限に関する条項の留意点」参照)。)、交渉・接
触の目的(基本的には、依頼者と候補先の M&A に関する目的で行われるものに限
定される(第2章Ⅱ8「直接交渉の制限に関する条項の留意点」参照)。)、条項の有
効期間(基本的には、仲介契約・FA 契約が終了するまでに限定される(第2章Ⅱ8
「直接交渉の制限に関する条項の留意点」参照)。)等について、予め確認しておくこ
とが望ましい(なお、仲介契約・FA 契約とは別に、依頼者が仲介者・FA との間で秘密
保持契約といった契約を締結する場合も多くあるが、当該契約にも直接交渉の制限
に関する条項が設けられていることがあるので留意されたい。)。
⚫ テール条項
マッチング支援等において、M&A が成立しないまま、仲介契約・FA 契約が終了し
た後、一定期間(いわゆる「テール期間」)内に、譲り渡し側が M&A を行った場合に、
その契約は終了しているにもかかわらず、その仲介者・FA が手数料を請求できること
とする条項(いわゆる「テール条項」)が定められる場合がある。テール期間の長さ
(最長でも2年~3年以内が目安である(第2章Ⅱ9「テール条項の留意点」参照)。)
や、テール条項の対象となる M&A(基本的には、その仲介者・FA が関与・接触し、譲
り渡し側に対して紹介した譲り受け側との M&A のみに限定される(第2章Ⅱ9「テール条項の留意点」参照)。)について、予め確認しておくことが望ましい。
⚫ 責任(免責)に関する条項
仲介契約・FA 契約の履行に関し、一方当事者が他方に対し損害を負わせた場合
における法令上の損害賠償責任について、その要件や賠償すべき損害の範囲等を
修正する条項が定められる場合がある。仲介者・FA の一定の関与により依頼者に損
害が発生した場合に、仲介者・FA に適切に負担を求めることができるような内容とな
っているか、予め確認しておくことが望ましい。
③ セカンド・オピニオン/他の支援機関への相談の利点・留意点
仲介者・FA の選定・契約の締結や、契約締結後に仲介者・FA から受けた助言の
内容の妥当性の検証等に当たり、他の支援機関から意見や助言を求めること(セカ
ンド・オピニオン/他の支援機関への相談)は、依頼者の意思決定を後押しし、安心し
て M&A を進める上で有効である。
もっとも、同業他社から意見や助言を求める場合(狭義のセカンド・オピニオン)、相
談先の仲介者・FAが、セカンド・オピニオンを営業の機会と捉える等して、意見や助
言が中立性・客観性を欠く内容となる可能性があると指摘されており、留意が必要で
ある。この点、譲渡対価の決定や M&A の最終契約の内容等の重要な事項に関して、
中立的・客観的な意見や助言を求める場合には、M&A に詳しい士業等専門家や全
国に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターへ相談すること(広義のセカンド・
オピニオン)が望ましい。
(2)-2 仲介者・FA を選定せず、工程の多くの部分を自ら行う場合
取引先や地域内の同業他社等を譲り受け側として自ら見つけるケースは、近年、
増加の傾向にあるとされる。
また、インターネット上のシステムを活用し、オンラインで、譲り渡し側と譲り受け側
のマッチングの場を提供するウェブサイトである M&A プラットフォームに登録すること
が、中小 M&A 実現の可能性を高めるという点で有効なケースもある(M&A プラットフ
ォームについては、本章Ⅲ「M&A プラットフォーム」参照)。各 M&A プラットフォームに
おいて、登録案件数、登録が必要な情報の種類、登録された情報が開示される範囲
や、マッチング後の支援の有無・内容等には差異があるので、数社を比較検討するこ
とが望ましい。
これらのケースでも、前述のとおり、秘密保持に注意する等、慎重な対応を要する
ポイントが多いことから当事者同士で手続を進めることに不安を感じた場合には、士
業等専門家等や事業承継・引継ぎ支援センター等の公的機関に相談することが望ま
しい。
なお、秘密保持契約を譲り渡し側・譲り受け側の当事者間で締結する場合は、参
考資料7(2)「秘密保持契約書サンプル」を参照されたい。
※以下の記載は、(2)-1を前提とするが、(2)-2の場合であっても、仲介者・FA や
士業等専門家を一部の工程について利用する場合には、その工程において、以下
に準じた対応を行うことが考えられる。
(3) バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
仲介者・FAや士業等専門家が、譲り渡し側経営者との面談や提出資料、現地調査
等に基づいて譲り渡し側の企業・事業の評価を行う。
中小 M&A では、「簿価純資産法」、「時価純資産法」、「類似会社比較法(マルチプ
ル法)」といったバリュエーションの手法により算定した株式価値・事業価値を基に譲
渡額を交渉するケースが多いが、事例ごとに適切な方法は異なるため、相談先の支
援機関に相談の上、各事例において選択することが望ましい。
また、算出された金額が必ずそのまま中小 M&A の譲渡額となるわけではなく、交
渉等の結果、「簿価純資産法」又は「時価純資産法」で算出された金額に数年分の任
意の利益(税引後利益又は経常利益等)を加算する場合等もあり、当事者同士が最
終的に合意した金額が譲渡額となるという点は理解されたい。
これら中小 M&A の譲渡額の算定方法の詳細については、参考資料2「中小 M&A
の譲渡額の算定方法」を参照されたい。
(4) 譲り受け側の選定(マッチング)
中小 M&A を進める上で、マッチングは重要な工程である。
① マッチング支援の流れ
マッチングを具体的に進めるに当たり、仲介者・FA は、通常、まず譲り渡し側を特
定できない内容のノンネーム・シート(ティ―ザー)を、数十社程度にまで絞り込んだリ
スト(ロングリスト)内の企業に送付し打診する。その上で、関心を示した候補先から
譲り受け側となり得る数社程度をリスト(ショートリスト)化し、これらとの間で秘密保持
契約を締結した上で、その後の手続を進めることが通常である。仲介者・FA は、譲り
渡し側についての企業概要書を譲り受け側の候補先に交付し、その後のマッチング
支援等を行う。
譲り渡し側は、マッチングを希望する候補先、あるいは打診を避けたい先があれば、
事前に仲介者・FA に伝えることが望ましい。また、打診を行う優先順位について、仲
介者・FA との間で十分な話し合いを行われたい。
② マッチング支援を単独の支援機関に依頼する場合と複数の支援機関に依頼する
場合の比較
マッチング支援を単独の支援機関に依頼するか、複数の支援機関に依頼するかと
いう点については、それぞれの利点・留意点を確認した上で、選択する。仲介契約・
FA 契約において、いわゆる専任条項や秘密保持に関する条項を設けた場合には、
他の支援機関に重ねてマッチング支援を依頼することが困難となることが通常である
ため留意されたい。
③ 譲り受け側候補先の紹介が受けられない場合の対応
仮に、リスト内の候補先とのマッチングが連続して不調に終わったとしても、その後
に譲り渡し側の事業を評価する候補先が現れて、中小 M&A が成立する可能性は十
分にある。それでもなお、譲り渡し側が譲り受け側を見つけることができない場合に
は、M&A プラットフォームの活用を含め、別の支援機関への依頼も検討されたい。
別の支援機関に依頼する場合、元の支援機関である仲介者・FA に対し、別の支援
機関へ依頼したい旨を相談し、その了承を得る(元の仲介契約や FA 契約に専任条
項が設置されている場合には、支援機関がこれに応じないことも考えられる。)ことが
考えられる。その了承が得られなかった場合には、契約期間の満了を待って、又は契
約を解約して、元の仲介者・FA との契約を終了させた上で、別の支援機関に依頼す
る等の対応が考えられる。テール条項(本章Ⅱ3(2)-1①イ「仲介契約・FA 契約の締
結」中「<仲介契約・FA契約締結の内容の主なポイント>」参照)がある場合には、契
約終了後もその適用について留意が必要である。
候補先がなかなか見つからない場合には、適宜、支援機関にその理由を確認する
等して分析した上で、M&A に向けた活動を継続するか検討する。また、従業員承継
等の他の手法による事業承継も難しく、やむなく廃業せざるを得ない場合には、事業
において利用していた事業用資産等の経営資源の引継ぎの検討を開始することが望
まれる。譲り受け側の探索をいつ打ち切るかは、譲り渡し側と仲介者・FA とで協議の
上で決定されたい。
(5) 交渉
交渉の進め方は、譲り渡し側・譲り受け側の関係や事業の類似性、譲り渡し側・譲
り受け側と仲介者・FA との関係度合等により、譲り渡し側・譲り受け側の経営者同士
の面談(トップ面談)の時期や方法も含め、様々な形態がある。
特に、トップ面談は、譲り受け側の経営理念・企業文化や経営者の人間性等を直
接確認するための場であり、その後の円滑な交渉のためにも重要な機会である。一
方、自分の態度や表情も相手方に直接伝わりやすく、不用意な言動も信頼を損なう
おそれがあるため誠意ある態度で真摯に面談に臨む必要がある。
また、トップ面談を含む交渉の際には、中小M&Aにおける希望条件を明確化し、可
能な限りで優先順位を付し、特に、絶対に譲歩できないのがどの点なのか固めておく
ことが望ましい。
いずれにせよ、仲介者・FA と緊密なコミュニケーションを取り、仲介者・FA のアドバ
イスを得て交渉を進めることが重要である。
なお、譲り渡し側経営者は、特に中小 M&A 実行後の従業員の処遇を懸念することが多く、それが中小 M&A の促進にとって阻害要因になっているおそれもある。実際、
中小 M&A 実行後に従業員の一斉解雇(リストラ)が行われるケースは多くないと言わ
れるが、譲り渡し側経営者は、譲り受け側経営者が譲り渡し側幹部役員等に対して
高圧的な態度を取ることなく、譲り受け側役員・従業員と同等に接する姿勢を心掛け
ているか、確認しておくことが考えられる。
(6) 基本合意の締結
当事者間の交渉により概ね条件合意に達した場合には、譲り渡し側と譲り受け側
との間で最終契約におけるスキーム(株式譲渡や事業譲渡といった手法)、デュー・
ディリジェンス(DD)前の時点における譲渡対価の予定額や経営者その他の役員・従
業員の処遇、最終契約締結までのスケジュールと双方の実施事項や遵守事項、条件
の最終調整方法等、主要な合意事項を盛り込んだ基本合意を締結する(参考資料7
(3)「基本合意書サンプル」参照)。
基本合意の締結に当たっては、仲介者・FA や士業等専門家の助言を受けて調印
することが大切である。
ただし、資金繰り等の関係で、クロージング(決済)を急ぐ必要がある場合には、基
本合意を締結せず、最低限の秘密保持契約の締結のみに留めて、最終契約締結に
直接進むケースもあるため、状況に応じて、仲介者・FA や士業等専門家に相談され
たい。
(7) デュー・ディリジェンス(DD)
デュー・ディリジェンス(DD)は、主に譲り受け側が、譲り渡し側の財務・法務・ビジ
ネス(事業)・税務等の実態について、FA や士業等専門家を活用して調査する工程で
あり、譲渡対価の金額の精査や、判明した実態を踏まえて更に事業の改善を行うこと
等の目的で行われる。譲り受け側がデュー・ディリジェンス(DD)を行う場合、どの調
査を実施するかについては、譲り受け側の意向に従うこととなる。
通常、譲り受け側が FA や士業等専門家に調査の実施を依頼する。譲り渡し側が、
中小 M&A に関して社内(役員・従業員等)への情報開示を行っていない場合は、その
非開示の役員・従業員等に悟られずに実施する等の工夫が必要であるため、譲り渡
し側・譲り受け側ともに、FA や士業等専門家の指示を守ることが重要である。
なお、デュー・ディリジェンス(DD)は、想定し得るリスク全般について調査すること
もあれば、対象事項等を限定して簡易な形で行うこともあり、調査の密度は様々であ
る。中小 M&A の実務においては、譲り受け側が専門家費用を投じて本格的なデュ
ー・ディリジェンス(DD)を行うことなく、譲り渡し側の数年分の税務申告書の確認及び
譲り渡し側経営者へのヒアリング等の調査だけで終えることもある。
もっとも、譲り受け側はデュー・ディリジェンス(DD)により、客観的資料に基づいた検討を行うことができ、そもそも M&A を実行すべきか検討し、M&A を実行する場合に
は最終契約に定める内容・条件(譲渡額、表明保証、補償等)の調整を行うことで M
&A 成立後のトラブルを防止できる。また、M&A 成立後の成長を実現する上で重要と
なる PMI に資する有益な情報を取得することもできる。さらに、譲り渡し側はデュー・
デリジェンス(DD)の調査が十分になされない場合には、最終契約において譲り渡し
側が負う各種義務(表明保証の範囲や補償額・補償期間等)の負担の増加に繋がり
うる点に留意が必要である。このため、デュー・ディリジェンス(DD)は、譲り渡し側・譲
り受け側双方にとって重要なプロセスであり、予算等の制約がある場合であっても、
検討対象を絞るなどの工夫をして、実施する調査の内容を検討することが望ましい。
(8) 最終契約の交渉・締結
デュー・ディリジェンス(DD)で発見された点や基本合意で留保していた事項につい
て再交渉を行い、最終的な契約を締結する工程である。
仲介者・FA や士業等専門家のアドバイスを受けながら、契約内容に必要な事項が
網羅されているかを最終的に確認した後、調印を行う。仲介者・FA や士業等専門家
によるアドバイスに納得できず、不安がある場合には、調印前に契約内容に関する
意見を他の支援機関に求めること(セカンド・オピニオン)も有効である。また、契約に
盛り込む内容や条件を早い段階から仲介者・FA に伝えておいた方が、円滑な契約締
結につながることが多い。
中小 M&A の実務においては、株式譲渡か事業譲渡の手法が選択されることが多
い。それぞれの手法の大まかな特徴は以下のとおりである(その他の手法も存在す
る。概要は参考資料1「中小 M&A の主な手法と特徴」参照)。なお、株式譲渡も事業
譲渡も、全部譲渡は必須ではなく、一部譲渡のケースもあるが、その点は譲り渡し
側・譲り受け側の協議・交渉によって決定されることになる。
⚫ 株式譲渡(参考資料7(4)「株式譲渡契約書サンプル」参照)
譲り渡し側の株主(多くの場合は経営者)が、譲り受け側に対し、譲り渡し側の株式
を譲渡する手法である。手続は比較的シンプルだが、譲り渡し側の法人格に変動は
ないため、(未払残業代等、貸借対照表上の数字には表れない)簿外債務・(紛争に
関する損害賠償債務等、現時点では未発生だが将来的に発生し得る)偶発債務リス
クが比較的高くなりやすく、より詳細なデュー・ディリジェンス(DD)が実施される傾向
にある。
⚫ 事業譲渡(参考資料7(5)「事業譲渡契約書サンプル」参照)
譲り渡し側が、譲り受け側に対し、自社の事業を譲渡する手法である。譲渡の対象
となる財産(承継対象財産)を選択でき、譲り渡し側の法人格から切り離すことができるため、簿外債務・偶発債務リスクを比較的遮断しやすいが、手続には(土地、建物
や機械設備等といった)承継対象財産の特定や、(不動産登記手続等の)対抗要件
具備、許認可の取得等の作業が必要になる。
なお、個人事業主の中小 M&A は、事業譲渡(営業譲渡)の手法を用いることが通
常である。
また、最終契約で取り決める主要な内容は以下のとおりである(株式譲渡・事業譲
渡の両方に共通である。)。
譲渡対象(何を譲渡するか)
譲渡時期(いつ譲渡対象を譲渡するか)
譲渡対価(代金をいくらにするか)
支払時期・方法(譲渡対価をいつどのような方法で支払うか)
経営者・役職員の処遇(経営者による引継ぎ期間や、従業員の雇用継続の努力
義務等を設けてあるか)
経営者保証の扱い(譲り受け側による譲り渡し側の経営者保証の解除又は引継
ぎに係る義務、解除又は引継ぎがなされなかった場合に、譲り渡し側の経営者
保証に基づく請求が発生した際等の契約解除や補償等)
表明保証条項(双方が取引を実行する能力を有していることの確認等を含め、い
かなる事項を保証することが求められているか)
補償条項(表明保証条項に違反した場合等に、いつまでの期間、どの程度の補
償が求められるか)
クロージングの前提条件(クロージングまでに何を行う必要があるか)
競業避止義務(譲渡後に競合する事業を行うことがどの程度禁止されているか)
契約の解除事由(どのような場合に契約を解除できるか) 等
なお、譲渡対価は、クロージングを迎えて初めて支払われることが通常であり、最契約締結後クロージングまでの時期に関して、最終契約上で何らかの条件(前述クロージングの前提条件)が規定されることもある。また、譲り渡し側・譲り受け側協議において、中小 M&A に関する情報をクロージング後に公表する旨の合意をしいる場合には、それまでの間、秘密保持を貫く必要がある。中小 M&A は、最終契締結によって全て完了するものではない、という点には注意が必要である。
また、前述のとおり、最終契約の内容については仲介者・FA や士業等専門家のア
ドバイスを受けながら、相手方と交渉・調整の上確定していくが、その内容については
譲り渡し側・譲り受け側が自らでも十分に確認することが重要である。特に以下①~
⑦のような事項については、最終契約後・クロージング後に相手方とトラブルに発展するリスクがあるため、仲介者・FA や士業等専門家への相談を行いながら、最終契
約の内容や最終契約前後の対応について慎重に検討しなければならない。また、士
業等専門家に対し契約内容に関するセカンド・オピニオンを求めることも有用である。
ただし、仲介者・FA への相談については、契約内容や業務の性質上、支援できる
範囲に限界がある場合や最終契約締結後においては当該支援機関の役務提供が
終了している場合もあるため、最終契約締結の前後を通じて継続的かつ実質的な支
援が期待できる状況にあるか、という点について確認しておくことが重要である。特に
クロージング後の両当事者間の紛争解決(一方当事者との交渉も含む。)への関与・
支援については、基本的には仲介者・FA による役務提供はクロージング時点におい
て終了していることや、紛争解決への関与・支援は非弁行為(弁護士資格を有する者
のみが実施することができる役務(弁護士法第72条))に該当する可能性があること
から、仲介者・FA による支援に限界がある点について留意する必要がある。また、紛
争が生じた場合には、弁護士に支援を求めることを検討する必要がある。
① 譲り渡し側の経営者保証の扱い
ア M&A を進める前の譲り渡し側の信用力・ガバナンスによる解除
譲り渡し側の経営者が金融債務等の保証人となっている場合は、その扱いを慎重
に検討する必要がある。「経営者保証に関するガイドライン」では、経営者保証に依
存しない融資の一層の推進のため、主たる債務者(=譲り渡し側)に、(ⅰ)「法人と経
営者との関係の明確な区分・分離」、(ⅱ)「財務基盤の強化」、(ⅲ)「財務状況の正
確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保」を行うこと求めており、
これらを実施の上、経営者保証の解除について、保証の提供先である金融機関等に
相談することも選択肢となりうる。特に、経営者保証の解除が M&A を進める上での
主な動機である場合には、M&A を進める前の段階で譲り渡し側において、上記のよ
うに主体的に経営者保証の解除に向けた取組を行うことも考えられる。また、当該取
組の実施にあたり、士業等専門家(特に弁護士)への相談も有用である。さらに、(i)
~(ⅲ)の信用力・ガバナンスの構築の上では、中小企業活性化協議会への相談も
有用である。
イ 譲り受け側の信用力・ガバナンスを踏まえた解除又は譲り受け側への移行
譲り受け側の信用力・ガバナンスを踏まえた解除又は譲り受け側への移行を念頭
に M&A を進める場合も想定され、「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関す
るガイドライン』の特則」においては、事業承継時には「保証契約の見直しを検討した
上で、前経営者に対して引き続き保証契約を求める場合には、前経営者の株式保有
状況(議決権の過半数を保有しているか等)、代表権の有無、実質的な経営権・支配権の有無、既存債権の保全状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案
して、保証の必要性を慎重に検討することが必要である。特に、取締役等の役員では
なく、議決権の過半数を有する株主等でもない前経営者に対し、止むを得ず保証の
継続を求める場合には、より慎重な検討が求められる。」とされている。
ただし、解除又は移行の実施は最終的には金融機関等の判断によるものであるこ
とに留意が必要である。また、正式な解除又は移行は、クロージングを経て、登記簿
上で代表者が変更された後に行う必要があり、秘密保持を徹底する観点からも保証
の提供先である金融機関等への相談がクロージング後となるケースもある。この場
合、事後的に金融機関等が経営者保証の解除又は移行が実施できるか審査するこ
ととなるが、譲り受け側の信用力が著しく低い場合等には円滑に解除又は移行が実
施できないリスクがある。また、そもそも譲り受け側において経営者保証を解除又は
移行する意思が希薄な場合には金融機関等への相談が滞るリスクもある。
このようなリスクを踏まえると、譲り渡し側において M&A を通じて自らの経営者保
証を確実に解除又は移行したい意向がある場合には、以下のような対応が考えられ
る。
(ⅰ) 士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センターへの相談
M&A を通じた経営者保証の扱いについて、支援を受けている仲介者・FA への相
談に加えて、まずは、士業等専門家(特に弁護士)や事業承継・引継ぎ支援センター
へ相談することが考えられる。特に弁護士については、経営者保証の扱いに関して
保証の提供先の金融機関等との調整等の具体的な支援についても相談できる。
(ⅱ) 金融機関等への事前相談
クロージング前又は最終契約前に秘密保持を徹底の上、譲り受け側とともに保証
の提供先である金融機関等に経営者保証の解除又は移行について事前相談を行う
ことも考えられる。ただし、事前相談後も経営者保証の扱いが確定的とならない可能
性もあること、M&A 成立前に金融機関等に情報が提供されることとなる点について
は留意の上、事前相談を実施するか検討する必要がある。なお、事前相談を行う場
合、保証の提供先に対して M&A を検討している旨を伝達することとなるため、情報
の取り扱いには細心の注意を払う必要があり、相談先と秘密保持契約を締結の上で
相談することが望ましい。
※士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センター、保証の提供先である金融機関等
への相談にあたっては、仲介契約・FA 契約や譲り受け側との契約において秘密保
持条項がある場合、これらとの関係に留意する必要があり、相談先を秘密保持条項の対象から除外した上で行うことが求められる。
※また、譲り受け側は、譲り渡し側から上記相談を実施したいとの申し出があった場
合には、その実施を拒むべきではなく、譲り渡し側との契約における秘密保持条項
の対象から相談先を除外するべきである。その上で、保証の提供先である金融機
関等から確認事項がある場合には、誠実に対応することが求められる。
(ⅲ) 最終契約における位置づけの検討
両当事者間で調整の上、保証の解除又は譲り受け側への移行を想定する場合に
は、最終契約において保証の解除又は移行を明確に位置付けることを検討すべきで
ある。具体的には、譲り受け側の義務として保証の解除又は移行を位置付けた上で、
保証の解除又は移行のクロージング条件としての設定や保証の解除又は移行がな
されなかった場合を想定した条項(例えば、契約解除条項や補償条項等)を盛り込む
ことが重要である。
保証の解除又は移行をクロージング条件として設定する場合については、具体的
な条件として、(a)譲り受け側が、最終契約締結後・クロージング前に保証の提供先の
金融機関等から保証の解除又は移行が実行できるか組織的な意向表明を取得する
こと、(b)当該意向表明の結果、保証の解除又は移行の手続を進めることができる場
合には、譲り受け側が、最終契約締結後・クロージング前に当該手続の上で必要とな
る書面を保証の提供先の金融機関等に提出するとともに、代表者の変更登記に係る
必要書類の作成すること、を設定することが考えられる。その上で、万全を期す場合
には、クロージング日に(必要に応じて金融機関等の同席の下で)代表者の変更登記
の手続、保証の解除又は移行の手続を同時に実施することが考えられる。
また、保証の解除又は移行を確実に実施するための手段としては、クロージング時
に、譲り渡し側の経営者保証の対象となっている債務を譲り受け側の資力により返済
し、別途譲り受け側が借り換えを行うといった方法も考えられる。
② デュー・ディリジェンス(DD)の非実施
中小企業は、一見、何の問題もなく経営がなされているようにみえても、何らかの
課題・リスクを抱えていることは少なくなく、譲り渡し側の経営者はその潜在的な課
題・リスクについて認識できていないケースもある。このため、譲り渡し側の経営者か
らのヒアリングのみによって、譲り渡し側が抱えるリスクを評価することには限界があ
る点に留意する必要がある。また、調査が十分になされない場合には、最終契約に
おいて譲り渡し側が負う各種義務(表明保証の範囲や補償額・補償期間等)の負担
の増加に繋がりうる点に留意が必要である。
③ 表明保証の内容
表明保証の期間や責任上限が設定されていない場合や適用場面が一義的に明確
でない規定が存在する場合、譲り渡し側が過大な表明保証責任を負担することとなり、
争いが生じるリスクがある。
表明保証の範囲を巡った紛争は、譲り受け側と譲り渡し側の関係性が悪化した際
に生じやすく、例えば、(ⅰ)最終契約後に当初見込んでいたバリュエーションに見合
った収益が実現しない場合や(ⅱ)デュー・ディリジェンス(DD)で検出されなかった問
題が顕在化し、事後的な治癒が困難であることが判明した場合等があげられる。この
ような場合には、当事者間の感情面での対立が大きく、かつ適切な損害額の算定も
困難であることが多いため、請求が過大なものになりやすい。
適切な範囲の表明保証を設定するには、デュー・ディリジェンス(DD)の実施結果を
踏まえつつ、問題が顕在化する可能性や顕在化した場合の影響の大きさを検討し、
これらが譲渡対価に織り込まれているかなどを勘案しながら、譲り渡し側・譲り受け側
双方が認識を擦り合わせることが重要である。このため、譲り渡し側は潜在的リスク
を把握する観点から、デュー・ディリジェンス(DD)の結果、譲り受け側がどのような問
題点を認識しているために当該表明保証の設定を求めているかについて確認を求め、
その妥当性等を議論することが望ましい。
このような工程を経ることなく、定型的に無期限、無制限の表明保証条項や適用場
面が判然としない表明保証条項を設定することは慎重に検討すべきである。
なお、表明保証違反があった場合に被る損害への対応として、表明保証保険の活
用も考えられる(表明保証保険を購入する場合、一般的にはデュー・ディリジェンス
(DD)の結果を報告した DD レポート等を保険会社に提出し、引受審査を経る必要
がある。)。表明保証保険の購入により、表明保証違反に関するリスクを保険会社に
引き受けさせることができるため、株式譲渡契約等における表明保証や補償の範囲
に関する譲り渡し側・譲り受け側間の交渉が円滑化する場合もある。
④ クロージング後の支払・手続
最終契約に基づく支払や手続はクロージング時に実行することが基本だが、依頼
者の希望等により支払や手続がクロージング後のタイミングとなることがある。具体
的には以下のようなものがある。いずれも、決済の遅滞や最終契約の内容について
の解釈の相違等により当事者間で争いに発展するリスクがあり、慎重な検討が求め
られる。
ア 譲渡対価のクロージング後分割払い
譲渡対価の支払を分割で行うこと。譲渡対価に対して譲り受け側の資金が不足す
る場合において活用されることがあるが、クロージング後の事業の状況や譲り受け側
の状況等によっては、不履行となるリスクがある。特に支払期間が長期間にわたる場
合はリスクが高い。
イ 役員退職慰労金のクロージング後払い
クロージング後に譲り渡し側の経営者や役員に対し役員退職慰労金の支払を行う
こと。譲り渡し側の経営者や役員が、事業の引継ぎ等のために、クロージング後も一
定期間対象会社に残留する場合等に、経営者や役員に対するインセンティブとして
活用されることがあるが、クロージング後の事業の状況や譲り受け側の状況等によっ
ては、不履行となるリスクがある。
ウ 株式のクロージング後段階的取得
譲り渡し側の株式の取得を複数回の取引により段階的に行うこと。譲り渡し側の経
営者のノウハウ等を引き継ぎたい場合等に段階的に経営権を移転させる目的等で用
いられることがある。ただし、クロージング後の事業の状況等によっては、最終契約時
に定めた取得の実行やその条件について、譲り渡し側又は譲り受け側の意向が変化
し、不履行となるリスクがある。
⑤ 最終契約後の状況に応じた支払の変動
譲渡額は両当事者の希望やデュー・ディリジェンス(DD)の結果を踏まえて交渉さ
れ、最終契約において確定していくこととなるが、最終契約後に譲渡額を調整・修正
する条項が設けられることがある。具体的には以下のようなものがある。いずれも、
調整・修正が発生する条件や調整・修正の方法等について解釈の相違等により当事
者間で争いに発展するリスクがあり、慎重な検討が求められる。仮に設ける場合には、
調整・修正が発生する条件や調整・修正の方法等の妥当性を確認の上、明確かつ詳
細な内容とする必要がある。
ア アーンアウト条項
クロージング後の一定期間(3年以内が多い。)における特定の時点において、対
象企業の売上や利益等の財務目標や売上個数や入居率等の非財務目標を設定し、
目標が達成された場合に、譲り受け側から譲り渡し側に追加で対価を支払うことを定
める条項。譲り渡し側にとっては目標の達成によって追加対価を取得できる可能性が
あり、かつ譲り受け側にとってはクロージング時点に支払う譲渡額を抑え、その後の
業績等の状況を踏まえて追加対価の支払うこととすることができるため、クロージン
グ後の業績悪化等のリスクを回避するための手段となりうる。特に、クロージング時
点では、将来にわたって発生する利益の見通しが立ちにくいものの、大幅な成長を実
現する可能性のあるベンチャー企業の M&A で活用されることが多い。
一方で、目標の設定や対応する追加対価の設定が曖昧となった場合、争いに発展
するリスクがある。また、クロージング後の事業の状況や譲り受け側の状況等によっ
ては、不履行となるリスクがある。あくまでデュー・ディリジェンス(DD)や譲り渡し側・
譲り受け側間での調整を十分に実施した上で、確定していない具体的なリスクに対応
して設定されるべきものであり、調整が十分に実施されていない段階において譲り渡
し側・譲り受け側のバリュエーションの差を埋める目的等で、本条項を設けるべきか
慎重に検討すべきである。
イ 株価調整条項
最終契約からクロージングまでに譲り渡し側の企業価値が変動した場合に、クロー
ジング時に当該変動を踏まえた譲渡額の調整を行うことを定める条項。調整額の算
出方法が曖昧となった場合、争いに発展するリスクがある。中小 M&A においては、
最終契約からクロージングまでの期間が短いことが多いため、本条項を設けるべき
か、慎重に検討すべきである。
ウ 支払金の返還に関する条項
過去の投資に基づく損失や過年度決算の修正が発生した場合等に、既に支払っ
た譲渡対価について、譲り渡し側から譲り受け側に対して払い戻すことを定める条項。
払戻しが発動する事象の設定が曖昧となった場合等には、当該事象の発生有無に
ついて争いに発展するリスクがある。
⑥ 譲り渡し側経営者に関連する資産・負債等の最終契約後整理
譲り渡し側の会社の財産と経営者個人の財産が明確に分離されていない場合に
は、M&A の実施にあたり当該財産を整理することが求められる。具体的には、貸借
対照表に記載のない経営者個人の財産だが、対象会社の事業に用いられているも
の(例えば、経営者個人名義で登記されている土地等)は、譲り受け側に売却又は引
継ぎを行い、貸借対象表に記載があるものの経営者個人の財産として使用され、対
象会社の事業に用いられていないもの(例えば、自家用車等)は、会社から経営者個
人に売却する必要がある。
これらの整理を最終契約後に実施する場合、最終契約の段階で合意した内容に大
きく変更が生じ、争いに発展するリスクがある。このため、可能な限り、最終契約前に
当該整理を行うことが望ましい。その上で最終契約後に整理する部分が残る場合で
あっても、最終契約前に確実に対象となる資産を特定の上、最終契約において各資
産の移転方法・譲渡額を具体的に明記することが重要である。
⑦ 最終契約からクロージングまでの期間
最終契約からクロージングまでの期間については、最終契約においてクロージング
までに実施すべき事項の完了がクロージングの前提条件として規定されることもある
ことから、当該実施事項を完了するために必要な期間としてインターバルが設けられ
る場合がある。しかし、仮に2ヶ月以上等の一定期間が特段の事情なく設けられる場
合、業績の変化やデュー・ディリジェンス(DD)で把握した内容からの変化等によって
最終契約の修正が必要となるリスクや最終契約の不履行が生じるリスクがある。
(9) クロージング
中小 M&A の最終段階であり、株式等の譲渡や譲渡対価の支払を行う。特に譲り
受け側から譲渡対価の全部又は一部が確実に入金されたことを確認することが必要
である。
仮に事業譲渡の手法を選択し、承継対象財産の中に不動産が含まれる場合には、
クロージング後速やかに登記手続を行う必要があるため、クロージングにおいて登記
必要書類を授受することが通常である。そのような場合には、司法書士等とも日程調
整の上、クロージングに向けた具体的な段取りの準備を進める。
金融機関からの借入金や不動産等への担保設定がある場合は、担保解除(及び
これに伴う担保抹消登記手続)につき、取引金融機関との調整が予め必要となること
があり、その場合には、自ら調整を行うか、仲介者・FA や士業等専門家の指示に従
い、必要な手続を進めることが必要である。
(10) クロージング後(ポスト M&A)
クロージングを迎えた後も譲り渡し側経営者は、PMI(M&A 実行後における事業の
統合に伴う作業)として、譲り受け側による円滑な引継ぎ等に向けて、誠実に対応す
る必要がある(最終契約において具体的な協力義務等を定めている場合には、これ
を果たす必要がある。)。
例えば、株式譲渡や事業譲渡の場合、以下のような引継ぎ等の作業が必要となる。
<共通>
中小 M&A クロージングについての役員・従業員や取引先等に対する報告
リース契約・賃貸借契約・金銭消費貸借契約等に関する名義変更・経営者保証
解除・(連帯)保証人変更(なお、クロージング前に、リース会社・賃貸人・取引金
融機関等との協議・交渉を開始することが多い。特に、賃貸借契約等についての
チェンジ・オブ・コントロール条項の定めがある場合には、当該契約等の継続のた
めに事前に賃貸人等との協議や交渉が必要になることがあるため、注意が必要
である。)
業務フローの引継ぎ・業務管理体制の構築 等
<株式譲渡の場合>
代表者変更のための株主総会・取締役会や登記手続 等
<事業譲渡の場合>
売掛金の振込先口座の変更
クロージング後における売掛金の入金・買掛金の出金の清算
給与体系・就業規則その他の人事労務関係の統一 等
譲り渡し側は、譲り受け側の希望に応じて、引継ぎ等の作業に適宜協力することが
望まれる。こういった作業には、3か月~1年程度の時間を要することが多いが、個別
のケースにおいて異なる。
この工程を経て、譲り渡し側経営者は、徐々に事業運営から離れていくことになり、
また、譲り受け側は、譲り渡し側の事業を実質的にも引き継ぐことになる。この中で、
譲り渡し側の経営者保証が円滑に移行しない等の当事者間でのトラブルが発生した
場合には、早急に弁護士への相談を行うことが望ましい。特にクロージング後の両当
事者間の紛争解決(一方当事者との交渉も含む。)への関与・支援については、基本
的には仲介者・FA による役務提供はクロージング時点において終了していることや、
紛争解決への関与・支援は非弁行為(弁護士資格を有する者のみが実施することが
できる役務(弁護士法第72条))に該当する可能性があることから、仲介者・FA によ
る支援に限界がある点について留意する必要がある。
なお、PMI の実施にあたっては、中小企業の PMI の「型」を示した「中小 PMI ガイド
ライン」(「用語集」参照)や「PMI 実践ツール」、「PMI 実践ツール活用ガイドブック」
(「用語集」参照)も参照されたい。
III M&A プラットフォーム
近年、我が国における中小 M&A においても、オンラインの M&A プラットフォームが
急速に普及しつつあることから、以下では M&A プラットフォームについて説明する。た
だし、M&A プラットフォームの市場は比較的新しく、仕組みや留意点等も今後大きく変
わり得る点には留意が必要である。
1 M&A プラットフォームの基本的な特徴
M&Aプラットフォームは、譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステムに登
録することで、主にマッチングをはじめとする中小 M&A の手続を低コストで行うことが
できる支援ツールである。
特に譲り渡し側については無料で登録できる M&A プラットフォームが相当数あり、
マッチングのために支援機関に相当額の手数料を支払う資力のない小規模な事業
者であっても、中小 M&A の可能性が大きく広がったと評価できる。また、譲り渡し側、
譲り受け側といった当事者が自ら相手先を探すことができるケースもあり、従前は
M&A 専門業者しか接触できなかった中小 M&A の案件情報に直接接触することがで
きるようになるため、よりスピーディな交渉が可能となった。そのため、近い将来に廃
業することを検討している小規模な事業者であっても、廃業以外の選択肢が現実的
にあり得るとの認識の下、M&A プラットフォームの活用を積極的に検討することが望
まれる。
2 M&A プラットフォーム利用の際の留意点
M&A プラットフォーム利用の際には、以下の点に留意することが必要である。
(1) 情報の取扱い
まず、注意すべきことは情報の取扱いである。
ノンネーム情報であったとしてもインターネットの特性上、個者が特定されるリスク
を踏まえ、自社の情報をどの程度まで開示対象とするか慎重に検討しておく必要が
ある。
また、M&A プラットフォームごとに、情報を開示する相手方が異なることも注意が必
要である。例えば、法人・個人問わず閲覧・掲載が可能な M&A プラットフォームもあ
れば、法人のみに限った M&A プラットフォームもある。
どの程度の情報をどこまでの範囲で開示するのか、自身のニーズに照らし合わせ
て検討することが望ましい。
万が一、一度でもインターネット上に情報が流出してしまうと、それを完全にインタ
ーネット上から消去することは困難であるため、ある程度は公開されても受忍できる
程度の情報しか掲載しないといった慎重な姿勢が望まれる。この点は、インターネット
上でオープンに公開されていない、閉じられた(クローズドな)M&A プラットフォームで
あったとしても同様である。
(2) 利用する M&A プラットフォームの選択
M&A プラットフォームにはそれぞれ特徴があるため、どの M&A プラットフォームを
使うべきかについても検討が必要である。
前述の情報の開示範囲について、法人・個人問わず閲覧・掲載が可能な M&A プ
ラットフォームであれば、マッチングの可能性を広げることができるというメリットがあ
るのに対し、法人のみに限った M&A プラットフォームであれば、法人の情報が登記
情報等により比較的取得しやすいことから M&A プラットフォームの安全性を一層高
めることができるというメリットがあると想定される。特に、情報開示先となる譲り受け
側をどの程度まで制限するかは、重要なポイントである。
一方、仕組みも M&A プラットフォームによって違いがある。例えば、譲り渡し側・譲
り受け側双方から交渉を始められる M&A プラットフォームもあれば、譲り渡し側から
しか交渉を始められない M&A プラットフォームもある。また、当事者が直接登録・交
渉できる M&A プラットフォームもあれば、FA を介してのみ登録・交渉が可能な M&A
プラットフォームもある。したがって、各社の仕組みを理解した上で活用することが重
要である。真に極秘で進めたい案件は、M&A プラットフォームには向いておらず、仲
介者・FA との使い分けが必要になると思われる。
また、一部の M&A プラットフォームは、仲介者・FA や士業等専門家の紹介や IT を
活用した中小 M&A の手続の支援を行っているが、M&A プラットフォームはあくまで譲
り渡し側・譲り受け側のマッチングまでに留まることが一般的である。マッチング後の
基本合意・最終契約締結や、これに関する条件交渉等の具体的な手続は、原則とし
て、譲り渡し側・譲り受け側の当事者が行うことになる。しかしながら、中小 M&A にお
いて、各当事者は中小 M&A に関する知見を有していないことが多いことから、事業承
継・引継ぎ支援センターや士業等専門家等の支援機関による支援を受けながら手続
を進めていくことが望ましい。
3 M&A プラットフォームの手数料
(1) 料金体系
現在、譲り渡し側について、M&A プラットフォームを利用したマッチングに関し、一
切の手数料が発生しないケースが多い。しかしながら、今後、M&A プラットフォーム市
場がより発展することにより、譲り渡し側の件数が増えてくれば、譲り渡し側において
も手数料が発生するケースも増えてくる可能性はある。
一方、譲り受け側については、マッチング後のクロージング時点で成功報酬が発生
する形(いわゆる完全成功報酬型)が多い。この場合、着手金・月額報酬・中間金等
は発生しないケースが多い。譲り受け側における手数料は、譲渡額等の数%程度と
されることが多い(最低手数料を設けるところもあれば、設けないところもある。)。
なお、譲り渡し側・譲り受け側とも、M&A プラットフォームの利用とは別に、特にマッ
チング後の手続において、仲介者・FA や士業等専門家への依頼も行う場合には、こ
れらについての手数料・報酬が別途、必要となる。
(2) 具体例
以下では、仮に、M&A プラットフォームを利用して中小 M&A のマッチングを行った
場合に支払うことになる手数料について、具体的な事例を示す。なお、消費税及び地
方消費税は合計10%と仮定する。
V 事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センター(以下Ⅳにおいて「センター」という。)は、経済産業
省の委託を受けた機関(都道府県商工会議所、県の財団等)が実施する事業であ
る。具体的には、中小 M&A のマッチング及びマッチング後の支援、従業員承継等に
係る支援に加え、事業承継に関連した幅広い相談対応を行っている。
センターは、全国48か所(全都道府県に各1か所、ただし東京都は2か所)に設置
されており、地域金融機関 OB や、公認会計士・税理士・中小企業診断士・弁護士等
の士業等専門家といった、中小 M&A の知見を有する専門家が常駐している(現時点
での連絡先一覧は参考資料3「事業承継・引継ぎ支援センター連絡先一覧」参照)。
以下では、主として、譲り渡し希望者に向けた、センターでの支援内容とその留意
点を説明する。その際には、事業者同士の中小 M&A の支援と、それ以外の支援とに
分けて説明する。
1 事業者同士の中小 M&A の支援
(1) 支援フロー
① 初期相談対応(一次対応)
本工程は、センターが中小企業からの相談に対応し、支援の方向性を判断するも
のである。具体的には、中小 M&A のみならず、親族内承継や従業員承継、廃業等に
対する相談を幅広く受け付けており、相談時点において意思決定ができていないもの
についても対応している。センターでは相談者のニーズを把握した上で、適切な対応
策の検討を行っている。センターは、中小企業活性化協議会やよろず支援拠点といっ
た他の公的機関のほか、士業等専門家を含む民間の支援機関とも連携をしており、
中小企業の事業承継・引継ぎ以外の対応が適切であると判断した場合には、適切な
支援機関への橋渡しを行っている。
このため、特に中小 M&A の意思決定ができていない場合において、センターに相
談することは様々な選択肢を検討するという観点から有益であると考えられる。
また、センターでは、公的な相談窓口として、他の仲介者・FA からのアドバイスにつ
いてのセカンド・オピニオンを求めることもできるため、既に中小 M&A の工程が進ん
でいる場合において、支援を受けている仲介者・FA の対応に疑問が生じた場合等も、
相談することが可能である。
② 登録機関等による M&A 支援(二次対応)
本工程は、一次対応を経て、相談者が中小 M&A の実行について意思決定した場
合に、センターが登録機関等又は連携 M&A プラットフォーマーの中で適切な支援が
できる者がいると判断した場合に、当該登録機関等又は連携 M&A プラットフォーマー
への橋渡しを行うものである。
登録機関等又は連携 M&A プラットフォーマーの支援を受ける場合は、登録機関等
又は連携 M&A プラットフォーマーと仲介契約・FA 契約を締結することになるため、手
数料が発生するが、登録機関等又は連携 M&A プラットフォーマーからよりきめ細や
かな支援を受けられることが期待できる。
なお、登録機関等又は連携 M&A プラットフォーマーの選択をした後の流れについて
は、本章Ⅱ3「中小 M&A における一般的な手続の流れ(フロー)」を参照されたい。
③ センターによる M&A 支援(三次対応)
本工程は、二次対応において適当な登録機関等又は連携 M&A プラットフォーマー
が存在しない場合、又は、一次対応時点で、特定のマッチング相手が決まっている、
若しくは、合意ができている者に対してその後の手続の一部をセンターが直接支援す
るものである。マッチング相手が決まっていない場合は、後述するセンターが保有す
るデータベースも活用しながら相手探しを実施する。マッチング相手が見つかった場
合には、本章Ⅱ3「中小 M&A における一般的な手続の流れ(フロー)」中(5)交渉~
(9)クロージングまでの各工程を円滑に進めるため、士業等専門家の活用を含めた
支援を行う。
具体的には、税務面・法務面に関する士業等専門家への相談や、企業概要書の
作成が必要である場合において、センターが外部専門家等を紹介し、これらの者と連
携して支援を行う。外部専門家等の利用は譲り渡し希望者にとって費用負担が生じ
るものの、税務面・法務面での見解が重要なポイントとなるケースもあるので、必要に
応じて外部専門家等を活用することが望ましい。
(2) センターの構築するデータベース
センターでは、相談に来た譲り渡し、譲り受けを希望する事業者及び登録機関等
が保有する情報等をデータベース化し、マッチングの相手探しを行っている。
データベースは、掲載する事業者の許諾範囲に応じて全国のセンター内のみでの
共有又は登録機関等、連携 M&A プラットフォーマーへの開示も可能としている。な
お、掲載に当たっては、個別の事業者が具体的に特定されない範囲でノンネーム情
報のみが掲載される。
2 その他の支援
センターでは、事業者同士の中小 M&A のみならず、創業希望者(事業を営んでい
ない個人)とのマッチングを行う「後継者人材バンク」事業、廃業を希望している中小
企業の「経営資源の引継ぎ」についての支援も行っている。以下、それぞれの支援内
容を概説する。
(1) 後継者人材バンク
後継者人材バンクは、後継者不在の中小企業(主として個人事業者)と創業希望者
(事業を営んでいない個人)とのマッチングを行う支援である。譲り渡し側にとっては
事業を存続させることができ、譲り受け側の創業希望者にとっては譲り渡し側の事業
をそのまま引き継ぐことにより、創業に伴うリスクを抑えることができる。
後継者人材バンクではセンターの支援の下、マッチングからクロージングに至るま
での工程について支援を行っている。一般的なフローについては、本章Ⅱ3「中小
M&A における一般的な手続の流れ(フロー)」を参照されたい。
(2) 経営資源の引継ぎ
センターでは、廃業を希望している者の事業又は主たる事業用資産等の経営資源
の引継ぎ(一部、中小 M&A も含む。)についての相談にも対応している。
具体的には、廃業を希望している者に対して、中小 M&A の提案、マッチングの相
手探し、事業の一部譲渡を含む経営資源の引継ぎについての支援を行う。
経営資源の引継ぎに関しては、事業又は経営資源について、センターの支援の
下、マッチングからクロージングに至るまでの工程について、支援を行っている。一般
的なフローについては、本章Ⅱ3「中小 M&A における一般的な手続の流れ(フロー)」
を参照されたい。
その他、廃業については、参考資料8「円滑な廃業を支援する施策」を参照されたい。
V 仲介者・FA の手数料についての考え方の整理
1 手数料の種類
料金体系として、着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の形式が多く見られることか
ら、これらの概要について、以下、整理する。ただし、仲介者・FA の手数料には一般
的な法規制がなく、どのような料金体系を採用するかは、あくまで各仲介者・FA によ
る点については留意が必要である(着手金・月額報酬・中間金を設けず、成功報酬の
みを設ける仲介者・FA も相当数あるとされる。また、着手金・月額報酬・中間金が成
功報酬に含まれるか否かの確認も必要である。)。なお、別途、実費(交通費等)を請
求することもある。
(1) 着手金
着手金は、主に依頼者との仲介契約・FA 契約締結時に発生する手数料である。後
述の成功報酬が発生した場合には、当該成功報酬に含まれる(成功報酬の内金とな
る)ものとすることもある。請求する仲介者・FA と、請求しない仲介者・FA に分かれる。
(2) 月額報酬
月額報酬(定額顧問料、リテーナーフィーと呼ばれることもある。)は、主に月ごとに
定期的に定額で発生する手数料である。後述の成功報酬が発生した場合には、当該
成功報酬に含まれる(成功報酬の内金となる)ものとすることもある。定期的に生じる
手数料であることから、契約期間を確認しておくべきである。請求する仲介者・FA と、
請求しない仲介者・FA に分かれる。
(3) 中間金
中間金(マイルストーンフィーと呼ばれることもある。)は、基本合意締結時等、案件
完了前の一定の時点に、又は一定の成果に対して発生する手数料である。後述の成
功報酬が発生した場合にはこれに含まれる(成功報酬の内金となる)ものとすること
が多い。請求する仲介者・FA と、請求しない仲介者・FA に分かれる。
(4) 成功報酬
成功報酬は、主にクロージング時等の案件完了時に発生する手数料である。仲介
者・FA の場合は、主に以下の3つの基準となる価額のいずれかに、一定の方式に則
った計算を施すものが多い。ただし、これらを組み合わせたり、修正したりする方式も
あれば、これらと全く異なる方式(例えば、定額)を採用する仲介者・FA も存在する。
また、後述のとおり、最低手数料が設けられるケースが多い。このように、成功報酬
の算定方法や成功報酬や最低手数料の金額の水準も各仲介者・FA によって異なる
ため、複数の仲介者・FA を比較検討することが望ましい。
① 譲渡額(譲受額)
譲り渡した(譲り受けた)金額そのものを基準とするものである。基準として理解し
やすいと言える。
譲り渡し側の場合には、譲渡額が高くなれば手数料の金額が高くなることにも合理
性が認められるが、譲り受け側の場合には、譲受額が高くなるほど手数料の金額も
高くなり負担感が増すため、異なる算定方法(例えば、定額。特に、双方から手数料
を受領する仲介者の場合には双方を定額とする等)とすることもある。
② 移動総資産額
主に譲渡額に負債額を加えた、いわゆる「移動総資産額」を基準とするものである。
これは、譲り渡し側の(移動)総資産額は、その事業規模に連動して大きくなる傾向に
あるとの考えによるものである。したがって、同じ譲渡額であっても、負債(特に借入
金)の金額が高い方が、手数料は高くなるということになる。
③ 純資産額
資産と負債の差額である。簿価純資産額の場合には、決算書上の記載を基に容
易に計算でき、明確であるという特徴があるため、特に譲り渡し側が小規模企業の場
合には、簿価純資産額を基準とすることがある。なお、譲り渡し側が債務超過企業の
場合には、純資産額がゼロ円以下となってしまうため、通常、別の要素を考慮する譲
渡額(前述の①参照)や移動総資産額(前述の②参照)を基準とすることが多い。
2 レーマン方式及び最低手数料
以上の価額を基に報酬を算定する手法として、レーマン方式が採られることが多い。
レーマン方式は、「基準となる価額」に応じて変動する各階層の「乗じる割合」を、各階
層の「基準となる価額」に該当する各部分にそれぞれ乗じた金額を合算して、報酬を
算定する手法であり、特に M&A 専門業者において広く用いられている。
階層ごとの乗じる割合(%)は一定であったとしても、「基準となる価額」については
様々な考え方があり(本章Ⅴ1(4)「成功報酬」①~③参照)、採用される考え方によ
って報酬額が比較的大きく変動し得ることから、「基準となる価額」の考え方・金額の
目安や、報酬額の目安を確認しておくことが重要である。
例えば、以下のような表を用いて報酬を算定するが、例示された各階層における
価額・割合は必ずしも表記載の価額・割合に限定されるものではなく、各仲介者・FA
により異なる。そもそも、レーマン方式を採用せず、「基準となる価額」によらず一律の
割合を乗じるケースや、定額とするケースもある。
また、原則としてレーマン方式によるとしても、譲り渡し側が小規模である場合には、
「基準となる価額」が小さく、十分な成功報酬を確保できないケースもあり得るため、こ
れに備えて最低手数料を設けている仲介者・FA は多い(以下のグラフ参照)。最低手
数料の金額は、各仲介者・FA により異なるため、仲介者・FA に依頼しようとする中小
企業は、最低手数料を含め、手数料の算出方法を明確に確認しておく必要がある。
3 具体例
以下では、仮に、M&A 専門業者が中小 M&A のマッチング支援等を行った場合に、
譲り渡し側又は(譲り渡し側経営者であることが多い)譲り渡し側株主が支払うことに
なる手数料について、具体的な事例を示す。なお、消費税及び地方消費税は合計10%と仮定する。
4 仲介契約・FA 契約前の手数料に係る確認・対応
(1)仲介契約・FA 契約前の手数料と提供する業務内容に係る確認
仲介者・FA の手数料は、各仲介者・FA の合意に委ねられていることから、仮に同
じ M&A が実現したとしても、仲介者・FA が異なれば、発生する手数料の金額は多様
である。
重要なのは、あくまで、仲介者・FA の業務内容と手数料の金額が客観的に見合っ
ているか否か、そして依頼者である中小企業やその経営者が納得できるか否か、と
いう点である。
そこで、仲介契約・FA 契約を締結する前に、まずは、以下のような点について、入
念に確認し、必要に応じて対応を検討することが重要である。
なお、本ガイドライン上、依頼者が納得をした上で仲介契約・FA 契約を締結する必
要があることから、仲介者・FA には、依頼者に対し、仲介契約・FA 契約前に提供する
業務の範囲・内容及び手数料に関する事項等の契約に係る重要な事項を記載した
書面を交付して(メール送付等の電磁的方法による提供を含む。)、説明をすることを
求めている(第2章Ⅱ4(2)①「手数料・提供する業務内容の説明」参照)。
① 手数料に関する事項について
成功報酬において採用される報酬率、報酬基準額(譲渡額/純資産/移動総資産
等)、最低手数料の額、報酬の発生タイミング(着手金/月額報酬/中間金/成功報酬)
といった手数料の算定基準を確認し、複数の仲介者・FA の手数料を比較検討するこ
とが重要である。
特に、同水準の報酬率を採用する仲介者・FA であっても、最低手数料の額や報酬
基準額が異なる場合、支払う報酬額に差異が生じる(例えば、報酬基準額として「移
動総資産」が採用される場合、「譲渡額」、「純資産」が採用される場合よりも報酬額
は高くなる。)。このため、単にレーマン方式の階層ごとの報酬率のみではなく、成立
する譲渡額に応じて最終的に支払う報酬の絶対額を確認することが重要である。
なお、「M&A 支援機関登録制度」のホームページ(https://ma-shienkikan.go.jp/)で
は、同制度に登録された仲介業務又は FA 業務を行う支援機関の手数料の算定基準
を公表しており、最低手数料の額や報酬基準額といった算定基準の内容に応じて参
照可能となっている。このため、複数の仲介者・FA の手数料を比較検討する上で有用である。
② (仲介契約の場合)相手方の手数料に関する事項について
M&A の成立により発生する資金の流れを構造化すると、相手方の手数料の額が
自らの利益に影響する構造にある点に留意する必要がある。
具体的には、譲り受け側が譲り渡し側との M&A の成立のために支払うことができ
る予算を決定すると、この「①譲り受け側の予算」を上回らない範囲内で「②譲渡額
(譲り受け側⇒譲り渡し側)」と「③手数料(譲り受け側⇒仲介者)」が決定されることとなる。
このように「①譲り受け側の予算」が「②譲渡額(譲り受け側⇒譲り渡し側)」と「③手数料
(譲り受け側⇒仲介者)」に影響する構造にある。なお、M&A のプロセスを進める中で譲
り渡し側と譲り受け側のシナジーが想定以上に見込めることが判明した場合や M&A
の進行中に当初想定していなかった工程が発生した場合等には、「①譲り受け側の
予算」が増額される場合もある点には留意されたい。
また、「④譲り渡し側の受取額」は「②譲渡額(譲り受け側⇒譲り渡し側)」から「⑤手数
料(譲り渡し側⇒仲介者)」を控除した額であることから、譲り渡し側の M&A を実施する
か否かの意思決定には、「②譲渡額(譲り受け側⇒譲り渡し側)」ではなく「④譲り渡し側
の受取額」がより直接的に影響することとなる。
加えて、本ガイドライン上、仲介者の場合には、利益相反の防止の観点からデュ
ー・ディリジェンス(DD)を直接実施すべきでないとしているところ(第2章Ⅱ4(7)「デュ
ー・ディリジェンス(DD)」参照)、譲り受け側がデュー・ディリジェンス(DD)の実施にあ
たって専門的な支援を必要とする場合には、別の支援機関から支援を受ける場合も
ある。この際、譲り受け側にとっては、当該支援機関に対する支払は仲介者に対する
手数料と同様に M&A に係るコストとなるため、最終的には譲り渡し側が受け取る「②
譲渡額(譲り受け側⇒譲り渡し側)」に影響する場合もある。
このように、相手方の手数料の額が自らの利益に影響する構造を踏まえると、相
手方の手数料の額についても意識する必要がある。特に仲介者の場合は、譲り渡し
側・譲り受け側のいずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の
依頼者に対する中立・公平な支援が求められるところ、双方の依頼者から支援の対
価として受領する手数料の額は、提供される支援の内容に影響する可能性があることから、仲介者の中立・公平性を確認する上で、重要な要素となる。このため、仲介
者からの支援を受ける場合には、利益相反防止の観点からも、自らが支援機関に対
して支払う手数料に加え、相手方が支援機関に対して支払う手数料の算定基準につ
いても説明を求めることが考えられる。
特に典型的に問題となる場合としては、例えば、譲り受け側が仲介者に当初想定
していた手数料に追加して手数料を支払う代わりに、仲介者が譲渡額を不当に低額
に誘導する又は譲り渡し側の意向に反する形で優先的にマッチングを実施するという
行為が挙げられる。この場合において、譲り受け側は追加の手数料を支払ってまで
譲り渡し側との M&A を実現したいという意向がある以上、当該支払は仲介者に支払
われる手数料ではなく、譲り渡し側に支払われる譲渡額に含まれる可能性があるも
のと考えられる。このため、譲り渡し側・譲り受け側の双方に対する中立・公平な支援
を行う仲介者が、当該追加の手数料を対価として譲り渡し側の利益に反する形で譲
り受け側に便宜を図る行為は利益相反にあたり、本ガイドラインでは禁止行為として
いる(第2章Ⅱ5「仲介者における利益相反リスクと現実的な対応策」参照)。このよう
な行為を防止する観点からも相手方の手数料について確認をすることが重要である。
なお、本ガイドライン上、仲介者に対しては相手方の手数料について、仲介契約前、
仲介契約締結後において説明することを求めている(第2章Ⅱ4(2)②「相手方の手
数料の開示」参照)。
また、特に譲り渡し側は、相手方が仲介者に支払う手数料の他、デュー・ディリジェ
ンス(DD)等の実施にあたり活用する他の支援機関への支払についても意識する必
要がある。
③ 提供される業務に関する事項について
上記「①手数料に関する事項」を確認した上で、当該手数料の金額が仲介者・FA
から提供される業務に見合っているか確認するため、仲介者・FA に業務の詳細につ
いて説明を求めることが考えられる。具体的には以下の内容について確認することが
考えられる。
ア 必要となる仲介・FA 業務
M&A のプロセスにおいて、仲介者・FA は、対象会社の規模・業種にかかわらず、
M&A の手続進行に関する総合的な支援をする。この点、仲介者・FA ごとに提供する
業務の範囲は異なるため、プロセスごとにどのような支援を受けられるのかを明らか
にすることが重要である。
なお、本ガイドライン上、仲介者・FA に対しては提供する業務について、以下の表
に基づき M&A のプロセスごとにどういった業務を提供するのか整理の上、書面を交
付して具体的に説明することを求めている。以下の表の「提供する業務の詳細」の列
には例を記載しているが、仲介者・FA ごとに提供する業務は異なるため留意された
い(第2章4(2)①「手数料・提供する業務内容の説明」)。
【M&A のプロセスごとに提供する主な業務の例】
FA は最終契約・クロージングに向けてこれらの適切な交渉・調整といった支援を提供
する。また、デュー・ディリジェンス(DD)の際には、特に短期間で多くの調査・確認が
必要となり、十分に調査を実施するためには仲介者・FA による支援が重要となる。な
お、調査が十分になされない場合には、最終契約上譲り渡し側が負う各種義務(表明
保証の範囲や補償額・補償期間等)の負担の増加に繋がりうる点に留意が必要であ
る。
なお、仲介者の場合には、本ガイドライン上、利益相反の防止の観点から、バリュ
エーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンス(DD)といった、一
方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しないことを求
めており(第2章Ⅱ5「仲介者における利益相反リスクと現実的な対応策」参照)、特に
デュー・ディリジェンス(DD)については、仲介者の場合は、自ら実施すべきでないとし
ている(ただし、デュー・ディリジェンス(DD)の実施者(譲り受け側が依頼する別の支
援機関又は譲り受け側自身)の下で、譲り渡し側における開示資料の整理・作成の
サポートや DD の実施スケジュールの調整・管理といった直接的に DD の調査内容の
検討や調査を踏まえた評価・判断に影響しない範囲での支援することは可能。)(第2
章Ⅱ4(7)「デュー・ディリジェンス(DD)」参照)。また、これらは高い専門性が求めら
れる支援であることからも、仲介者と FA で提供できる業務に差が生じる点に留意す
る必要がある。
また、譲り渡し側の状況に応じて必要となる業務もある。例えば、会社の財産と個
人の財産が明確に分離されていないケースでは、それぞれの資産を明確に区分し、
整理・集約しておく必要がある。さらに、相続等により株式が分散している場合には他
の株主からの株式の買取りが必要となったり、一部株主の所在が不明であったりす
る場合には、当該株主の探索が必要となるケースがある。これらの業務について、仲
介者・FA からの支援を受けられる場合もある。
イ マッチングの難易度
依頼者の実態や状況、M&A における希望等によりマッチングや交渉・調整の支援
といった業務の難易度や複雑さは影響を受ける。具体的には、譲り渡し側の所属す
る産業・業種において将来的な需要が見込める場合や人手不足が深刻であり譲り受
け側の労働者の需要が高い場合等には、譲り受け側とマッチングする難易度は相対
的には低いといえる。また、財務状況、有望な販売先や技術の有無等の譲り渡し側
の個別の状況もマッチングの難易度に影響する。
さらに、譲渡額、従業員の雇用維持、経営者の出処進退、経営者保証の解除・移
行等についての依頼者の希望や選択する M&A のスキーム等によっても、マッチング
や交渉・調整の支援といった業務の難易度や複雑さは影響を受ける。これらの要素
を踏まえた上で、仲介者・FA に対して、業務や M&A の進行の見通しを確認することが重要である。
ウ 提供される業務の質
依頼者が満足できる M&A が実現するか否かは、仲介者・FA から提供される業務
の質に左右される。業務の質の構成要素としては、仲介者・FA が適切な候補先を紹
介するためのネットワークや支援の質を確保するための組織体制を構築しているか、
単に依頼者や相手方の考えの伝達に甘んじるのではなく、担当者が様々なリスクを
察知した上で、適切な調整を行い、円滑に M&A を成立させるための知識・経験を有
するかといった点等が大きく影響する。
ネットワークや組織体制の質は、仲介者・FA の組織としての成約実績に一定程度
反映されると考えられる。ただし、組織としての実績に加え、実際に支援を担当する
担当者の経験・専門的知見の有無も重要であり、担当者の経験年数や成約実績、専
門的知見(保有する資格等)についてもあわせて確認することが重要である。
また、上記の確認にとどまらず、依頼者自らの状況や希望等を踏まえ、候補先の
紹介を含む業務の見通しについて説明を求めることで、仲介契約・FA 契約締結後に
実際に提供される業務の質を確認することも重要である。
なお、本ガイドラインにおいて、仲介者・FA に対しては支援の質の確保・向上のた
めに一定の組織的な取組を実施することを求めており(第2章Ⅱ3「支援の質の確保・
向上に向けた取組」参照)、当該取組の実施状況を確認することも有効である。
(2)業務内容を踏まえた手数料の妥当性について判断又は納得ができない場合の
対応
(1)に記載する事項等について説明を受けた上で、手数料や提供される業務の内
容について疑問が残る場合には、士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センター等
からセカンド・オピニオンを聴取しておくことも有効である。
また、手数料や業務内容を理解した上で、手数料が提供される業務に見合ってい
ないと感じ、納得ができない場合には、仲介者・FA と業務や手数料に関する交渉又
は他の仲介者・FA への依頼も視野に入れて検討することが考えられる。
なお 、( 1)① に記載 のと お り 「 M&A 支援 機関登録制度 」のホ ームペ ージ
(https://ma-shienkikan.go.jp/)では、同制度に登録された仲介業務又は FA 業務
を行う支援機関の手数料の算定基準を公表しており、最低手数料の額や報酬基準
額といった算定基準の内容に応じて参照可能となっている。このため、他の仲介者・
FA を選定する上で有用である。
VI 問い合わせ窓口
ここでは、中小 M&A の実施過程において、あるいは中小 M&A が終了した後に、意見や相談を求めたいケースにおける主な問い合わせの窓口や、支援の在り方に関す
る不適切事例や苦情を申し出るための主な窓口を列記するので、参考とされたい。
1 意見や相談を求めるための主な問い合わせ窓口
事業承継・引継ぎ支援センター
(https://shoukei.smrj.go.jp/)
中小 M&A 全般についての問い合わせ窓口である。最寄りの事業承継・引継ぎ
支援センターについては、参考資料3「事業承継・引継ぎ支援センター連絡先一
覧」を参照されたい。
※どの窓口に相談するか迷う際には、まずこちらの窓口に相談されたい。
日本弁護士連合会(ひまわりほっとダイヤル)
(https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/about_himawari.html)
日本弁護士連合会及び全国52の弁護士会が提供する電話で弁護士との面
談予約ができるサービスである。
※法的な観点に基づく助言等を求めたい場合は、こちらの窓口に相談されたい。
2 不適切事例や苦情を申し出るための主な窓口
(以下の窓口は、紛争の解決や助言を目的とするものではないため、留意されたい。)
M&A 支援機関登録制度(情報提供受付窓口)
(https://ma-shienkikan.go.jp/inappropriate-cases)
M&A 支援機関登録事務局が設置する窓口。M&A 支援機関登録制度に登録
された仲介者・FA が取り組む中小 M&A 支援に関する不適切事例等の情報を受
け付けている。受け付けた情報は、不適切事例として他の中小企業への注意喚
起に用いるほか、登録M&A支援機関の本ガイドラインの遵守状況を確認する
等、M&A 支援機関登録制度の運営に利用される。
M&A 仲介協会(苦情相談窓口)
(https://www.ma-chukai.or.jp/inquiry/)
一般社団法人 M&A 仲介協会が設置する苦情相談受付窓口である。M&A 仲
介協会の幹事会員及び正会員の仲介者による支援に関する問題等を抱える企
業からの苦情等の相談を受け付けている。相談の受付後、基本的には、M&A 仲
介協会から対象の会員に対し、相談等の内容を通知し、対応の検討を促すこととされる。
第2章 支援機関向けの基本事項
I 支援機関としての基本姿勢
1 依頼者(顧客)の利益の最大化
多くの中小企業は、M&A についての専門知識を有しないため、仮に中小 M&A に関
心があるとしても、具体的にどのように行動すれば良いか分からず、結局そのまま中
小 M&A を断念してしまうことがある。中小 M&A についての専門知識を有する支援機
関は、そのような中小企業の意思決定やその後の諸手続の段階において適正なサ
ポートを行うことにより、我が国における中小 M&A の促進に資する役割が期待される。
その際、依頼者(顧客)である中小企業が、支援機関の専門的な業務や手数料の
妥当性等について、一般的には適切に判断することが困難である現状を踏まえて、
依頼者(顧客)の利益に真に忠実に動くことが求められる点を改めて認識する必要が
ある。
特に、仲介者・FA や士業等専門家は、中小 M&A の手続の各段階で、重要な判断
を依頼者(顧客)に求める場合には、十分に説明して納得を得た上で進める必要があ
る。
2 それぞれの役割に応じた適切な支援
支援機関にはそれぞれ異なる役割が期待されている。例えば、M&A 専門業者は、
マッチングやその後の諸手続の進捗管理等、総合的な支援を行う。金融機関は、融
資を通じて中小企業の経営状況等を詳細に把握していること、また、豊富なネットワ
ークを保有していることから、これらの情報を生かした中小 M&A に関する積極的な働
き掛けを行う。商工団体は、中小企業の身近な相談相手であり、その窓口機能を生
かして適切な支援機関に紹介する等の支援を行う。士業等専門家は、専門的な知見
を生かして M&A の手続の遂行等を支援する。最近では、インターネットを活用した
M&A プラットフォームを運営する M&A プラットフォーマーも現れている。その他、公的
機関である事業承継・引継ぎ支援センターが中小 M&A 支援を行っている。
中小 M&A 支援は、各支援機関が自らの特性や中小企業との関係性等を踏まえた
適切な役割分担を認識した上で実施することが重要なことから、各支援機関において、
後述する基本的な事項を理解し、実践することが強く望まれる。また、各支援機関に
おいて中小 M&A 支援に携わる者は、本ガイドラインで示した基本的な事項を適切に
実施するとともに、必要な研鑽を重ね、中小 M&A 支援の質の向上に尽力することが
望まれる。
3 支援機関間の連携
円滑に中小 M&A が進むケースにおいては、支援機関同士が相互に連携しあっている例が多い。
例えば、商工団体は、窓口に相談に来た譲り渡し側経営者を事業承継・引継ぎ支
援センターへとつなぐことがある。また、事業承継・引継ぎ支援センターにおいては、
金融機関、M&A 専門業者や士業等専門家等といった登録機関等又は連携 M&A プラ
ットフォーマーへと橋渡しを行うケースも見られる。更に、M&A プラットフォームにより
自らマッチングを果たした中小企業も、相手方当事者との契約交渉等の局面におい
ては、士業等専門家の力を借りることがある。
また、特に M&A プラットフォームは、中小企業のみならず M&A 専門業者や士業等
専門家といった他の支援機関においても活用が可能であることから、保有する案件
情報が少ない支援機関が M&A プラットフォームを活用してマッチングを実現し、その
後の手続を自ら支援することもある。
このように各支援機関が連携することにより、円滑に中小 M&A が進むことが期待
されることから、各支援機関は、自ら全てを抱え込むのではなく、必要に応じ、他の支
援機関と積極的に連携することが望まれる。
II M&A 専門業者
1 M&A 専門業者による中小 M&A 支援の特色
M&A 専門業者は、M&A の仲介業務や FA 業務に従事する専門業者であり、中小
M&A の実現にとって重要な役割を有する支援機関である。
M&A 専門業者がマッチング・交渉等についての支援を行うことで、これまでに数多
くの中小 M&A が成立したと言え、M&A 専門業者は、近年の中小 M&A 市場の成長に
相当程度の貢献を果たしてきた。
一方で、士業等専門家については法令において資格要件、業務内容、善管注意義
務や刑罰等が明確にされている(各専門家団体における懲戒処分等による制裁も存
在する。)ものの、M&A 専門業者については、許可制・免許制等は採用されておらず、
業界全体における一般的な法規制も存在していない(例えば、不動産取引において
は、宅地建物取引業法の規制が存在するが、M&A 専門業者についてこのような法規
制は存在していない。)。
しかし、M&A 専門業者は、依頼者との契約に基づき、善良な管理者の注意義務
(善管注意義務)や依頼者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ってはな
らない義務(忠実義務)を負う。また、一般に、取り扱う業務の専門性、M&A 専門業者
と依頼者との間には M&A に関する知識や情報及び具体的な相手方候補先の情報等
が M&A 専門業者に偏在している関係にあり、依頼者が M&A 専門業者の業務の妥当
性を評価しモニタリングすることが困難であること(情報の非対称性の問題)及び仲介
業務を取り扱う場合には構造的な利益相反のリスクがあること等から、M&A 専門業
者には、契約上の義務に限られない職業倫理の遵守が求められる。
中小 M&A を支援する際には、マッチング能力や交渉に係る調整ノウハウ、更に、
財務・税務・法務といった分野の専門知識が不可欠となるケースが多くあるが、支援
経験や知見の乏しい M&A 専門業者の場合には、善管注意義務の履行等の観点か
ら、適切に業務を進められないおそれがあると言える。
また、実態として M&A 専門業者の経済的利益と M&A の成立が強く結びついてい
ることもあり、場合によっては M&A 専門業者にとって M&A の成立が目的化してしま
い、必ずしも依頼者の真の利益の確保につながらないような形での成約が目指され
るおそれがあるという指摘もある。M&A 専門業者における善管注意義務(忠実義務を
含む。)の履行と職業倫理の遵守を図ることは、重要な課題と言える。
中小 M&A 市場の拡大に伴い、M&A 専門業者の新規参入も増加しており、必ずしも
M&A 支援の経験や知見を十分に有していない人材が支援に携わるケースもあると指
摘されている。そこで、仲介者及び FA は、M&A 支援に携わる人材の知識・能力の向
上及び適正な業務遂行のための取組を通じて「支援の質の確保及び向上」を図る必
要がある。
2 行動指針等の策定の必要性
中小 M&A 市場の拡大及びこれを支える M&A 専門業者の増加に鑑みると、各
M&A 専門業者の業務方針に委ねるだけでなく、中小 M&A 市場の透明性・公正性を
確保するため、一定の指針が示される必要がある。
そのため、以下では、M&A 専門業者の支援の質の確保・向上に関する取組を紹介
するとともに、M&A 専門業者にとっての M&A 支援の各工程における行動に関する指
針と、M&A 専門業者に関して問題となり得る主な事項について解説する。ここでは、
M&A 専門業者が仲介者・FA となるケースを念頭に解説することとし、M&A プラットフ
ォームを運営する M&A プラットフォーマーについては後述する。
また、金融機関、士業等専門家や M&A プラットフォーマー等が仲介業務・FA 業務
等を行う場合にも、業務の性質・内容が共通する限りにおいて、以下で記載する内容
に準拠した対応を想定している。
3 支援の質の確保・向上に向けた取組
(1) M&A 専門業者の善管注意義務(忠実義務)及び職業倫理
前述のとおり、仲介業務・FA 業務に携わるために特段の資格等は必要とされてい
ないものの、M&A 専門業者は、依頼者との契約に基づき善管注意義務(忠実義務を
含む。)を負うほか、職業倫理の遵守が求められる。
具体的には、M&A 専門業者は、仲介業務・FA業務の依頼の本旨に照らして、善良
な管理者の注意をもって仲介業務・FA 業務を処理しなければならない。また、依頼者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ってはならない。特に M&A 専門業者
が仲介者の場合には、潜在的には利益が対立する関係にある当事者から依頼を受
けて、当事者間の利害の調整を行うという業務の性質に照らして、いずれの依頼者
に対する関係でも公平・公正でなければならず、いずれか一方の利益を優先し、又は
いずれか一方の利益を不当に害するような対応をしてはならない。また、M&A 専門
業者は、契約上の義務を負うかにかかわらず、職業倫理として、依頼者の意思を尊
重し、利益を実現するための対応が求められる。
M&A 専門業者が善管注意義務を履行し、職業倫理を遵守して支援を行うため、す
なわち支援の質の確保・向上を図るためには、①知識・能力の向上や②適正な業務
遂行を図ることが重要であり、そのための取組が求められる。
また、これらの取組は、依頼者等が M&A 支援機関を選定する際の参考となり得る
ことから、これらの取組を公表する等し、適宜、依頼者等に伝えることが望ましい。
(2) 経営トップの意識(①知識・能力の向上と②適正な業務遂行に共通)
まず、①・②に共通する事項として、M&A 専門業者の支援の質の確保・向上を図る
ためには、まずはその代表者において、①知識・能力向上と②適正な業務遂行を図
ることが不可欠であることを認識し、①知識・能力の向上と②適正な業務遂行を通じ
て、質の高い支援をすることが重要である旨のメッセージを社内・外に発信する(例え
ば、経営理念や経営ビジョンにその趣旨を反映する等)。また、発信したメッセージと
整合的な取組を実施する必要がある。具体的な取組については次の(3)以下を参照
されたい。
(3) 他の支援機関(特に士業等専門家)との連携(①知識・能力の向上と②適切な業
務遂行に共通)
また、①・②に共通する事項として、M&A 専門業者の支援の質の確保・向上の一
助として、又は M&A 専門業者ごとの業務の範囲・内容等を踏まえて、他の支援機関
と積極的に連携することが望ましい。例えば、以下の取組が考えられる。
M&A専門業者の助言内容をより妥当で適切な内容とするために、助言の前提と
なる専門的な事項を士業等専門家に確認する。
専門的な知識・経験等が不足し、又は法律上の制限がある等の理由により、
M&A専門業者自身では、依頼者が必要とする支援を提供することが困難な場合
には、適切な他の支援機関による支援を受けるよう伝える(例えば、M&Aプラット
フォームを活用してマッチングを試みる、バリュエーションやデュー・ディリジェンス
(DD)を士業等専門家に依頼する、法律事務の取扱いは弁護士に相談する等の対応を伝える等)
(4) ①知識・能力の向上のための取組
①知識・能力の向上は、支援の質を確保するための前提となることから、そのため
の実効性のある取組が求められる。例えば次の取組が考えられる。
自社が提供する支援の内容に応じて求める知識・能力の水準を可能な限り明ら
かにした上で、その水準に達するよう人材育成を行う(例えば、人材育成方針の
策定・実施、社内研修の整備、社外の研修の受講支援等。)
知識・能力向上の取組や成果を適切に評価する(例えば、人事評価の一項目と
し、適切に評価するとともに、報酬・給与に反映する等。)
(5) ➁適正な業務遂行のための取組
②適正な業務遂行を通じて、支援の質を確保し、依頼者(顧客)の利益の最大化を
図るため、実効性のある取組が求められる。
ア 役員・従業員の適正な業務遂行を確保するための取組
M&A 専門業者において、役員や従業員が支援業務を行う場合、M&A 専門業者が
当該業務に係る最終的な責任を負うことから、役員や従業員に倫理観の醸成を図
り、適正な業務を確保する必要がある。そのため、例えば、以下の取組を行うべきで
ある。
役員・従業員に適正な業務遂行の必要性等を理解させるとともに、適正な業務遂
行を行う仕組みを作る(例えば、本ガイドラインを踏まえて、業務規程・業務マニュ
アルに業務遂行上のルールを記載する、業務上使用する各種書式を作成する
等)
適正な業務遂行のために適した体制で支援を実施する(例えば、M&A の支援の
経験や知識が十分でない者が業務を担当する場合には、経験や知識が十分な
者とともに業務を行わせる、その旨を社内規則等に定める等)
善管注意義務や職業倫理に抵触する行為を把握するための仕組みや、これらの
行為が見受けられた場合に適切に対応する仕組みを整備する(例えば、社内相
談窓口の設置や、懲戒事由として規定し、適切に懲戒権を行使できる体制を整
えておく等)
依頼者から業務に関する苦情等を受け付け、適切に対応する仕組み・体制を整
備する。
イ 外部委託先の適正な業務遂行を確保するための取組
M&A 専門業者が、業務の一部を第三者に委託する場合(例えば、一部の業務を別
の仲介者・FA に委託したり、マッチング支援のための架電を営業専門会社に依頼し
たりする場合。ただし、依頼者が元の支援機関以外の者に直接、デュー・ディリジェンス(DD)を依頼するような場合を除く。)であっても、当該委託業務に係る最終的な責
任を免れるものではないことから、外部委託先における業務の適正な遂行を確保す
る必要がある。そのため、M&A 専門業者が委託する業務の内容に応じて、例えば、
以下の取組を行うべきである。
委託する業務の内容に照らして、適切な委託先を選定する(例えば、選定基準を
定め、当該基準に従い選定する等)
第三者に業務の一部を委託する場合の情報の取扱い等が適切なものとなるよう
にし、依頼者に説明した上で、その了承を得る(例えば、委託元である M&A 専門
業者が委託先に対し、依頼者に対し秘密保持義務を負う情報を提供する場合に
は、委託先に同様の秘密保持義務を負わせ、委託先からさらに第三者に対し情
報が提供されないこととする等)
委託先との契約において、委託する業務を明らかにする。委託先における委託
業務の実施状況を委託元が合理的に把握するための規定を盛り込むことが望ま
しい。
委託先における委託業務の実施や情報管理の状況を適切に監督・指導する(例
えば、委託先の管理に関する委託元における責任部署を明確化し、定期的又は
必要に応じて業務の遂行状況を確認する等)
委託業務に関する苦情等について委託元である M&A 専門業者が受け付け、適
切に対応する(例えば、依頼者から委託元である M&A 専門業者への直接の連
絡体制を設ける等)
(6)M&A 仲介・FA業界の実務の発展に向けた取組
M&A 仲介業務・FA 業務に従事する、可能な限り多くの事業者の積極的な関与の
下、支援の質の底上げ等のために、業界としての統一的なルールを作り、それを遵
守する等の取組が期待される。
令和3年4月、中小企業庁は、中小 M&A の推進を通じて経営資源の集約化等を推
進するための官民の取組を『中小企業の経営資源集約化等に関する検討会 取りま
とめ~中小 M&A 推進計画~』として取りまとめた。これを踏まえ、令和3年10月、
「M&A 仲介等に係る自主規制団体」として、一般社団法人 M&A 仲介協会が設立され
た。その後、令和5年12月に M&A 仲介協会により自主規制ルールとして「倫理規
程」、「コンプライアンス規程」、「広告・営業規程」、「契約重要事項説明規程」が策定・
公表された。これらのルールの遵守・浸透や必要に応じた見直し等により、個々の支
援機関の支援の質の向上を図り、中小企業が安心して支援を受けることができるよ
う、一層の効果的な取組が期待される。4 各工程の具体的な行動指針
以下では、中小 M&A の手続の流れに沿って、透明性・公正性の確保という観点か
ら、M&A 専門業者の各工程の具体的な行動指針を記載する。
4 各工程の具体的行動指針
以下では中小M&Aの手続きの流れ沿って、透明性・公正性の確保という観点か、M&A専門業の各工程の具体的行動指針を掲載する。
(1) 意思決定
通常、中小企業は M&A について十分な知見を有しておらず、自身のみでは中小
M&A の手続を進めるという意思決定に踏み切ることが難しい。そのため、仲介者・FA
は自らの専門的な知見に基づき、中小企業に対して実践的な提案を行い、中小 M&A
の意思決定を支援する必要がある。
仲介者・FA が当該意思決定に関与する際、留意すべき点は以下のとおりである。
当該中小 M&A において想定される重要なメリット・デメリットを知り得る限り、相談
者に対して明示的に説明すること
相談者の企業情報の取扱いについても善良な管理者の注意義務(善管注意義
務)を負っていることを自覚すること
また、仲介者・FA が仲介契約・FA 契約締結に向けて行う広告・営業については、
中小企業の意思決定を適切に支援するために、少なくとも以下の規律を遵守した上
で適切に実施される必要がある。なお、広告・営業の実施にあたっては、職業倫理の
遵守が求められるほか、仮に、過去の対応状況や頻度等に照らして、広告・営業先
の中小企業の事業活動や経営者の生活に多大な支障を与えるような過剰なもので
ある場合には、民法上の不法行為責任を負う可能性もあることに留意すべきである。
① 広告・営業の停止
M&A の手続を進めるという意思決定を支援する上では、相談者に潜在的に M&A
の実施意向があることが前提となる。このため、広告・営業先から M&A の実施意向
がない旨、当該仲介者・FA と契約締結しない旨又は引き続き広告・営業を受けること
を希望しない旨の意思(以下「停止意思」という。)を表示された場合には、停止意思
を拒んではならず、ただちに広告・営業を停止しなければならない。
時間の経過とともに M&A の実施意向に変化が生じる可能性も考えられるが、停止
意思を表示した者に対し、仮に広告・営業を再開する場合には、慎重に検討の上、組
織的な判断(明確化された基準の下での一担当者限りではなく組織的なプロセスによ
る判断であって、組織的に記録され、事後に検証可能であるものをいう。)による必要
がある。ただし、停止意思を表示した者が、将来にわたって又は一定の期間において、
全ての広告・営業を受けることを明確な形で拒否した場合における再開は当然不可
である。また、広告・営業の再開後に改めて停止意思を表示された場合には、ただち
に広告・営業を停止しなければならない。
さらに、上記の措置を実行可能とする観点から、広告・営業先から停止意思の表示があった場合については、その内容を組織的に記録し、共有しなければならない。
② 広告・営業の内容・方法
広告・営業先の中小企業の意思決定を適切に支援する観点から、以下のような広
告・営業は行ってはならない。
⚫ 仲介者・FA の名称、勧誘を行う者の氏名、仲介契約・FA 契約の締結について勧
誘する目的である旨を告げずに行う広告・営業
⚫ 仲介契約・FA 契約を締結し、M&A の手続を進めるか否かの意思決定の上で必
要な時間を与えず、即時の判断を迫る広告・営業
⚫ M&A の成立の可能性やその条件等の仲介契約・FA 契約を締結し、M&A の手続
を進めるか否かの意思決定に影響を及ぼす事項について、虚偽若しくは事実に
相違する又は誤認を招くような広告・営業(例えば以下)
譲り受け(譲り渡し)の意向が無い企業若しくはその意向を確認していない企
業又は実際には存在しない企業に関して、譲り受け(譲り渡し)の意向があると
偽り又はそのように誤認させるもの
譲渡額の水準について過大なバリュエーションを提示するもの(なお、仲介者
がバリュエーションを実施する場合、確定的なバリュエーションではない旨、必
要に応じて士業等専門家等のセカンド・オピニオンを求めることができる旨等を
明示する必要がある(本章Ⅱ4(3)「バリュエーション(企業価値評価・事業価
値評価)」参照)
譲り渡し側(譲り受け側)の財務状況、今後の見通し等の情報について、事実
に相違する、又は実際のものよりも優良であり、若しくは有利であると誤認させ
るもの
その他 M&A の成立の可能性やその条件について確定的な判断を下すもの
(2) 仲介契約・FA 契約の締結
仲介者・FA は、依頼者である中小企業との間で、仲介契約・FA 契約を締結する。
その際、仲介者・FA は、それぞれ、業務形態の実態に合致した契約(仲介契約・FA
契約)を締結する必要がある。また、仲介者・FA は、依頼者の意向を十分に理解し、
契約締結後、当該契約上の義務として、契約内容に係る手続の各実施段階において、
依頼者の意向に沿った手続を実施する必要がある。
依頼者は、M&A について必ずしも十分な知識を有しているとは言えず、また、一般
に、仲介契約・FA 契約の内容は多岐にわたる複雑なものとなるため、仲介と FA の違
い等や契約内容を理解することは容易ではない。依頼者は、自己のニーズを踏まえ、
仲介と FA いずれの業務の提供を受けるべきかを検討し、また、契約内容を適切に理
解した上で、仲介者・FA との契約の締結を検討すべきである。
そこで、仲介者・FA は、契約締結前に当該中小企業に対し契約に係る重要な事項
について明確な説明を行い、当該中小企業の納得を得ることが必要である。具体的
には、契約に係る重要な事項を記載した書面を交付して(メール送付等といった電磁
的方法による提供を含む。)、説明しなければならない。
説明は、契約を締結する権限を有する者に対し行う必要がある。依頼者が個人の
場合には、当該個人に対し、法人の場合には、代表者又は契約締結について委任を
受けた者に対し説明を行う。
説明後、依頼者が契約内容を理解し、契約締結について適切に判断するために、
依頼者に対し、十分な検討時間を与えるべきである。
仲介者・FA 側で重要な事項を説明する者は、依頼者からの質問や意見にも適切
に対応できるような、十分な経験・能力を有する者が行うことが望ましい。
書面等に記載して説明すべき重要な点は以下のとおりである(参考資料11「M&A
仲介契約/FA 契約 重要事項説明書サンプル」を適宜活用されたい。)。
なお、仲介者又は FA が依頼者との間で、仲介契約又は FA 契約とは別に、秘密保
持契約その他名称を問わず、以下の説明項目が含まれる契約を締結しようとする場
合には、仲介契約等の締結前の説明に準じた対応をすることが望ましい。
譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と契約を締結し双方に助言する仲介者、一方
当事者のみと契約を締結し一方のみに助言するFAの違いとそれぞれの特徴(仲
介者として両当事者から手数料を受領する場合には、その旨も含む。)
※ 仲介者の場合は、譲り渡し側・譲り受け側の双方が依頼者となるため、構造的
にいずれかの当事者との間で、利益相反のおそれが生じる。したがって、仲介
者は、中立性・公平性をもって譲り渡し側・譲り受け側の両当事者に接する必
要があるため、利益相反のおそれがあるとして想定される事項につき、事前に
両当事者に説明を行い、了承を得ておく必要がある(本章Ⅱ5「仲介者におけ
る利益相反のリスクと現実的な対応策」参照)。
提供する業務の範囲・内容(バリュエーション、マッチング、交渉等のプロセスごと
に提供する業務の範囲・内容)
※ なお、提供しない業務について、誤解が生じないよう、明確に説明することが望
ましく、少なくともデュー・ディリジェンス(DD)、バリュエーション(企業価値評価・
事業価値評価)については、以下の説明が求められる。
仲介者・FA が、デュー・ディリジェンス(DD)に関して、スケジューリング、必
要書類の準備・受渡しやヒアリングの設定等に関する助言や補助を行うに
留まり、仲介者・FA 自らがデュー・ディリジェンス(DD)を実施しない場合に
は、その旨を明確に説明し、デュー・ディリジェンス(DD)については他の支
援機関に依頼する必要があることを明確に伝える等。
また、仲介者の場合、バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デ
ュー・ディリジェンス(DD)といった、一方当事者の意向を踏まえた内容とな
りやすい工程に係る結論を決定しない場合(本章Ⅱ5「仲介者における利益
相反のリスクと現実的な対応策」参照)、その旨及び依頼者に対し、必要に
応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える等。
※ 仲介者・FAには、当事者間で争いに発展するリスクに関して依頼者との間で適
切に相談を行った上で、最終契約の内容を調整することが求められるが(本章
Ⅱ4(8)「最終契約の交渉・締結」参照)、一方で、仲介契約・FA 契約に基づき
提供する役務の範囲がクロージングまでである場合には、クロージング後の役
務提供が難しい旨を説明する必要がある。また、役務の範囲に関わらず当事
者間で生じた紛争解決に向けた支援は非弁行為(弁護士法第 72 条)に該当し
うるおそれがある旨も説明しなければならず、その場合には必要に応じて弁護
士等の意見を求める必要がある旨を説明することが望ましい。
担当者の保有資格(例えば、公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士、
行政書士、司法書士、社会保険労務士、その他会計に関する検定(簿記検定、
ビジネス会計検定等)等)、経験年数・成約実績
手数料に関する事項(算定基準、金額、最低手数料、既に支払を受けた手数料
の控除、支払時期等)(なお、参考資料7(1)「仲介契約書(M&A 仲介業務委託契
約書)サンプル」も参照されたい。)
手数料以外に依頼者が支払うべき費用(費用の種類、支払時期等)
(仲介者の場合)相手方の手数料に関する事項(算定基準、最低手数料、支払時
期等)
秘密保持に関する事項(依頼者に秘密保持義務を課す場合にはその旨、秘密保
持の対象となる事実、士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センター等に開示
する場合の秘密保持義務の一部解除等)
直接交渉の制限に関する事項(依頼者自らが候補先を発見すること及び依頼者
自ら発見した候補先との直接交渉を禁止する場合にはその旨、直接交渉が制限
される候補先や交渉目的の範囲等)
専任条項(セカンド・オピニオンの可否等)
テール条項(テール期間、対象となる M&A 等)
契約期間(契約期間、更新(期間の延長)に関する事項等)
契約の解除に関する事項及び依頼者が仲介契約・FA 契約を中途解約できること
を明記する場合には、当該中途解約に関する事項
責任(免責)に関する事項(損害賠償責任が発生する要件、賠償額の範囲等)
※ 損害賠償責任(免責)に関する条項の法的な有効性について、本ガイドラインは
言及するものではない。また、かかる条項を依頼者に対して説明することと、当該条項の法的な効力の有無とは別の問題であり、説明したからといって法的な
効力が認められる関係にはないことを付言しておく。
契約終了後も効力を有する条項(該当する条項、その有効期間等)
(仲介者の場合)両当事者間において利益の対立が想定される事項
(譲り渡し側への説明の場合)譲り受け側に対して実施する調査の概要(調査の
実施主体、財務状況に関する調査、コンプライアンスに関する調査、事業実態に
関する調査等)
(譲り渡し側への説明の場合)業界内での情報共有の仕組みへの参加有無(参
加していない場合にはその旨)
特に手数料・提供する業務の内容や相手方の手数料に関する事項については以
下に沿って説明することが求められる。
① 手数料・提供する業務内容の説明
仲介契約・FA 契約締結前の説明においては、受領する手数料が提供する業務の
内容に見合っているかという点について依頼者から納得を得ることが重要である。こ
のため、第1章Ⅴ4(1)「仲介契約・FA 契約前の手数料と提供する業務内容に係る
確認・対応」に記載する事項に基づき、手数料に関する事項を明確に説明するととも
に、当該手数料を対価として自らが提供する業務の内容を説明する必要がある。
具体的には、成功報酬において採用される報酬率、報酬基準額(譲渡額/純資産/
移動総資産等)、最低手数料の額、報酬の発生タイミング(着手金/月額報酬/中間金
/成功報酬)等の手数料の算定基準や提供する具体的な業務の内容について書面を
交付して(メール送付等といった電磁的方法による提供を含む。)、説明しなければな
らない。
また、提供する業務については、M&A のプロセスごとにどういった業務を提供す
るのか整理(各プロセスにおいて特定の一部又は全部の業務を提供しない場合に
は、その旨の整理も含む。)を実施の上、書面を交付して(メール送付等といった電磁
的方法による提供を含む。)、説明しなければならない。具体的には、仲介者・FA は
以下の表の「M&A プロセス」ごとに、提供する主な業務を整理の上、適切な説明を
検討する必要がある(以下の表の「提供する主な業務の詳細」の列には例を記載。)。
また、担当者の経験・専門的知見を明示する観点から、担当者の保有資格(例え
ば、公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士、行政書士、司法書士、社会保
険労務士、その他会計に関する検定(簿記検定、ビジネス会計検定等)等)、経験年数・成約実績についても説明すべきである。また、担当者の経験・専門的知見を補う
ために案件をサポートする者がいる場合には、サポートの内容とともに当該者の保有
資格、経験年数・成約実績についても説明することが望ましい。
その上で、契約締結前の説明において仮に依頼者から納得が得られず、仲介者・
FA に対して業務や手数料に関する交渉が申し入れられた場合には、誠実に対応を
検討しなければならない。
また、依頼者の適切な選択を促すためには、契約締結前の説明よりさらに前の段
階から手数料体系が透明化されることが重要である。このため、仲介者・FA は、手数
料の算定基準を自社のホームページ等において公表することが望ましい。
② 相手方の手数料の開示
双方の依頼者から手数料を受領することが一般的である仲介者は、本章Ⅱ5「仲
介者における利益相反のリスクと現実的な対応策」に記載のとおり、依頼者に対して
双方の当事者から手数料を受領する旨の伝達や両当事者間で利益が対立する事項
の開示等の措置が必要となっており、M&A の成立やその条件(譲渡額等)に影響す
る事項を可能な限り明らかにすることが求められている。また、本章Ⅱ5「仲介者にお
ける利益相反のリスクと現実的な対応策」に記載のとおり、利益相反防止の観点から
バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンス(DD)といっ
た、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しないと
いった措置が必要となる等、譲渡額の交渉等の両当事者の利益が対立する工程に
おいて実施できる支援には限界がある。
上記を踏まえると、第1章Ⅴ4(1)②「(仲介契約の場合)相手方の手数料に関する
事項について」に記載のとおり、相手方が支払う手数料の額は、依頼者の利益に影
響する構造にあることから、仲介契約締結前に、依頼者から受領する手数料に関す
る事項に加えて、相手方の手数料に関する事項(報酬率、報酬基準額(譲渡額/純資
産/移動総資産等)、最低手数料の額、報酬の発生タイミング(着手金/月額報酬/中
間金/成功報酬)等についても、相手方を含めた手数料の総額が M&A の成立やその
条件(譲渡額等)に影響を与える可能性がある旨も含め、書面を交付して(メール送
付等といった電磁的方法による提供を含む。)、依頼者に対し説明するべきである。
また、仲介契約締結前に説明した相手方の手数料を増額する場合(例えば、仲介
契約締結前には特定の相手方を念頭においたものではなく、仲介者の標準的な手数
料体系に基づいて説明を行ったときに、マッチングした相手方に対して適用される手
数料体系が異なっていた場合や相手方と仲介者の間の仲介契約の内容が変更され
た場合等)も考えられ、この場合には、増額の内容を依頼者に対し開示するべきである。
もっとも、取引の円滑化の観点から、依頼者との間で相手方の手数料を増額する
場合に開示が必要となる基準について、予め合意し、当該基準に基づいて開示を行
うことが考えられる。ただし、当該基準は具体的かつ定量的な基準として定められる
べきであり、包括的に開示を不要とするものや定性的な基準にとどまるものとすべき
ではない。少なくとも、報酬率、報酬基準額、最低手数料それぞれについて、依頼者
に説明した当初の額から増額となる変更を行う場合に開示が必要となる基準を依頼
者との間で合意するべきであり、その他の増額となる変更についても、定額又は定率
の定量的な増額幅が確定する変更については定量的な基準により、増額幅が確定し
ない変更についてはその取扱いについて合意することが求められる。
【相手方の手数料が増額となる変更が生じた場合における開示が必要となる基準の例】
さらに、依頼者の手数料を減額する場合には、当該減額の実質的な効果が相手方
の手数料の増額によって相殺されていないことを明示する観点から、当初説明した相
手方の手数料を増額していない旨を依頼者に対して改めて説明するべきである。
なお、FA の場合についても、相手方を支援する FA から支払を受ける場合には当
該支払の源泉は自らの依頼者の交渉・調整の相手方から発生するため、当該支払を
受ける場合には、支払額や支払の名目、支払時期について依頼者に対し説明するべ
きである。
(3) バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
バリュエーションの実施に当たっては、評価の手法や前提条件等を依頼者に事前
に説明し、評価の手法や価格帯についても依頼者の納得を得ることが必要である。
その際、当該評価の手法や価格帯が唯一のものではないことを明示し、依頼者の中小 M&A において当該評価の手法や価格帯が適切である理由についても、具体的に
説明することが必要である。
なお、一般的に、バリュエーションには一方当事者の意向が反映されやすいため、
両当事者を依頼者とする仲介者は、確定的なバリュエーションを実施すべきではない。
仲介者は、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える
必要がある。
また、仲介者が参考資料として自ら簡易に算定(簡易評価)した、概算額・暫定額と
してのバリュエーションの結果を両当事者に示す場合には、以下の点を両当事者に
対して明示すべきである。
あくまで確定的なバリュエーションを実施したものではなく、参考資料として簡易
に算定したものであるということ
当該簡易評価の際に一方当事者の意向・意見等を考慮した場合、当該意向・意
見等の内容
必要に応じて士業等専門家等の意見を求めることができること
(4) 譲り受け側の選定(マッチング)
マッチングについて、仲介者・FA は譲り渡し側の希望を取り入れた候補先リスト(ロ
ングリスト)を作成するとともに、打診の順番や方法を決めることが多い。
その後、通常はノンネーム・シート(ティーザー)で候補先に対して打診を行った後、
関心を示した候補先をリスト(ショートリスト)にして、これらの候補先に対し、譲り渡し
側の名称を含む企業概要書等の詳細資料の開示(ネームクリア)を行う流れで手続
が進む。秘密保持を徹底する観点から、ネームクリアは、ノンネーム・シート(ティーザ
ー)等の提示により、興味を示した候補先に対して、譲り渡し側からの同意を取得し、
候補先との秘密保持契約を締結した上で、実施される必要がある。
譲り渡し側からの同意については、秘密保持を徹底しつつ、譲り渡し側の希望に沿
った形でマッチングを実施する観点から、原則として開示先となる候補先ごとに個別
に同意を取得することが必要である。もっとも、譲り渡し側が、早期のマッチングを希
望する場合等には、個別の同意によるのではなく、一定の基準の下で、仲介者・FA
がネームクリア先を選定することも考えられる。ただし、この場合であっても、ネームク
リア先となる候補先との秘密保持契約の締結は必須である。また、包括的にネームク
リア先を一任すべきでなく、譲り渡し側が、個別同意によらないことによるリスクも十
分に理解の上で、開示できる範囲を判断する必要がある。このため、一定の基準の
下で、仲介者・FA がネームクリア先を選定することとする場合、仲介者・FA は、以下
を実施しなければならない。
① 譲り渡し側に対し、以下の事項を明示的に説明し、譲り渡し側がこれらについて
十分に理解した上で、一定の基準の下で仲介者・FA がネームクリア先を選定す
ることによるメリットを優先する意向があることを確認すること
秘密保持の観点からは、譲り渡し側が希望する先に絞ってネームクリアを行
うため、開示先となる候補先ごとに個別に同意を取得することが通常である
こと
一定の基準を設定したとしても、ネームクリアを一任することにより、譲り渡し
側が希望しない候補先に対する開示が行われるリスクがあること
② 譲り渡し側の希望を踏まえ、ネームクリアを行う先に係る可能な限り具体的な
基準(希望する業種・所在地等、排除する個社(取引先、同業他社等)等)を設定
すること
③ 譲り渡し側からの指示があった場合には、速やかにネームクリアを中止する旨
を明示的に確約すること
また、秘密保持契約締結前の段階で、譲り渡し側に関する詳細な情報が外部に流
出・漏えいしないよう注意する必要がある。さらに、依頼者にはマッチングの進捗等に
ついて遅滞なく報告することが望まれる。
なお、譲り渡し側・譲り受け側のマッチングには、当初の想定以上に長期間を要す
ることもある。そのような場合には、月額報酬制を採用している M&A 専門業者は、必
要に応じて依頼者と協議し、月額報酬の適正な金額への減免等に応じることが望ま
しい。
(5) 交渉
中小 M&A においては、特に譲り渡し側が M&A を経験することが初めてである場合
が多く、慣れない依頼者にも中小 M&A の全体像や今後の流れを可能な限り分かりや
すく説明すること等により、寄り添う形で交渉をサポートすることが必要である。特に、
譲り渡し側・譲り受け側の経営者同士の面談(トップ面談)は、当該中小 M&A 成約の
可否をも左右する重要な面談であるため、面談を円滑に進められるよう当日の段取り
を含め丁寧にサポートすることが望まれる。
仲介者は、一方当事者の利益のみを図ることなく、中立性・公平性をもって、両当
事者の利益の実現を図る必要がある。
(6) 基本合意の締結
譲り渡し側の資金繰りが厳しい等、基本合意締結のための時間的な余裕がない場
合等を除き、それまでの交渉の結果を確認し、またデュー・ディリジェンス(DD)に進む
前に譲り受け側に独占的交渉権を付与する等の趣旨から、原則として基本合意を締
結することが望ましい(参考資料7(3)「基本合意書サンプル」参照)。
なお、入札手続を行う場合等に、譲り受け側からの意向表明書に対する応諾書を
譲り渡し側が提出することにより、基本合意とほぼ同様の合意を締結したものとして
扱うこともある。
(7) デュー・ディリジェンス(DD)
デュー・ディリジェンス(DD)は主に譲り受け側により実施される。その際、譲り受け
側は、譲り渡し側に対して大量の資料を要求することが一般的である。譲り受け側の
要求に対応し、譲り受け側に不信感を与えないためにも、譲り渡し側に対し当該資料
の準備を促し、サポートすることが必要である。特に、小規模企業の場合、会計帳簿
や各種規程類等が整備されていない場合が多いことから、譲り受け側の意向も踏ま
えつつ、早い時期から今後求められることが想定される書類やデータ等の整備を促
す必要がある。
なお、デュー・ディリジェンス(DD)は一方当事者の意向が反映されやすいことから、
両当事者を依頼者とする仲介者は DD を自ら実施すべきでなく、DD 報告書の内容に
係る結論を決定すべきでない(ただし、デュー・ディリジェンス(DD)の実施者(譲り受
け側が依頼する別の支援機関又は譲り受け側自身)の下で、譲り渡し側における開
示資料の整理・作成のサポートや DD の実施スケジュールの調整・管理といった直接
的に DD の調査内容の検討や調査を踏まえた評価・判断に影響しない範囲での支援
することは可能。)。また、仲介者は依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の
意見を求めるよう伝える必要がある。仲介者は、譲り受け側によるデュー・ディリジェ
ンス(DD)の場合には、可能であれば、譲り渡し側に過大な負担が生じないよう DD の
調査対象を適切な範囲内とし、デュー・ディリジェンス(DD)の結果を譲り渡し側にも開
示して情報共有するよう、譲り受け側に対して働き掛けることが望ましい。
(8) 最終契約の交渉・締結
仲介者・FA は、最終契約の締結までの期間において、譲り渡し側・譲り受け側の双
方が可能な限り納得し、かつ M&A 成立後に当事者間でトラブルが発生するリスクを
低減した形で(低減の上でなおリスクが残る場合は、少なくともそのリスクを当事者が
理解した形で)、最終契約が締結されるように支援する必要がある。
このため、仲介者・FA には、最終契約後・クロージング後に当事者間での争いに発
展する可能性があるリスクについて、最終契約の締結までの調整の実施や依頼者へ
の説明といった対応が求められる。具体的にはリスクの重要性に応じ、認識の有無
に関わらず調整・説明するリスク、認識した段階で調整・説明するリスク、といった2段
階での対応が考えられる。この点、第1章Ⅱ3(8)「最終契約の交渉・締結」に記載す
るそれぞれのリスクについて、その重要性に鑑みると、少なくとも以下の粒度ですることが求められる。
① 認識の有無にかかわらず対応するリスクへの対応
ア 譲り渡し側の経営者保証の扱い
譲り渡し側の経営者保証の扱いについては、案件によっては M&A 成立後に大きな
トラブルに発展する可能性もあることから、仲介者・FA は、譲り渡し側経営者と方針を
相談の上、対応を検討しなければならない。具体的には、譲り渡し側経営者の経営
者保証に係る意向を丁寧に聴取するとともに、士業等専門家(特に弁護士)や事業承
継・引継ぎ支援センターへの相談や保証の提供先である金融機関等に対する M&A
成立前の相談も選択肢である旨を説明しなければならない。ただし、金融機関等に対
する事前相談については、M&A 成立前に当該金融機関等に情報提供を行うことによ
る留意点(M&A が成立しなかった場合における情報の扱い等)についても伝えた上で、
譲り渡し側経営者の適切な判断を支援しなければならない。
特に、譲り渡し側のキャッシュフローの悪化・債務超過等が M&A の背景として存
在する場合には、譲り渡し側の経営者は、時間的な切迫性や他の譲り受け側が容易
に見つからないなどの事情から焦燥感を覚え、譲渡額等の形式的な条件のみに注意
が向き、最終契約上の義務の内容やその不履行リスクを正しく評価できない可能性
がある。このため、仲介者・FA は、そもそも M&A を実行すべきかも含めて譲り渡し側
と慎重に検討を行うことが求められる。
その上で、譲り渡し側が上記相談を希望する場合には、仲介者・FA は、その実施
を拒むべきではなく、仲介契約・FA 契約等における秘密保持条項の対象から相談先
の士業等専門家や金融機関等を除外する必要がある。さらに、譲り受け側との契約
において秘密保持条項がある場合には、譲り受け側に対して、秘密保持条項の対象
から相談先の士業等専門家や金融機関等を除外するよう働きかけなければならない。
加えて、事前相談を行うかにかかわらず、最終契約における経営者保証の扱いは
慎重に検討すべきである。最終契約の内容は譲り渡し側・譲り受け側により調整され
るものであるが、上記のとおり経営者保証の扱いの重要性に鑑みると、保証の解除
又は譲り受け側への移行を想定する場合には、仲介者・FA は、最終契約において譲
り受け側の義務として保証の解除又は移行を明確に位置付けることを検討すること
が求められる。具体的には、譲り受け側の義務として保証の解除又は移行を位置付
けた上で、保証の解除又は移行のクロージング条件としての設定や仮に保証の移行
がなされなかった場合を想定した条項(例えば、契約解除条項や補償条項等)を盛り
込む方向で調整するべきである。
イ デュー・ディリジェンス(DD)の非実施
ウ 表明保証の内容
仲介者・FA は、依頼者に対し、第1章Ⅱ3(7)「デュー・ディリジェンス(DD)」に記載
のとおり、デュー・ディリジェンス(DD)は、譲り渡し側・譲り受け側双方にとって重要な
プロセスである旨を説明しなければならない。仮に予算の制約がある場合であっても、
検討対象を絞るなどの工夫をした形でのデュー・ディリジェンス(DD)の実施を推奨す
ることが望ましい。
また、仲介者・FA は、依頼者に対し、第1章Ⅱ3(8)③「表明保証の内容」に記載の
とおり、表明保証の内容はデュー・ディリジェンス(DD)の結果を踏まえて適切に検討
されるべきであり、期間や責任上限が設定されていない場合や適用場面が一義的に
明確でない規定が存在する場合、譲り渡し側が過大な表明保証責任を負担すること
となり、当事者間で争いが生じるリスクがある旨を説明しなければならない。
② 認識した段階で対応するリスクへの対応
エ クロージング後の支払・手続
オ 最終契約後の支払の調整・修正
カ 譲り渡し側の資産・貸付金の最終契約後整理
キ 最終契約からクロージングまでの期間
仲介者・FA は、これらのリスクを認識した段階で当事者に対し、当該リスクの詳細
とリスクが顕在化した場合に生じうる結果について可能な限り具体的に説明すること
が望ましい。
なお、仲介者・FA は、両当事者間での調整が十分になされていない段階において、
これらのリスクを生じさせる条項やスキームを安易に提案すべきでなく、慎重に検討
の上、仮に提案する場合には、組織的な判断(明確化された基準の下での一担当者
限りではなく組織的なプロセスによる判断であって、組織的に記録され、事後に検証
可能であるものをいう。)による必要があり、提案の際には、リスクの詳細とリスクが
顕在化した場合に生じうる結果について可能な限り具体的に説明しなければならない。
最終契約の締結に当たっては、契約内容に漏れがないよう依頼者に対して再度の
確認を促すことが必要である。最終契約は、両当事者の権利義務を規定する重要な
ものであるため、可能な限り、中小 M&A に関する知見と実務経験を有する弁護士の
関与の下で締結することが望ましい。
また、仲介者・FA は、最終契約の内容等に上記①②等の最終契約締結後・クロー
ジング後に当事者間での争いに発展する可能性があるリスク事項が含まれることな
った場合、改めて最終契約締結前に当該リスク事項の詳細とリスクが顕在化した場
合に生じうる結果について、可能な限り具体的に説明することが望ましい(参考資料
12「最終契約におけるリスク事項についての説明」を適宜活用されたい。)。
(9) クロージング
クロージングに向けた具体的な段取りを整えた上、当日には譲り受け側から譲渡
対価が確実に入金されたことを確認することが必要である。また、不動産の所有権移
転・担保抹消に伴う登記手続等を要することもあるため、クロージングにおいて登記
必要書類の授受等を行うこともある。専門的な知見を要すると判断した場合には、司
法書士等の士業等専門家等にも関与を求めることが必要である。
(10) クロージング後(ポスト M&A)
第1章Ⅱ3(10)「クロージング後(ポスト M&A)」に記載する点に留意しながら、譲り
受け側による事業の引継ぎが円滑に行われるよう、依頼者に対して丁寧に助言する
こと等が望まれる。
特に、譲り渡し側経営者の譲り渡す事業に対する愛着にも留意しつつ、円滑な引
継ぎが可能となるよう心情面を含めてサポートすることが望まれる。
5 仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策
譲り渡し側・譲り受け側は、M&A の当事者であり、M&A の成立、その内容や条件
等に関し、それぞれの利益が対立し得る関係にある。仲介者は、このような関係にあ
る両当事者から依頼を受けて、M&Aが成立するよう利害を調整する業務を行うが、一
方の利益を優先し、又は一方の利益を害するリスクがあると指摘されている(仲介者
における利益相反のリスク)。なお、利益相反が直ちに違法となるものではない。
譲り渡し側・譲り受け側は、M&A の成立という共通の目的の実現に向けて調整を
行うが、その条件において、例えば譲渡対価については、譲り渡し側にとっては高い
方が望ましい一方、譲り受け側にとっては安い方が望ましく、構造的に譲り渡し側・譲
り受け側の両者間において利益が対立する部分もある。そのような状況において、仲
介者が一方当事者(特に、リピーターになり得る譲り受け側)の利益を優先して取引を
まとめるように動く動機があるという構造的な利益相反のリスクが指摘されている(なお、これに対しては、譲渡額が増加すると、これに連動して仲介者・FA の手数料も増
加する形になることがあり、その場合には、逆に譲り渡し側の利益を優先して取引を
まとめるように働く動機があるという指摘もある。)。
このように利益相反のリスクはあるものの、中小 M&A の実務においては、FA より
も仲介者という形態の方が多く用いられているのが現状であり、中小 M&A の実現を
促進させる上で、両当事者の共通の目的である M&A の成立を目指し、助言や調整
を行うといった役割も勘案すると、仲介者という業態を中小 M&A において不適切であ
ると断ずることは現実的ではない。そこで、仲介者は、利益相反のリスクを最小限と
するため、最低限、以下のような措置を講じることが必要である。
譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるというこ
と(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められて
いる場合には、その旨)を、両当事者に伝える。
バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンス(DD)と
いった、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定し
ない。依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益の対立が想定される事
項について、各当事者に対し、明示的に説明を行う。また、別途、両当事者間に
おいて利益の対立が想定される事項に係る情報(一方当事者にとってのみ有利
又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、各当事
者に対し、適時に明示的に開示する。
さらに、仲介者は両当事者から依頼を受ける以上、両当事者に対して中立・公平で
なければならず、不当に一方当事者の利益又は不利益となるような利益相反行為を
行ってはならない。特に、仲介者自身又は第三者の利益を図る目的で当該利益相反
行為を決して行ってはならない。このため、少なくとも、以下の行為を行ってはならず、
仲介契約書においてこれらの行為を行わない旨を仲介者の義務として定めなければ
ならない。
譲り受け側から追加で手数料を取得し、当該譲り受け側に便宜を図る行為(当事
者のニーズに反したマッチングの優先的実施又は不当に低額な譲渡価額への誘
導等)
リピーターとなる依頼者を優遇し、当該依頼者に便宜を図る行為(当事者のニー
ズに反したマッチングの優先的実施又は不当に低額な譲渡価額への誘導等)
譲り渡し側(譲り受け側)の希望した譲渡額よりも高い(低い)譲渡額で M&A が
成立した場合、譲り渡し側(譲り受け側)に対し、正規の手数料とは別に、希望し
た譲渡額と成立した譲渡額の差分の一定割合を報酬として要求する行為
一方当事者から伝達を求められた事項を他方当事者に対して伝達せず、又は一
方当事者が実際には告げていない事項を偽って他方当事者に対して伝達する行為
一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を認識した場合に、当該情報を当
該当事者に対して伝達せず、秘匿する行為
6 不適切な譲り受け側の排除に向けた取組
両当事者間で締結された最終契約における譲渡額の支払をはじめとした譲り渡し
側・譲り受け側双方が負う義務の確実な履行は M&A の成立の上での前提であり、
その適切な履行の実現を担保していくことが重要である。
一方、M&A に関連して違法と疑われる行為(例えば、M&A の成立後に譲り渡し
側の資金を個人口座に送金する等)、最終契約に定めた義務の不履行・M&A 実施
後に当事者双方が M&A 実施前に想定していた内容と異なる事業運営(例えば、譲
り渡し側の経営者保証を譲り受け側に移行させる想定であったにもかかわらず移行
しない等)を行う譲り受け側の存在が指摘されている。こうした不適切な譲り受け側は
中小 M&A の市場から排除していく必要があり、M&A の成立に向けた支援を行う仲
介者・FA による譲り受け側に係る情報の確認の実施が対策として考えられる。当該
確認には限界もあり、譲り受け側の信用を保証するレベルでの実施は難しい側面も
あるが、不適切な譲り受け側を最大限排除する観点から、仲介者・FA(M&A プラット
フォーマーを含む。以下(1)~(3)において同じ。)には、少なくとも以下の取組が求
められる。
(1) 譲り受け側に対する調査
仲介者・FA は、譲り受け側が、最終契約を履行し、対象事業を引き継ぐ意思・能力
を有しているか確認する観点から譲り受け側に対する調査を実施することが求めら
れる。詳細な調査の実施内容については、譲り受け側の財務状況及び事業実態の
確認、譲り受け側(代表者、役員及び株主等の関係者を含む。)の反社会的勢力へ
の該当性や過去に M&A に関するトラブルを生じさせたかといったコンプライアンス面
での確認が想定され、これらの観点から適切に調査を実施することが求められる。特
に財務状況については、想定される程度の譲渡対価を調達可能であるかといった観
点や M&A の実施後に対象事業を継続して運営できる状況にあるかといった観点から
の適切な確認が必要である。
調査のタイミングとしては、譲り受け側との仲介契約・FA 契約締結前(M&A プラット
フォーマーの場合には、M&A プラットフォームへの登録前)に加え、M&A のプロセス
が進捗する過程でも適切に必要な調査を実施し、最終契約の締結までに譲り受け側
について十分に確認することが重要である。
また、調査の方法としては、譲り受け側の税務申告書や商業登記簿の確認、これ
らに記載のある代表者、役員及び株主等の関係者も含めたコンプライアンスチェックが想定される。もっとも、譲り受け側の信頼性や譲り渡し側の財務状況等によって必
要となる調査の粒度は異なると考えられる。特に、譲り渡し側が債務超過の場合等、
M&A の成立において譲り受け側の信用が特に重要となるケースにおいては特に慎
重な調査の実施が必要であり、この場合においては譲り受け側の財務状況について、
少なくとも決算公告や税務申告書の確認により適切な確認を実施することが求めら
れる。一方で、保証債務が移行せず、簿外債務を遮断できる事業譲渡の場合等、取
引の形態によっては調査の必要性が低い場合も想定される。
いずれにせよ、仲介者・FA は、個別の案件ごとにおける必要性を踏まえ、譲り受け
側の調査の実施方法や調査の範囲、実施主体等について以下の表に基づき検討・
実施する必要がある。その上で、依頼者となる譲り渡し側に対しては、仲介契約・FA
契約締結前(M&A プラットフォーマーの場合には、M&A プラットフォームへの登録前)
に、譲り受け側の調査の概要について、説明しなければならない。
具体的には、仲介者・FA は以下の表の「調査項目」ごとに、実施する調査の内容を
検討し、依頼者への説明を行う必要がある(以下の表の「調査の概要」の列には例を
記載。)。また、説明を踏まえ、調査の内容について譲り渡し側から依頼があれば見
直しを検討しなければならない。
【譲り受け側の調査の概要の例】
また、その方法を変更する場合には変更の内容を理由とともに説明しなければな
らない。さらに、遅くとも最終契約の締結前までに、調査を実施し、その結果リスク事
項を検出した場合には、開示可能な範囲で調査の結果を譲り渡し側に報告し、取引
実行の可否や最終契約に規定すべき条項の内容を協議しなければならない。
(2) 不適切な行為に係る情報を取得した場合の対応
仲介者・FA は、過去に支援を行った譲り受け側についての情報提供や(3)の業界
内での情報共有の仕組み等により最終契約の不履行等の不適切な譲り受け側に係
る情報を取得した場合には、当該情報を担当者レベルに留めず、組織的に共有し、
当該譲り受け側に対するマッチング支援の提供を慎重に検討するための体制を構築
しなければならない。
当該譲り受け側への新たな支援の実施については、取得した情報の内容の精査
及び同様の行為による譲り渡し側への不利益の考慮により慎重に検討の上、仮に実
施する場合には、組織的な判断(明確化された基準の下での一担当者限りではなく
組織的なプロセスによる判断であって、組織的に記録され、事後に検証可能であるも
のをいう。)によらなければならない。
なお、仲介者にあっては、本章Ⅱ5「仲介者における利益相反のリスクと現実的な
対応策」に記載のとおり、両当事者間における利益が対立する事項(一方当事者にと
っての有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を各
当事者に対し、適時に明示的に開示することを求めている。このため、譲り受け側の不適切な行為に係る情報を得ている場合には、譲り渡し側に開示することが求めら
れる。
(3) 業界内での情報共有の仕組みの構築
(1)(2)の個社の取組に加え、さらに不適切な譲り受け側の排除を実行可能なも
のとしていくためには、業界内での情報共有の仕組みが求められる。具体的には、自
らが支援した譲り受け側について、最終契約の不履行等の不適切な行為を働く者に
係る情報を業界内で共有する仕組みの構築が期待される。
当該仕組みにおいては、情報共有の範囲内における情報管理を前提とした上で、
可能な限り多くの仲介者・FA が参加し、仲介者・FA の組織内において適切に情報共
有がなされることにより、中小 M&A 市場における信頼性を確保するための基盤とし
て実効性のある形で浸透することが求められる。このため、仲介者・FA 等の支援機
関にはこのような情報共有の仕組みに参加することによって、自らの支援の質、ひい
ては中小 M&A 市場の質の確保に努めることが強く望まれる。
また、仲介者・FA は、仲介契約・FA 契約締結前(M&A プラットフォーマーの場合に
は、M&A プラットフォームへの登録前)に、このような業界内での情報共有の仕組み
への参加有無(参加していない場合にはその旨)について、依頼者に対して説明しな
ければならない。
7 専任条項の留意点
譲り渡し側と M&A 専門業者との間における仲介契約・FA 契約の内容において、並
行して他の M&A 専門業者への依頼を行うことを禁止する条項(専任条項)が設けら
れることがある。これは、例えば、マッチングにおいて、譲り受け側となり得る同一の
候補先に対し同一の譲り渡し側について複数の M&A 専門業者が重ねて打診した場
合に、当該候補先の心証を害することや、譲り渡し側に関する情報が拡散することを
抑止するという観点で、それ自体は一定の合理性が認められる。
しかし、依頼者である譲り渡し側が、依頼した M&A 専門業者の助言等の内容に疑
義を持った場合等に、他の M&A 専門業者やその他の支援機関にセカンド・オピニオ
ンを求めることができないとすると、当該助言の妥当性を判断できず、ひいては中小
M&A の手続についても適切な判断を行えなくなるおそれがある。
このため、仮に専任条項を設けるとしても、その対象範囲を可能な限り限定すべき
である。例えば、依頼者が意見を求めたい部分を明確にした上、これを妨げるべき合
理的な理由がない場合には、M&A 専門業者は当該依頼者に対し、他の支援機関に
対してセカンド・オピニオンを求めることを許容すべきである。ただし、当該他の支援
機関から、相手方当事者に関する情報も含む中小 M&A に関する情報が漏えいする
リスクもあるため、セカンド・オピニオンにおいては、相手方当事者に関する情報の開示を禁止したり、相談先を法令上又は契約上の秘密保持義務がある者や事業承継・
引継ぎ支援センター等の公的機関に限定したりする等、情報管理に配慮する必要が
ある。
また、専任条項に長期間拘束されることにより、依頼者が適時に他の仲介者・FA
へ依頼できなくなるおそれがあるため、専任条項を設ける場合には、仲介契約・FA 契
約の契約期間を最長でも6か月~1年以内を目安として定めるべきである。加えて、
例えば、依頼者が任意の時点で仲介契約・FA 契約を中途解約できることを明記する
条項等も設けることが望ましい。
8 直接交渉の制限に関する条項の留意点
依頼者が、M&A の相手方となる候補先と、M&A 専門業者を介さずに直接、交渉又
は接触することを禁じる旨の条項が設けられることがある。これは、交渉の窓口を M&A
専門業者に一本化することで交渉が円滑化し得る等の観点から、それ自体は一定の
合理性が認められる。
しかし、直接交渉が制限される候補先が無限定の場合、例えば、依頼者が自ら候補
先を発見することが事実上困難となる。したがって、直接交渉が制限される候補先につ
いては、依頼者が「自ら候補先を発見しないこと」及び「自ら発見した候補先と直接交
渉しないこと(依頼者が発見した候補先との M&A 成立に向けた支援を M&A 専門業
者に依頼する場合を想定)」を明示的に了解している場合を除き、当該 M&A 専門業
者が関与・接触し、紹介した候補先のみに限定すべきである。
また、交渉の目的を限定せずに一律に交渉を禁じる場合、例えば、通常の事業に属
する取引のための交渉すら禁じられることとなり、依頼者の通常の事業を阻害するお
それがある。したがって、直接交渉が制限される交渉は、依頼者と候補先の M&A に関
する目的で行われるものに限定すべきである。
さらに、依頼者が M&A 専門業者の手数料の発生を防ぐため、あえて当該 M&A 専門
業者との契約を終了させ、その後に当該 M&A 専門業者から紹介を受けた候補先と直
接交渉して M&A を実行しようとするようなケース等については、後述するテール条項
により M&A 専門業者の手数料の発生が認められ得る。また、仮に、契約終了後、依頼
者の直接交渉を禁じた場合、例えば、依頼者が M&A 支援機関に対して手数料ないし
支援の対価相当額を支払うことを覚悟した上で M&Aを実行することが難しくなり、依頼
者の自由な経営判断を損なうおそれがある。以上を踏まえると、直接交渉の制限に関
する条項の有効期間は、仲介契約・FA 契約が終了するまでに限定すべきである。
9 テール条項の留意点
譲り渡し側と M&A 専門業者との間における仲介契約・FA 契約の内容において、当
該契約終了後一定期間(テール期間)内に、譲り渡し側が譲り受け側との間でM&Aを
行った場合に、当該契約等は終了しているにもかかわらず、当該 M&A 専門業者が手
数料を取得する条項(テール条項)が定められる場合がある。これは、M&A 専門業者
が人的・物的コストを費やして譲り渡し側の M&A 成立直前にまで達した際に、譲り渡
し側が当該 M&A 専門業者の手数料の発生を防ぐため、あえて当該 M&A 専門業者と
の契約を終了させ、その後に当該 M&A を実行しようとするようなケース等を念頭に置
かれる規定であり、M&A 専門業者による M&A 成立に対する相当程度の貢献がな
された場合には一定の合理性が認められる。
しかしながら、テール期間が不当に長期にわたる場合には、その後の譲り渡し側
の自由な経営判断を損なうおそれがある。したがって、テール期間は最長でも2年~
3年以内を目安とすることが望ましい。
また、テール条項の対象となる事業者を、当該 M&A 専門業者が関与・接触した譲
り受け側だけでなく、無限定とする場合には、譲り渡し側が当該 M&A 専門業者の手
数料の発生(場合によってはこれに関する紛争リスク)を懸念し、新しく M&A を実行す
ること自体を断念せざるを得なくなってしまうおそれがある。したがって、テール条項
の対象は、あくまで当該 M&A 専門業者が関与・接触した譲り受け側であって、譲り渡
し側に対して紹介された者のみに限定すべきである。
具体的には、ロングリスト/ショートリストやノンネーム・シート(ティーザー)の提示の
みにとどまる場合はテール条項の対象とすべきでなく、少なくともネームクリア(譲り
受け側に対して企業概要書を送付し、譲り渡し側の名称を開示すること。)が行われ、
譲り渡し側に対して紹介された譲り受け側に限定すべきである。なお、ネームクリア
は、本章Ⅱ4(4)「譲り受け側の選定(マッチング)」に記載するとおり、ノンネーム・シ
ート(ティーザー)に興味を示した候補先に対して、譲り渡し側からの同意を取得し、候
補先との秘密保持契約を締結した上で、実施される必要がある。
さらに、仲介契約・FA 契約において専任条項が設けられていない場合には、依頼
者が複数の M&A 専門業者から支援を受け、結果として複数の M&A 専門業者から
同一の候補先の紹介を受ける可能性がある。この場合、依頼者はそれまでに受けた
支援の内容等を踏まえつつ、成約に向けて支援を受ける M&A 専門業者を選択する
こととなるが、選択されなかった M&A 専門業者がテール条項を根拠として手数料を
請求すべきではない。
以上のとおり、テール条項は、譲り渡し側の自由な経営判断を損なわない限度で活用されるべきである。
VI M&A プラットフォーマー
1 M&A プラットフォーマーによる支援の特色
M&A プラットフォーマーは、インターネット上のシステムを活用し、オンラインで譲り
渡し側と譲り受け側のマッチングの場(M&A プラットフォーム)を運営する者である。
各 M&A プラットフォーマーにおいて、利用対象者や利用方法等は異なるが、一般
的には譲り渡し又は譲り受けを希望する事業者が自らインターネット上で M&A プラッ
トフォームに登録し、当該 M&A プラットフォームを閲覧することによりマッチング候補
先を探すことができるため、簡便かつ低コストでのマッチングが可能となる。
M&A プラットフォーマーは、中小 M&A の全ての工程において多額の費用を掛けら
れない、又は、M&A 専門業者等に依頼することを躊躇して中小 M&A に踏み切れない
中小企業等に対して、中小 M&A を後押しできる立場にいる。
2 主な支援内容
(1) マッチングの機会の提供
M&A プラットフォーマーは、M&A プラットフォームを提供しているが、今後、当該
M&A プラットフォームの更なる利便性や安全性の向上を図ることが望まれる。また、
今後、譲り渡し側・譲り受け側当事者に加え、保有する案件情報が少ない支援機関
においても M&A プラットフォームの利用が促進されることで、更なるマッチングの機会
の拡大が望まれる。
(2) 後継者不在の中小企業に対する中小 M&A に係る意識醸成
M&A プラットフォーマーはマッチングの場の提供のほか、自身が運営する M&A プラ
ットフォームが関与した M&A の成約事例等の発信等、インターネットを通じて広く中小
M&A の重要性等を発信している。
今後、M&A プラットフォーマーはインターネットを中心に、譲り渡し側である後継者
不在の中小企業及び譲り受け側の双方に向けて、中小 M&A に係る意識醸成を図る
ために、各種のコンテンツや支援ツールを提供していくことが望まれる。
3 中小 M&A 支援に関する留意点
以下、M&A プラットフォーマーに関する留意点を記載する。
(1) サービス内容の明確化
M&A プラットフォームの仕組みや情報の開示範囲、料金体系等を含むサービス内
容は、M&A プラットフォームによってそれぞれ違いがある。M&A プラットフォーマーは
利用者が安心して M&A プラットフォームを活用できるよう、当該 M&A プラットフォーム
のサービス内容を分かりやすく明確に表示し、利用者がサービス内容を真に理解し
て M&A プラットフォームを活用できるよう努めるべきである。
(2) 掲載案件の信頼性
M&A プラットフォームは案件掲載が容易になる仕組みであるが、それゆえに、譲り
渡し側・譲り受け側の双方にとって、掲載案件の信頼性については留意が必要であ
る。具体的には、以下の点に留意すべきである。
① 掲載案件の実在性の確認
M&A プラットフォームへの案件掲載は容易であるがゆえに、実在しない事業者や
譲り渡し・譲り受けの意思のない情報等を掲載することも可能である。そのため、M&A
プラットフォーマーは掲載された案件の実在性について、法人番号等による確認の仕
組み作りや掲載事業者の意思確認を確実に行うことが望まれる。
② 掲載案件の進捗状況の確認
M&A プラットフォームに掲載された情報が過去の情報であり、現在は状況が変わ
っていることがあり得る。その場合、交渉をしようとしても、徒労に終わってしまう可能
性があることから、掲載された情報の進捗状況を可能な限り正確に反映するため、シ
ステム上の工夫や掲載事業者への確認を可能な限り行うことが望まれる。
(3) 他の支援機関との連携
前述のとおり、他の支援機関における M&A プラットフォームの利用や複数の M&A
プラットフォーム間での連携がマッチング機会の拡大に大きく寄与することから、M&A
プラットフォーマーはこのような連携を拡大していくために、積極的に他の支援機関に
働き掛けていくことが望まれる。
また、中小 M&A はマッチング後にも様々な工程がある(第1章Ⅱ1「中小 M&A フロ
ー図」参照)ことから、マッチング後の支援も重要である。したがって、一部 M&A プラ
ットフォームが導入しているような、中小 M&A の支援に精通した M&A 専門業者や士
業等専門家等との連携や、当事者同士による手続進行を IT 活用等により支援する
仕組みの整備、事業承継・引継ぎ支援センターとの連携を行っていくことが望まれる。
◆ 参考資料一覧
参考資料は以下のとおりである。
1 中小 M&A の主な手法と特徴
2 中小 M&A の譲渡額の算定方法
3 事業承継・引継ぎ支援センター連絡先一覧
4 中小 M&A の事例
5 日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援」
6 仲介契約・FA 契約締結時のチェックリスト
7 各種契約書等サンプル
(1) 仲介契約書(M&A 仲介業務委託契約書)サンプル
(2) 秘密保持契約書サンプル
(3) 基本合意書サンプル
(4) 株式譲渡契約書サンプル
(5) 事業譲渡契約書サンプル
8 円滑な廃業を支援する施策
9 各種サポートツール一覧
10 日本税理士会連合会「担い手探しナビ」
11 M&A 仲介契約/FA 契約 重要事項説明書サンプル
12 最終契約におけるリスク事項についての説明書サンプル
◆ 終わりに(第3版)
今回の改訂では、第2版改訂時と同様に M&A 専門業者の支援の質を確保する観
点や、仲介者・FA が提供する業務の内容と手数料に係る事項、さらに当事者間でのリ
スク事項への対応、といった観点から更なる追記を図った。
M&A の実施を検討する中小企業においては、今回の改訂において追記した仲介
者・FA が提供する業務の内容・質とその対価としての手数料に係る事項を参照の上、
必要に応じてセカンド・オピニオンの活用も検討しながら、支援を受ける仲介者・FA を
吟味の上、選定することが期待される。また、今回の改訂において追記した M&A 後
に当事者間でトラブルに発展しうるリスクについても参照の上、仲介者・FA やその他
支援機関から適切な支援を受けながら、自らでも当該リスクについて吟味し、M&A
の実行や条件について、慎重に検討することが望まれる。
また、M&A 支援機関においては、今回の改訂において明記された広告・営業、(仲
介者の場合)利益相反に係る規律を遵守するとともに、業務の内容・質、手数料(仲
介者の場合には相手方の手数料含む。)に関する説明、最終契約におけるリスク事
項に係る説明・対応を適切に実施することが期待される。
なお、中小 M&A を取り巻く情勢は変化しており、本ガイドラインについては、引き続
き、実務の発展に合わせて、随時、必要な見直しを行うことが期待される。以上
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